今年ビットコインで気になったニュースに世のAIブームとの接点がありました。

5月29日に、ビットコインでギフトカードを販売している老舗のBitrefillがAIエージェントにMCP(AIが呼び出せるAPIのようなもの)を通して自律的にビットコイン決済を実行させることに成功したとツイートしました。添えられた動画にはAIがBitrefillでSteamのギフトカードを購入する様子が映っています。

実はAIとビットコインの接点に関して、2年前にLightning Labsが発表したLangChain Bitcoinというツールがありましたが、当時これの温度感が自分には伝わらなかったので割とスルーしてしまった経緯があります。(実際、AIにビットコイン決済任せたいか?プロンプトエンジニアリングで資金抜かれるの怖くない?と思っていました)

自分の気持ちはともかく、マーケットはAIにビットコイン決済させたいようなので、今回は襟を正してAIとビットコイン決済について考えてみました。

・Bitrefillが世界初の自律的なAIエージェントによるライトニング払いを実行

・LangChain BitcoinはLightning Labsが2年前にリリースした、AIエージェントがビットコインを扱えるようにするツール

・AIにとって既存の決済手段よりビットコインが扱いやすい理由とは?

Bitrefillが世界初の自律的なAIエージェントによるライトニング払いを実行

冒頭のツイートにあったように、BitrefillがAIエージェントにライトニング決済させたわけですが、個人的にはこれを実行したのがBitrefillだったということが印象的でした。なぜなら、Bitrefillはただのギフトコード屋ではなく、ライトニングの歴史上も重要なプレイヤーだからです。

実はメインネットでの世界初のライトニング送金(2017/12/28)はLightning Labs社のAlex Bosworth氏によるBitrefillでの127,000 satsの商品購入でした。

また、Bitrefillとライトニングの関わりはそこにとどまらず、ライトニングがメインネットで使えるようになってわずか3カ月でBitrefillでのライトニング決済を一般リリースしたり、世界初のキャパシティが1 BTCに達するチャネルを2019/5/29に開設したりしています(こちらはノード実装Eclairの開発元であるACINQと)。今では1 BTCを超えるチャネルも少なくありませんが、当時はセルフGOXのリスクからまだ大半のノード実装においてチャネル容量は0.16777216 BTCに制限されていました。LNDがこれを超える容量のチャネル(”Wumboチャネル")を解禁したのは2020年8月のことでした。

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しかも解禁当時の0.16777215 BTCはおよそ20万円ほどです。今でいうと100万satsほどでしょうか。どれくらいライトニングがまだ若くハイリスクな扱いだったかがわかります。

このように、ライトニングの歴史において重要なアーリーアダプターの役目を果たしてきたBitrefillの取り組みだからこそ一目置く価値があるかもしれないと、比較的AIブームに対して慎重な態度だった私は見直しました。

実際にコードの補完や情報の集約にならAIを活用できてはいるんですが、まだガッツリ自律的に動いてくれるAIエージェントを使うイメージは沸いていません。おそらく自分がAIの出力をトラストできない性格なためです。もしかすると再来年くらいには優秀な僚機になってくれているかもしれませんが。

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ちなみにAIエージェントにライトニング決済させたというのは、AIエージェントが必要に応じてGoogle検索をしたりGitHubにプルリクエストを出すように、「ライトニング決済する必要がある→このMCP(API)を使う」というツールを与えたらちゃんと使えたという話です。

LangChain BitcoinはLightning Labsが2年前にリリースした、AIエージェントがビットコインを扱えるようにするツール

さて、Lightning Labsが2023年にリリースしたLangChain Bitcoinとは何なのでしょうか?

簡単に説明すると、MCPというオープンなプロトコルが生まれる前の、AIから関数を呼び出しする仕組み(OpenAPIのFunction Calling)を使ってAIがビットコインウォレットを操作するためのツールと、AIエージェントがL402プロトコルによるライトニング決済のペイウォールを理解するためのソフトウェアです。

MCPもFunction CallingもAIが外部関数を呼び出すための仕組みですが、最近MCPが流行っているのはFunction CallingはOpenAPI(GPT)専用なのに対してMCPは様々なモデルから呼び出せる共通規格だからです。Bitrefillの実験はZBDが提供するMCPサーバーを使って行われました。(OpenAPIのGPTではなく、AnthropicのClaude Sonnet 3.7というモデルです)

L402プロトコルについては以下の記事をご覧ください。

L402:有料コンテンツやAPIの認証におけるスタンダードを目指す野心的なプロトコル
概要 ・L402 (旧LSATs)はウェブ上で有料のリソースへのアクセス認証をライトニング払いで入手できるトークンで行うための規格である。 ・ユーザー情報の登録やクレジットカード決済の必要なしに有料リソースに対して少額従量課金やサブスクリプションのような決済方法を提供する。例えば有料APIの提供時にユーザー情報や支払い情報を管理することなくステートレスにアクセスを制御できる。 ・L402/LSATsを提唱したLightning Labs自身が提供するLightning Loop・Lightning Poolサービスにすでに利用されているが、規格化によって他のサービスでの利用やLnd以外のノード実装で利用できるインターフェースが用意されやすくなる。 ・L402という名称はこれまで一般的に使われてこなかったHTTPレスポンスコード402 PAYMENT REQUIREDに由来する。 Lightning Labsが提案しているL402という認証プロトコルとAIエージェントの相性についての話題が盛り上がっています。私はAIについては詳しくないのでその相性の話は割愛しますが、広い話をす

そういえばCoinbaseが発表したL402のWeb3版であるx402プロトコルも最近話題になってましたね。そちらもAIエージェントに扱えることを価値の1つとしてましたし、CloudflareもAIがコンテンツから学習するときにコンテンツ制作者にお金を払うのが正しい姿なんじゃないかと意見していたり、いよいよ世の中の流れがその方向になっている気がします。

インターネットが無料の時代は終わり? Cloudflareがスクレイピングの有料化へ
AIが無料で使える時代はもうおしまい…かも。ネット上に存在している暗黙の了解が、終わりを告げそうです。Cloudflare(クラウドフレア)がネット上のスクレイピング(ウェブサイトなどから特定の情報を自動的に抽出・収集すること)を有料化して、AIが無料で学習することをやめさせようとしています。約30年前にGoogle(グーグル)を立ち上げたスタンフォード大学院生だったラリー・ペイジとセルゲイ・ブ

AIにとって既存の決済手段よりビットコインが扱いやすい理由とは?

AIの決済に、クレジットカードや電子マネー、あるいは草コインでなくビットコインが適するとされる理由はなんでしょうか?この答えは少なからず個人にも当てはまるものです。

まず、いずれの決済手段を使っても権限を制限することで不正に資金が流出するリスクは抑えることができます。クレカのように不正利用に対する補償が存在する場合でも、クレカをAIに使わせていれば不正利用と意図的な利用の境界は曖昧ですし、おそらく返金対応はしてもらえないでしょう。最初から限度額を決めるのが重要です。

しかも、クレカや電子マネーは対応の可否がブランドによって分かれていて、かつ地域に左右されるので、広いインターネットのどこでも使えるわけではありません。「アメックスだからだめ」「PayPayは非対応」「カード会社の審査を通らない」など、AIクローラーやグローバルな購買活動を行う個人にとって不便です。それに、もしクレカの決済が失敗して凍結されたら、AIがカード会社に電話するというのもずいぶん非効率な話です。

逆にビットコインは誰でも自由に、決済業者などに左右されずに自分の意志で導入することができ、世界に1つだけのものです。ライトニング決済は瞬時に完了し、決済を巻き戻されることもありません。AI自身だけでなく世界中にいるAIのユーザーにとっても便利なことです。マイニングを通してビットコインがAIの必要とするエネルギーやデータセンターと深い関係を持つことも抽象的には重要かもしれません。

じゃあ草コインはどうなのかというと、x402のようにDEX(AMM)での交換を前提としていろんなコインに対応することはできると思いますが、最終的に支払いを受け取る人は草コインではなくビットコインやステーブルコインを欲しがるので(草コインが欲しい人はおらず、たいてい法定通貨かビットコインを増やす手段として使っているだけ)、不要な交換コスト増になるだけじゃないかと思います。

How often do LLMs snitch? Recreating Theo’s SnitchBench with LLM
A fun new benchmark just dropped! Inspired by the Claude 4 system card—which showed that Claude 4 might just rat you out to the authorities if you told it to …

テック系のインフルエンサーが、特定のプロンプトを与えたAIエージェントに違法行為を告白するとAIエージェントが様々な連絡手段で警察・当局・メディアなどにユーザーを告発しようとする様子を取り上げて話題になった

ステーブルコインに関しては、世の中がドルよりもビットコインを求めるようになるまでは決済用途で競合するかもしれません。Lightning Labsがライトニング上のステーブルコインに意欲的なのもそういう理由だと思いますが、個人的にはそういう敵に塩を送るような行為が正解なのかはわかりません。ステーブルコインのためにLNが普及して、のちにビットコイン中心になれるのか(それとも法定通貨の延命につながるだけなのか、ライトニングやビットコインがステーブルコインに乗っ取られてしまうのかなど)自信を持てないためです。

ステーブルコインはビットコインにとって「利便性向上の起爆剤」か、「歓迎されざる競合」か?
ステーブルコイン流通の中心地がビットコインから他のブロックチェーンへと移って久しい近年ですが、ビットコイン、特にライトニングにステーブルコインを取り入れようという動きが盛んになってきていることはご存じでしょうか? 過去に本稿で紹介したことのあるOmniBOLTは立ち消えてしまいましたが、Taproot AssetsやRGBといったビットコイン上のトークン発行プロトコルはまだ健在で、特にTaproot Assetsに関してはUSDT(テザー)と協力してステーブルコインの流通を始める寸前という状況です。 2024年はTaproot Assetsの年になるのか?草コイン投機需要を虎視眈々と狙うTiramisu Wallet昨年はOrdinals Inscriptionsの誕生に端を発してビットコイン・ブロックチェーン上での投機熱が盛り上がりました。NFTから始まったブームは草コインへと移行しましたが、Ordinalsに対応していれば同じウォレットで取引できることで一つのエコシステムとしてまとまっている感覚はあります。 ところがNFTの文脈であればある程度理解できた「ビットコイン上にデータ

以上、最後の方は発散してしまった気もしますがAIとビットコインについてでした。

まとめ

・ライトニングのアーリーアダプターだったBitrefill社がAIエージェントによるライトニング決済を実証した。実は2023年からLightning Labs社もAIエージェントにビットコインを扱わせるためのツールを公開している

・AIの学習用のスクレイピングなどに今後費用が要求されたり、AIが呼び出すMCPサーバー(API)が支払いを要求したり、AIの利用料金にクレカ決済以外が求められる可能性があり、そこにライトニング決済が適合する

・ほかの決済手段と比べてグローバルなスケールかつインターネットという環境に親和性がある。過渡期には米ドルのステーブルコインと競合する可能性がある