こんにちは,AndGoのハードウェア担当です。

皆さんご存知の通り、ビットコインはマイニングによって大量の電力を消費しています。これまでエネルギーを切り口に以下のような記事でご紹介をしてきました。

賛否両論はありますが、ビットコインその他Proof-of-Workを使用している暗号資産に対する逆風の一つになっていることは事実です。議論の出発点として、実際に現在使用している電力を正しく把握することが重要となってきます。

実際に全世界で消費されている電力を正確にしるためには、すべてのマイナーへの電気料金の請求を確認する必要があるため、現実的ではありません。今回紹介するCambridge Bitcoin Electricity Consumption Index (CBECI; https://ccaf.io/cbnsi/cbeci) ではマイニングのために消費している電力の推定値を公開しています。

この数値はあくまで推定値ですので、実際にはどのようにデータを収集して、どのようなプロセスで推定値を計算しているのかが疑問になってきます。CBECIではこれらについてもオープンにしていますので、本記事では解説していきたいと思います。

CBECIとは?

CBECIは元ソフトウェアエンジニアで現在エンジェル投資家、独立研究者であるMarc Bevandという方がモデルを構築したもので、リアルタイムにビットコインのマイニングに関するデータを収集して、現在のマイニングに使用されている電力を計算して公開しています。2019年6月2日にv1.0.0がリリースされ、年に数回アップデート(https://ccaf.io/cbnsi/cbeci/change_log)がされており、最新の状況に合うように改良が続けられています。

以下のグラフは全マイニングマシンが消費している電力です。仮定しているマイニングマシンの違いやマイニング施設の運用方法によって実際の消費電力の推定値には幅があり、その範囲が薄い色で示されています。そして、その中で比較的もっともらしい仮定を採用したときの推定値を濃い細い線となっています。グラフをみてみると、2017年から消費電力が徐々に上昇し、特にバブル期には大きな電力を使っていることが分かります。2023年6月現在は消費電力は上昇傾向にあるようです。

電気料金が変わると得られる利益も上下するため、参入するマイナーの数が変化するため、結果的に全世界の消費電力に影響します。既定値の電気料金として0.05USD/kWhが仮定されていますが、CBECIではこの値を変更した場合の推定値を計算させることもでき、様々なシナリオを試すことができます。

利用データ

CBECIが他のエネルギー消費に関するレポートとは異なる特徴として、計算に必要なデータを自動的に収集して、必要なパラメータを設定し、リアルタイムに消費電力を計算している点です。24時間ごとに最新の情報にアップデートされています。

データは主にCOINMETRICS (https://coverage.coinmetrics.io/)から取得しており、具体的には以下のデータを利用しています。いずれもビットコインのブロックチェーンや取引所から得られる客観的かつ定量化されているデータです。

  • ハッシュレート(EH/s)
  • 一日あたりの採掘されたビットコインの価値(USD)
  • すべてのマイナーに支払われたマイニングフィー(USD)
  • マイニングの難易度
  • ビットコイン価格(USB)

さらに以下のようなデータを独自に調査してモデルに組み込んでいます。これらの数値についてはマイニング施設の運用方法によって違っていますし、基本的には非公開(といういうより公開する必要がない?)データですので、ある程度の幅を持たせて推定しています。

  • マイニングマシンの効率(J/GH)
  • 電力価格(USD/kWh)
  • データセンターでの効率

マイニングマシンの効率

過去の記事「マイニングとエネルギー問題」(https://coinkeninfo.com/mining-and-energy-issues/) でも解説したようにマイニングマシンの効率はマイニングマシンに投入したエネルギーと、行ったハッシュ計算の回数の比で評価することができます。CBECIでは「J/GH」という単位を使っており、10億回のハッシュ計算(1GH)をするのに何ジュール(J)のエネルギーを消費したかで表されます。ジュールはエネルギーの単位で1Wの電力を1秒消費したことに相当します。このマイニング効率は使用するマイニングマシンによって異なってきますので、独自に調査した結果に基づいて計算をしていきます。

ビットコイン黎明期の2009年当時は、マイナーはCPUによって(そもそもビットコインに価格がついていなかったので)利益度外視でマイニングをしていました。そのころのマイニング効率はIntelのCore i5-650を仮定して計算しています。そして、その後は汎用的なGPUやFPGAを使ったマイニングが主流となりました。2013年までは、GPUやFPGAを用いたマイニング効率を用いており、データは研究結果[Taylor, 2016]から得ているようです。現在ではGPUやFPGAはもはや採算が合わず、専らASICが使われています。ASICに主流が移ったあとのマイニング効率については、https://www.asicminervalue.com/ を利用しているようです。実際には使用環境やオーバークロックで多少変動するので、専門家の助けを借りてデータに修正を加えており、http://sha256.cbeci.org/ に内容が記載されています。計算されたマイニング効率の変化については以下のグラフにまとめられています。このデータだけでも非常に興味深いです。

マイニングマシンのライフタイム

マイナーは基本的には利益が得られる限りマイニングマシンを動かします。しばらく利益が得られなければマイニングをやめるか、マシンをリプレースします。マシンをリプレースされるまでの時間は、上述のマイニングマシンの効率、全ネットワークのハッシュレート、電気料金によって決まってきます。このライフタイムによって利用されるマイニングマシンが特定されます。利益が得られるかの分岐点の計算には以下のような仮定をしています。

  • 初期コストや冷却、メンテンナス、人件費については無視している。
  • 電気代は0.05USD/kWhと仮定している。これはマイナーへのインタビューに基づいており、他の研究結果ともおおよそ一致している。
  • 短期的に損失があったとしても14日間の移動平均で利益があればマイニングマシンをリプレースすることはしない。

消費電力の上限値・下限値

推定値は多くの仮定を含んでいるため、ぎりぎり現実的な条件を仮定した、推定値の上限値と下限値も公開しています。それぞれ以下のような条件を仮定しています。

消費電力の下限値

  • すべてのマイナーが最もマイニング効率の高いマイニングマシンを利用する。
  • マイニングマシンそのもの以外の消費電力で比較的大きな割合を含む、冷却システムを含む効率PUE(Power Usage Effectiveness)を1.01としている。(一般的なデータセンターでは1.8以上、Googleでは1.11であることが知られている)

消費電力の上限値

  • すべてのマイナーが最もマイニング効率が低いマイニングマシンを利用する。
  • PUEは1.20とする。

もちろん、これらの条件は不確定な要素を極端に振ったものですので、実際の消費電力は下限値と上限値に達することはありません。少なくともこの範囲に入るという値を示しているに過ぎないわけです。逆に言えばこの範囲から逸脱することはないと言えるでしょう。

消費電力の推定値

原文ではbest-guess estimateと書かれていますが、一番もっともらしい推定値を以下のように計算しています。冒頭の濃い細い線のグラフの計算に使われる条件です。

  • すべての利益性があるマイニングマシンを均等に分布する。
  • すべてのマイナーのPUEは1.10とする

すべてのマイニングマシンが同数だけ生産・販売されているわけではないですし、すべてのマイナー同時に利用可能でないので、計算上の仮定としてこのように設定しています。

モデルの評価

CBECIの限界について以下のように述べられています。

  • 電気料金の見積もりに大きく依存する。
  • 電気料金以外の他のコスト要因を無視している。
  • マイニングマシンの分配がシンプル過ぎる。
  • マーケットにでていないハードウェアを無視している。
  • ハードウェアのスペックが実際のパフォーマンスと離れている場合がある。
  • 実際のマイニングマシンのリプレースにはラグがある。

特に0.05USD/kWhを仮定していますが、この数字が変わると計算結果が大きく変わります。影響度という意味では現実も同じです。そこでCBECIではユーザーが異なる電気料金での結果を試すことができるようになっています。

まとめ

今回はビットコインのマイニングに使われている消費電力の推定値を公開しているCBECIについて紹介をしました。全体を読む限り、恣意的な無理な仮定をしている印象もなく、中立的な条件設定をしている印象で、現実の値にそこそこ近いのではないでしょうか。また別の機会に紹介しようと考えていますが、他の分野のエネルギー消費との比較や、温室効果ガスの発生量などの分析も行われており、有益な情報が得られます。ビットコインのマイニングに関する情報はブロックチェーンに刻まれているため、さまざまな分析ができるということも特徴です。ぜひ様々なデータを覗き、活用されてみてはいかがでしょうか。