Apple社は長らくアプリストアの利用条件としてアプリ内決済のみを認めてきましたが、数年間続いたEpic Gamesによる訴訟の結果、ついに米国のApp Storeに掲載されたアプリにおける外部決済を認めることになりました。

Apple changes US App Store rules to let apps link to external payment systems | TechCrunch
Apple has changed its App Store rules in the U.S. to let apps link users to their own websites so they can buy subscriptions or other digital goods. This

去年の時点ではまだ抵抗しており、外部決済を認めつつも27%の手数料を取り(従来のアプリ内決済は30%)、外部決済の危険性を主張する画面をユーザーに表示するなど不完全な解禁でしたが、ついに5月からアメリカのApp Store内において外部決済が完全に自由化されました。

また、日本においても2024年末に「スマホソフトウェア競争促進法」なる法律が可決・成立したため、2025年12月から同様の措置が予想されます。これはAppleから見れば外部決済に他ならないライトニング決済の普及にとって大きな一歩でしょう。

今日はアプリストアにおける外部決済解禁という文脈で、ライトニング決済が普及するタイムラインがどのように変わったか見ていきましょう。

・数年前のPWA移行の流れはついに終了か

・ライトニング決済の普及はゲームから?

・アプリ自身による囲い込みには警戒が必要

数年前のPWA移行の流れはついに終了か

Appleとライトニング決済といえば、数年前はセルフカストディ型ライトニングウォレットやNostrクライアントがApp Storeから削除されたりとむしろ緊張感のある関係性が記憶にあります。それを受けて、当時はどうにかしてPWA(Progressive Web App=ブラウザベースだが、ホーム画面に登録してネイティブアプリのように振る舞うウェブアプリ)ベースのライトニングウォレットが作れないかという挑戦が行われていました。

PWAがLSP型ライトニングウォレットの未来か
今月、AppleがアプリストアからNostrクライアントのDamusやノンカストディアルライトニングウォレットのZeusを排除すると開発者に通達しました。 Damusに関しては投稿に対する投げ銭機能“Zap”がAppleが定めるアプリストア規約のコンテンツ販売の決済手段制限(アプリストア経由の決済に限る)に抵触した模様で、結果的にDamusは投稿単位のZap機能を消去し、ユーザーのプロフィールからのZap機能のみを残す形でアップデートの許可を得たようです。 Apple will remove Damus app unless it drops Bitcoin tipping featureApple has warned the Nostr-based decentralized social media app Damus that it will remove the app from its platform if it doesn’t comply.The BlockYogita Khatri 一方Zeusに関してはノンカストディアルウォレットであるにも関わらず取引所とし

その中でも期待されていたMutiny Walletは勢いがあるうちに諸事情で開発終了してしまい、その後ライトニングウォレットをPWAとして実装していく流れ自体が下火になった印象があります。実際、ライトニングの通信方式をブラウザで実現するのは難しく、LSP側と合わせて実装しなければならない接合部がかなり大きいはずなので、その後App Storeに当該ウォレットやクライアントが復帰できたことを考えると間違った判断ではないのかもしれません。

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もっと言えば、ジャックドーシーが主導していたWeb5プロジェクトが放棄されたり、Nostrへの関心が薄れたりと、2023~2024年はそういう転換期だった気がしてきます。

App Storeの外部決済許可は単にAppleの決済手段の独占権を否定しただけでなく、Appleがビットコインウォレット(ライトニングウォレット)に対して厳しいスタンスをとることを難しくした可能性もあります。特にトランプ政権はセルフカストディの権利を守ると主張しているため、AppleはApp Storeからウォレットを追い出そうと思っても二重に慎重にならざるを得ないでしょう。

かくしてスマホアプリにおけるライトニング決済普及の道筋が整えられたのかもしれません。

ライトニング決済の普及はゲームから?

昔からライトニング決済のスマホにおけるキラーアプリはゲームだと考えられていた節があります。ZBD、THNDR Gamesなどライトニング決済×スマホゲームをテーマにした会社が数社あり、これまでも各社がゲームを遊んでsatsを稼げる機能を導入しています。(決済ではないので、配るのはOKだった)

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今後、ゲーム内アイテムの課金にライトニング決済が使えるようになると、ゲームAで稼いだsatsをゲームBで使うような、スマホアプリ同士による経済圏の形成が進みそうです。報酬としてsatsを配ることがユーザーのリテンションとマネタイズに有効らしいので、追随するゲームも出てくるでしょう。

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注意点として、賭博に該当しないかを含め、そのあたりの規制が明確でないと大手は手を出しにくいかもしれません。

また、従来と比べて(Appleの決済手数料30%がなくなるため)アプリ内課金のコスト自体が低下することも大きく普及に役立つかもしれません。実際、Spotifyは今回の外部決済解禁によってiOSユーザーのプレミアムプラン加入が大幅に増加したと報告しています。

Epic対Apple訴訟の影響でiOSアプリの外部課金が手数料なしで使えるようになった結果、Spotifyはプレミアムプランを利用するユーザーが大幅に増加
裁判に際して第三者が有用な意見を提供する「アミカスブリーフ」制度で提出された資料から、Epic GamesとAppleの訴訟の影響で、iOSアプリの外部決済システムが手数料なしで使えるようになり、Spotifyはこの外部決済システムを利用してプレミアムプランのユーザーが大幅に増加したことが明らかになりました。

このように、スマホアプリのユニバーサルに利用可能な決済手段としてライトニング決済が普及する可能性が、ユーザーをApp StoreからPWAへと引きはがす必要なく実現できる道筋が見えてきました。

アプリ自身による囲い込みには警戒が必要

今回のニュースがライトニング決済によるゲーム内課金につながった最初の例が次のツイートにある、Sarutobiというゲーム内のアイテム購入です:

SarutobiはZBDのAPIを導入してゲーム内でライトニング決済を実装しています。そのため、satsの払い出しや支払いにZBD Wallet(カストディ型のライトニングウォレット)が必要となっており、完全に開かれたライトニング決済という形にはなっていません。

確かにライトニング決済のUIに不慣れなユーザーが多いことや、ZBDのビジネスモデル的に囲い込みがしたくなる気持ちはとてもわかりますが、これではAppleによる箱庭をZBDによる箱庭にしたに過ぎません。相互に送金できない○○Payの乱立のように、相互出金できないような形のライトニング決済プロバイダーが大量発生してしまうと却ってライトニングに使いにくい印象がついてしまうリスクもあります。

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もちろん、ZBDはウォレットアプリを開けばそこからLNを使ってb月のウォレットに送金したりできます。

アプリ間でsatsを移動させる時代のインフラがどういう形で整備されていくかはライトニング決済の普及にむけて非常にクリティカルな部品だと思うので、これからも注目していきたいと考えています。