皆さんが主に使われているライトニングウォレットはノンカストディ型のものでしょうか?

ライトニングウォレットは大別するとカストディ型・ノンカストディ型に分けられますが、一般的にはカストディ型のもののほうが人気があります。ライトニングノードほどではなくとも、初めて使うときにチャネルの開設が必要であったり、ときどき起動して同期しないといけないなど、多少の不便やコストがあるためです。

とはいえ、ノンカストディ型のライトニングウォレットにも需要はあり、大きな金額を安心して使いたいユーザーが使っていたり、カストディ型のウォレット運営が規制面などで難しい地域で提供されていたりします。昔はスマホにがっつりライトニングノードを丸ごと載せてしまうアプローチも試されたりしましたが、今は「LSP」と呼ばれるサービスプロバイダーと二人三脚でライトニングノードとして機能する、軽量な「LSP型のライトニングウォレット」が主流となっています。

具体的にはPhoenix、Breez、Zeus、Blixt、Mutinyなど多くのウォレットがこの形態を採用しており、LSPという存在がノンカストディ型のライトニングウォレットをインフラとして支えています。

しかし、最近になって閉業を発表したMutiny Walletが使っていたLSP、Voltage社の「Flow 2.0」が撤退を決めました。

Deprecating Flow 2.0 – Paving the Way for a Superior Solution

LSPは儲からないのでしょうか?LSPの撤退は流れとなってノンカストディ型のライトニングを脅かしてしまうのでしょうか?今日はそのあたりを考えてみましょう。

・LSPはコストが高く、見通しが効きにくく、競争過多に陥りやすい事業

・LSPに頼るライトニングウォレットはより収益力を高める必要があるかもしれない

・長期的にみて、現在のライトニングは全体的に「割安すぎる」?

LSPはコストが高く、見通しが効きにくく、競争過多に陥りやすい事業

LSPが提供する最大の価値は、ライトニングユーザーが最初に必要となるチャネルを与えてくれることです。しかし、このサービスはコストがかさみやすく、資本のミスアロケーションをしてしまいやすいものです。なぜでしょうか。

ライトニングユーザーが一番はじめにする必要があることはチャネルの確保ですが、この時点でLSPはどれくらいの大きさのチャネルを割り当てたらいいかわかりません。もしかするとヘビーユーザーになって、将来的にまたチャネルを開設してあげる必要があるかもしれませんし、ひょっとすると1回だけ送金を受け取ったっきり全く使わないユーザーかもしれません。(後者もかなり多いでしょう)

最初にユーザーが資金を受け取るときにチャネルを開設する(Just-in-timeチャネル、0-confチャネルなどと呼ばれます)ことでチャネルの資金の一部はユーザーが拠出している形にすることができますが、これに合わせてLSPの資金をある程度チャネルに投下しなければユーザーは他の送金を受け取ることができません。LSPは「どのようなユーザーかわからないユーザー」に対してどれくらい自身の資金を割り当てるか考える必要があります。

長い事営業しているLSPほどこの判断は上手になっていくのかもしれません。

そしてLSPの収入源ですが、基本的には送金手数料として0.3%前後を(チャネルの中継手数料として)取っているところが多いようです。チャネルの販売を行うLSPも考えられますが、無料かそれに近い値段で付与してくれるLSPが多いため競争力に欠ける戦略かもしれません。チャネルの販売自体もレッドオーシャン化しやすい業種なので、それほど高い収入が狙えるかは疑問です。

チャネルの販売を行っているサイトを比較すると、サイトによってAmboss Magmaのようにサブスク型だったりLNBIGのように買い切り+最低期間保証型だったりします。いずれも売り手の収入はチャネルに拠出した金額に対して年率数%が関の山のようです

無論、みんながライトニングウォレットで月間数十万円取引をするのであればこのような値段設定でも収益性に全然問題はありませんが、実際問題LNを決済に利用しているユーザーは少なく、平均的なユーザーはLSPにとって機会費用等を鑑みると赤字を生んでしまっているのが現実ではないでしょうか。これがLSPの撤退という形で現れていると考えられます。

LSPによって高可用性などの付加価値を提供できるところもあるかもしれませんが、大半のユーザーにとってLSP間の違いはあまりなく、サービスがコモディティ化しやすいことも収益性には逆風となります。現時点ではライトニングの利用と比べてLSPが供給過多なのです。

なお、取引所などにライトニングの導入を持ちかけているLightsparkはLSP型のサービスも提供しているようで、特殊なLSPと呼ぶこともできるかもしれません。彼らはターゲットをB向けに絞ることで差別化をできている例だと言えそうです。

LSPに頼るライトニングウォレットはより収益力を高める必要があるかもしれない

このように、LSPのチャネル流動性提供という業態自体は差別化が難しく、供給過多になりやすく、すでに現状で利用者・利用額に対してありふれすぎています。では、彼らは他に収益化を目指せる部分はあるのでしょうか?

まず、ウォレット自体に様々な収益化ポイントを追加していく形が考えられます。

ノンカストディアルではありませんが、ゲーム用途にフォーカスしているZebedeeウォレットにはゲームを遊んでsatsを得る機能があります。カラクリは、通常の広告(ユーザーがゲームをインストールし、特定のレベル到達など条件達成で成果報酬が得られるもの)の収益をユーザーに還元していることです。ユーザーは暇つぶしにゲームを遊んでいるだけで、場合によっては何万satsもの報酬が得られたりします。もちろん、高報酬のものは条件達成も難しいですが。

他にも、これはウォレットですらありませんがメルコインのように既存のユーザーにとってのアプリの魅力を強化し、「本業」で収益を改善するというアプローチもあります。メルコインでビットコインを売却したユーザーの50%近くがメルカリで商品を購入するのに使っているらしいですが、メルカリの本業はこの商品購入の際に10%の手数料を取っていることです。ビットコイン購入機能がユーザーの滞留・購買行動を促すのであれば、それ単体でそれほど利益を追求する必要はありません。

ただし、メルコインモデルは本業があってこその戦略なのでスタートアップには厳しい戦いとなります。また、これらはLSPとウォレットが分業するモデルだとウォレットの価値向上にはつながりますが、必ずしもLSPの価値向上につながりません。

唯一、ステーブルコインなどを扱えるTaproot Assetsのようなトークンプロトコルが普及すれば、LSPがちょっとした両替所の役割も果たすようになるかもしれません。どれほどの収益が見込めるかは現段階では不透明ですし、これも現在直面しているものと同じチャネルへの資金アロケーションの問題がありますが、送金の取次以外にも収益源ができて採算性の改善につながるかもしれません。

個人的にはC向けのノンカストディアルウォレットが利用するLSPは単体では事業としては苦戦していくんじゃないかと思います。(B向けなら需要の予測も立ちやすく、交換などの付加サービスにも需要があるため成立しやすいと思います。激しい競争は予想されますが)

長期的にみて、現在のライトニングは全体的に「割安すぎる」?

話をLSPの採算性の低さに戻すと、その根本的な原因はライトニングにおけるLSPの供給過剰、つまりライトニングネットワークの資金が需要に対して余っている状況があります。

ビットコインのマイニングと同様、ライトニングにおける流動性もセキュリティのコストと送金手数料の収益を天秤にかける市場原理によって調整されるものではあります。このため、送金額の推計は伸びつつもパブリックチャネルに入っているビットコインの総額(ライトニングネットワークの「キャパシティ」と表現されます)は微減傾向がしばらく続いています。

ちなみにLSPが頭を悩ませるユーザー向けのチャネル開設は基本的に非配信チャネル(「プライベートチャネル」)で行うため、LNのキャパシティには反映されていません。

しかし、ライトニングの最初の数年がLNBIGのような経済合理性を無視した主体によって大量かつ事実上無料の流動性によって支えられていたように、今も採算性を度外視している主体がかなり多いのではないでしょうか。

もし現状でLSPが個人向けにチャネルを開設して得られる報酬が小さすぎるのであれば、そのようなサービスは徐々に淘汰されていくのが自然です。むしろ、そうならない状況(ライトニングの将来性への楽観からくる投資というべきでしょうか?)がこの苦境を招いている元凶です。ライトニングは「安すぎる」のです。

現時点のライトニングでルーティングノードを運用している場合、年利2~3%ほど稼げたら上出来ですが、リスクなどを天秤にかけたとき、そのような薄利で成り立つ事業なのでしょうか?今まで大きなセキュリティインシデントが起こっていないからといって、将来的にも起こらないとは限りません。様々なシナリオを想像すると、実際のリスクは年間2~3%より大きいのではないかというのが直感としてあります。

市場が正しく機能していれば、ライトニングの流動性供給と需要はマッチしていく方向に動くはずです。需要が増えていけば、あるいは非合理的なプレイヤーの淘汰が進めば10年後のライトニングは今よりはもう少し手数料が高くなっているかもしれません。そしてそれがより持続可能で健全な姿なのでしょう。

この15年ほどのスタートアップ文化(Uberなど)は巨大な先行投資を是としているため、ひょっとするとライトニングにおいても流動性への過剰投資が是正されずに単純にユーザーが次から次へと新しいLSP(一番安いところ)を渡り歩く時代が来る可能性もあるかもしれませんが…。