ステーブルコインはビットコインにとって「利便性向上の起爆剤」か、「歓迎されざる競合」か?
ステーブルコイン流通の中心地がビットコインから他のブロックチェーンへと移って久しい近年ですが、ビットコイン、特にライトニングにステーブルコインを取り入れようという動きが盛んになってきていることはご存じでしょうか?
過去に本稿で紹介したことのあるOmniBOLTは立ち消えてしまいましたが、Taproot AssetsやRGBといったビットコイン上のトークン発行プロトコルはまだ健在で、特にTaproot Assetsに関してはUSDT(テザー)と協力してステーブルコインの流通を始める寸前という状況です。
しかし、ビットコイン上のステーブルコインに否定的な見方も存在します。個人的には私もステーブルコインをあえてビットコイン上で流通させたくありません。ステーブルコイン側にとってはあまりメリットがなく、ビットコイン側にとっては様々な新しいリスクをもたらすと感じているためです。
今日はステーブルコインがビットコインにもたらす影響の良し悪しを見ていきましょう。
・ステーブルコインとビットコインの関係
・ステーブルコインが保有しやすくなるとBTCを保有したがらなくなる?
・ステーブルコインはドル覇権の手先なので根本的にビットコインと敵対する
ステーブルコインとビットコインの関係
現在、ステーブルコインというとUSDT、USDCの2大巨頭が頭に浮かびます。
USDCは2018年にローンチされ、2020年ごろにEthereum上のDefiを中心に勢力を拡大した、アメリカ・Circle社(現在はCoinbaseの傘下)によって発行されるドルステーブルコインです。親米的なイメージがあり、流通も米国が中心です。
一方、USDTは2014年にローンチし、どちらかというとアメリカの規制と闘いながら営業してきたステーブルコインです。そのため、裏付け資産をどうやって保管しているかが秘密にされている側面があり、何度も「カラ発行」されているという噂が出回りました。(これがUSDC誕生につながったと思われます。)世界中で流通しており、特に中国をはじめとするアジア圏で主流となっています。
実は、USDTはもともとビットコイン上でOMNIというプロトコルを使って発行されていました。しかし、2017年末のオンチェーン手数料の記録的な高騰を受け、送金のボリュームは徐々に当時手数料が安かったイーサリアムや、のちにローンチされるトロンへと移っていきました。2023年にはついにOMNI-USDTの取り扱いを終了しました。

そんな様子を見ていたUSDCは最初からビットコインでは発行されず、スマートコントラクトチェーンに注力していました。なのであまりビットコインの文脈では話題になりません。
近年では、Taproot AssetsやRGBといった新興のトークンプロトコルによってビットコイン上で、特にライトニング上でステーブルコインを扱うことに関心があるプロジェクトが増えてきました。最大手のライトニングノード実装Lndを開発するLightning Labs社はTaproot Assetsでステーブルコインを導入するために7000万ドルの資金調達をしていますし、RGBもTetherと近しい会社であるBitfinexの支援を得ています。

USDTがTaproot Assetsを使って発行されることは既定路線のようです
実際、新興国などで決済目的の導入を進めると、ステーブルコインが非常に好まれるという話はよく聞きます。その需要に応えるのはビットコインの裾野を広げるわけで、悪いことではないと考えるビットコイナーも少なからずいます。
ハードフォークとステーブルコイン
その一方で、気がかりな側面もあります。ステーブルコインがブロックチェーンのフォーク時に強い影響力を持ってしまうことです。
ステーブルコインはブロックチェーン上のトークンに対してどこかに裏付け資産を持ちます。もしブロックチェーンが分岐して、トークンがチェーンAとチェーンBの両方に存在する状態になったとき、どちらのチェーン上のトークンを「真正」と認めるでしょうか?
ビットコインをセルフカストディしていれば両方のチェーンに残高を持っていても何も困ることはありませんが、ステーブルコインホルダーは必然的に価値判断を発行者に任せることになってしまいます。新しいチェーンのネットワーク効果を大きく左右できてしまうと、ステーブルコイン発行者がその命運を左右できてしまう可能性だってあります。(ちなみに2017年は、Tetherの発行者が割と今のビットコイナー寄りの思想を持っていたため、ビットコインを選択しましたが、もし彼らがビットコインキャッシュに傾倒していたらもっと混乱が起きていたのではないでしょうか)
もちろん、ステーブルコイン発行会社があまりにも逆張りしている状況なら、そちらのチェーンがステーブルコイン専用チェーンみたいになってしまったりする可能性もありますが。
逆に、USDTがイーサリアム、トロンへと移っていったように、ステーブルコインはチェーンに対するロイヤリティなど持ちません。セキュリティで問題となるのはあくまで裏付け資産の保管だけで、チェーン側は送金が巻き戻らない程度で問題ないためです。むしろ、スマートコントラクトを使って犯罪関連アドレスの凍結ができたほうが都合いいとさえ言えるでしょう。したがって、ステーブルコインはビットコインのパワーバランスに影響を及ぼしつつ、ビットコインに対して強いコミットメントや貢献があるわけでもないという厄介な存在なのです。
それを認識すると、今はほとんどビットコイン上にステーブルコインがいなくなったことでむしろリスクが減って理想的な状態だと考える人がいるのも頷けます。Human Rights Foundationのようにビットコイン開発者にグラントを出す団体の中には、「ビットコインネイティブなステーブルコイン」(DLCなどを使って、ビットコインの残高を調整することで残高をドル建てで固定する技術)の開発を支援しているところもあります。それだけ、特定のステーブルコインを導入することに対して問題意識を持っている人たちがいるわけです。
ステーブルコインが保有しやすくなるとBTCを保有したがらなくなる?
さて、価値の保存(SoV)というビットコインにおいて一番マーケットにフィットしている用途についても、ステーブルコインは競争相手となります。
先日のビットコイナー反省会の放送でも披露した自説に、ステーブルコインの大流行がイーサリアムの価格低迷につながっている一因であるというものがあります。これはイーサリアムのSoV性が低い(安心して長期的な蓄財に使えるほど将来の見通しがつきにくい)こととセットではありますが、確かにイーサリアムの価格が大きく上昇していた局面というのは草コインのトレードやDefi、NFTの取引などで「イーサリアム建て」の取引が多かったとき、つまり市場参加者がイーサリアムを増やすことに魅力を感じていた頃だったのではないでしょうか。
振り返ってみると、ビットコインも同様で、2017年のバブルの際は草コインの多くがビットコイン建てで取引されており、市場参加者が急増する中で「ビットコインを増やす」が目的のトレーダーが少なくなかった印象があります。そしてビットコインの場合は、その後もSoV性の高さから「ビットコインを貯める」需要が大きいため、それが価格推移の違いに表れているという仮説です。
もしビットコイン上で、一般的なビットコインウォレット内でステーブルコインも扱えた場合、市場参加者の意識が徐々に「ビットコインを増やす」から「ドルを増やす」へと変化してしまうことを危惧しています。手が届くところに「変換ボタン」があるだけで、価値の尺度としてのビットコインが選ばれにくくなり、それが価格推移を通して主観的なSoV性にも影響してしまう恐れだってあります。
なぜなら、ステーブルコイン需要は「ビットコインはいらない、ドルをくれ」という要求に他ならないためです。
ステーブルコインはドル覇権の手先なので根本的にビットコインと敵対する
ビットコインは法定通貨に対するアンチテーゼだとみると、ラスボスは米ドルということになります。
いまアメリカはCBDCはやらないと片手に言いつつ、世界にステーブルコインを普及させることには前向きになっています。アメリカの経済は世界にドルを輸出することで成り立っており、また近年はそのドルを武器化して他国に対する影響力として使っている側面もあります。

ステーブルコインは凍結したり、裏付け資産を没収することがいとも簡単にできてしまいます。そんなものをビットコインウォレットに入れてユーザーに勧めることが、果たしてビットコインのため、ユーザーのためになるのでしょうか?
フィンテック領域の会社がインターナショナルに提供しにくい米ドルへのアクセスをグローバル化したステーブルコインの需要が高いこと自体は理解できますが、それとビットコインとは根本的には相性がかなり悪いものだということを、ビットコイナーにもっと強く認識してもらいたいところです。
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