マイニング関連のデリバティブとしてこれまでにもハッシュレート先物などを本稿で数回取り上げています。事業としてのマイニングは比較的変数の少ないビジネスで、残るリスクを数値化しやすいという特徴があり、このようなデリバティブの潜在的需要があります。

例えば、想定より速いペースでネットワークのハッシュレートが伸びてしまうと、想定していたより自分のハッシュレートのシェアが小さくなってしまい、売上が下振れします。このリスクを軽減する1つの方法としてハッシュレート先物をロングすることで、ハッシュレートの上振れ時に採掘量の下振れを相殺するという戦略が考えられます。

もちろんこのようなリスクヘッジ自体にもコストがかかってしまいますが、過去に取り上げたハッシュレート先物、そして今回紹介するサービスの存在意義はその選択肢を提示することにあります。

オンチェーンで取引できる手数料先物が考案。将来的に手数料リスクはヘッジするものになる?
ビットコイン自体の供給量が需要に応じて増減しない(弾力性がない)ことは広く認知されていますが、ビットコインのブロックスペース、すなわちトランザクション処理能力もまた需要の変化に対応することができません。これは以前の記事「ブロックスペースを資源として考えてみると…」でも考察したトピックです。 ブロックスペースを資源として考えてみると…最近、こんなツイートを見かけて、とてもいい整理の仕方かもしれないという気づきがありました。https://twitter.com/Mario_Gibney/status/1526361206885388288 「ビットコインの将来的なセキュリティを考える上で、ビットコインネットワークが生産するコモディティは2種類あるということを認識する必要がある。半減期を重ねて2100万枚まで発行されるBTCというアセットと、約10分毎に4MWU (1M vbyte)生産されるブロックスペースだ。※」 BTCの価値にばかり目が行きがちですが、手数料の話にはブロックスペースの価値が密接に関係してきます。トランザクション手数料はブロックスペースの対価として支払うものだからです
ハッシュレートのオプション取引を提供予定のPOWSWAP
今週の記事はビットコインコア開発者であるJeremy Rubinが11月9日に発表した、トラストレスにビットコインのハッシュレートに関するデリバティブを取引できるPOWSWAPというプロジェクトと、その将来的な可能性について書きます。POWSWAP自体は生まれたてのプロジェクトで、開発段階(pre-Alpha)ですが、ウェブサイトへのリンクを貼っておきます。 https://powswap.com/ ちなみに、Jeremy RubinといえばScaling Bitcoinでも発表があったOP_SECURETHEBAGの提案者です。(最後に小ネタを追記します) POWSWAPについて まだ詳しい情報がない公式発表の受け売りになりますが、POWSWAPはスマートコントラクトを活用してノンカストディでトラストレスなハッシュレートデリバティブの取引プラットフォームで、マイナーにはハッシュレートの低下に対するヘッジ、HODLerには金利収入、マーケットメイカーには流動性供給の対価としての利益が得られるものだそうです。既にビットコイン上で動くPOWSWAPは自動的にハッシュレートの変動を検知

今回紹介するbitcoinprediction.infoは「次のブロックを採掘するマイニングプール」を当てた勝者が賭け金を山分けできるというシンプルなコンセプトで、マイニングプールがリスクヘッジに使うことができるとしています。今日は自分が「不正をする余地があるのではないか?」という疑問を持ったのでそこを考えてまとめてみました。ついでに、マイニングプールからの需要はないのではないか?という考えにも至ったので、そこも説明していきます。

・なぜマイニングプールは名乗り出るのか

・「次のブロック」だと実質的にマイニングプールが無双できてしまう?

・ヘッジの判断をすべき主体はおそらくマイニングプールではない

なぜマイニングプールは名乗り出るのか

まず、そもそもブロックからマイニングプールをどう判断しているのかについて軽く説明します。

ビットコインにおいてブロック内の1つめのトランザクションは必ず「新規発行分+手数料分」を生成して使用するCoinbase Transactionと呼ばれるトランザクションです。マイニングプールはブロックの中身を決めて参加者に採掘させるので、基本的にCoinbase Transactionはブロックの報酬をマイニングプールの管理するアドレスに送金するトランザクションとなります。

実例を見てみましょう。おや、Foundry USA Poolという文字が見えますね?

これはCoinbase Transactionの入力、つまりコイン生成部のscriptSigに埋め込まれた情報です。通常のトランザクションだと過去の送金で生まれたUTXOに添える電子署名を入れる欄ですが、Coinbase Transactionの場合は過去の送金とは無関係なので自由にデータを入れることができます。これをCoinbase Tagと呼んだりします。

そして単純にここにマイニングプールが宣伝のために自社の名前をいれるのが慣習化しているのです。

マイニングの際、ハッシュ計算の結果を変えるためにブロックの内容を変化させますが、Coinbase Tagも簡単に変えられるためその候補となるデータの1つです。したがって、大抵の場合Coinbase Tagのマイニングプールの名前以外の部分にはランダムなビット列が格納されており、文字化けしているように表示されます。
ハッシュレートのうち各プールが占める割合はこのデータを元にしているため、自己申告に基づくものであることは認識しておきたいです。他にもプールによっては採掘先のアドレスが使いまわしだったりしますが、これもプールによって方針が異なる上、アドレスは簡単に新しいものに変えられるので判断方法として一番マシなのが自己申告のCoinbase Tagなのでしょう

ちなみにここにマイニングプールの名前が入っていないブロックもある程度存在します。これは単純にソロマイニングによるブロックであったり、あるいは訴訟リスクなどが存在するビットコインフォークでこっそりマイニングしたい場合に見られることが多いです。

「次のブロック」だと実質的にマイニングプールが無双できてしまう?

話をBitcoinprediction.infoのサービスに戻します。

これは次のブロックに関して、採掘すると予想されるマイニングプール、あるいは採掘しないと予想されるマイニングプールを指定して賭け金を送金し、正解した人たちの間でその金額を山分け(ベット時に指定されたLN Addressへと払い出し)するというプロダクトです。

ブロックを採掘したマイニングプールの判断方法が先述の通りであるため、これは「ライトニング払いで次のブロックのCoinbase Tagに含まれるマイニングプールの名前を当てるゲーム」と解釈できます。

こうなったとき、このゲームを攻撃する方法はいくつか考えられます。

マイニングプールがブロックを配信する直前にベットする

これは「次のブロックを誰が採掘したか」を最初に知る、実際の採掘者たちにエッジがあるというところを突いた攻撃方法です。ブロックを見つけたら即座に正解にベットし、理論上は大量の資金をつぎ込むことで不正解の人たちの資金のほとんどを奪うことができます。

ひょっとするとマイニングプールに採掘したことを伝える前に個別のマイナーが実行するかもしれません。マイニングプールがもらえる報酬に対しては小さな額でも、個別のマイナーにとってはそこそこの金額になる可能性があります。

ただしこの攻撃により分数秒~数十秒ブロックの配信を遅らせている間に他の誰かが採掘したブロックを配信して正解となってしまうリスクがあるので、やはり失うものが大きいマイニングプールより個別のマイナーが実行しそうです。

賭け金が大きいときに「あえて」ニッチなプール名を名乗る

このサイトのオッズは自己申告のプール名で勝者山分けを行います。ということは、オッズが低い「Other」などのプール名を自己申告することで上の攻撃手法と組み合わせて資金効率を高めることができます。資金効率を高めることで、万が一ほかのプールが先にブロックを配信してしまった場合の損失を抑えることができ、リスクが削減できます。

ちなみにマイナーなプールのオッズは運営によって機械的に固定されているようで、非常に分の悪い賭けとなっています。SBI Cryptoの実測値はハッシュレートの1%ほどですが、Yesに賭けるとオッズは20倍です。Noに賭けると儲かるのでは?と思いきや、Noは1倍扱いなので儲かりません。これではヘッジ目的には使えませんね。(おそらく運営者を守るための設定ではあります)

Reorg時の扱いは?

そもそも時折1ブロックほどのReorgが起こるビットコインにおいて、「次のブロックを採掘するプールを当てよう」というコンセプト自体があまり良くありません。なぜなら「次のブロック」が主観的になりうるからです。

まず、ほぼ同時にブロックが配信されたときにサービス運営者がユーザーと異なる判断をしてしまう可能性があります。もしこの時点で払い出してしまうのであれば、サービス運営者は2つのブロックのうち「自身が有利な方」を結果として報告してしまう可能性もあります。

また、すぐに判断をしてしまうと、後に別のブロックに新しいブロックがチェーンされてサービス運営者の視点でもBest Chainが変わる(Reorgが発生する)可能性があります。その場合、すでに報酬を払い出してしまっているとやり直しは効かず、もともと正解とされていたマイナーは採掘報酬を得られない上に賭け金も没収されているため、やはりヘッジ目的には使えません。

個人的にはReorg対策には「次のブロック」が採掘されてから6ブロックなど一定期間後に確定するように運営されているといいなと感じます。ウェブサイトからは実際にどうなっているのかは不明ですが。

ヘッジの判断をすべき主体はおそらくマイニングプールではない

さらに根本的な話ですが、このサイトはマイナーがリスクヘッジに使える、投機家の収益機会になると謳っています。確かに投機家は集まるかもしれません。しかし、マイナーのリスクヘッジに本当になるのでしょうか?

具体例で考えてみます。

例えばFoundry USAを使っているマイナー(プールのハッシュレートの10%)がいて、プールのハッシュレート割合が25%だとします。特にヘッジすることなく、長い目でみるとビットコインの新規採掘の25%×10%=2.5%の収入を期待できます。

では、グローバルのハッシュレートが不変で、仮に突然Foundry USAのハッシュレート割合が10%(当該マイナーはプールのハッシュレートの25%になる)に下がるとどうでしょう?確かに、Bitcoinprediction.infoでヘッジしていればオッズ25%で売っていて実際は10%だったとすると儲かりそうですが、現実に期待できるビットコイン採掘量は10%×25%=2.5%で先程と変わりません。あれ、なんのヘッジをしたのでしょうか?

そう、マイニングで得られる報酬の期待値は単純に(採掘期間の総報酬)×(自身が総ハッシュレートに占める割合)なのです。利用するプールが占める割合は関係ありません。プールは単純に収益のボラティリティを削減することでリスクを減少させるためのものです。

マイニング系デリバティブの代表例であるハッシュレート先物などでヘッジしているリスクは「ネットワーク全体のハッシュレートが想定を上回るペースで増加する」ことによって式の後半部分が減少してしまうリスクです。しかし、プールの占める割合は総ハッシュレートの増加と無関係なので、このリスクの削減には役に立ちません。

強いて言えば収益がマイニングプールの総ハッシュレートに対する割合に依存する「マイニングプール」のリスクヘッジにはなるかもしれません。彼らの収益は(採掘期間の総報酬)×(プールが総ハッシュレートに占める割合)×(報酬比率=1%など)であるためです。それを構成するマイナーにとっては意味のないことですが。

というわけで、Bitcoinprediction.infoは面白い賭け事かもしれませんが、ヘッジ目的には使えなさそうだと感じるわけです。

まとめ

・Bitcoinprediction.infoは次のブロックを採掘するマイニングプールを当てる賭け事ができるサイト

・ライトニングで賭け金を送金し、勝者が拠出した資金に比例して山分けする(Lightning Addressで受け取る)

・「次のブロック」の判断方法によっては攻撃可能であり、インサイダー取引のようなことをすればマイナーの収益を改善する可能性がある(が、インチキなので正直な参加者がいなくなると思われる)

・小さな割合を占めるプールに関しては運営者によってリスクヘッジに使えないような設定がされている(おそらく運営者をハッシュレート割合の大きな変動から守るため?)

・サービス運営者はマイナーのリスクヘッジに利用できると主張しているが、そもそもプールの総ハッシュレートに占める割合はマイナーの収益期待値に影響を与えないため、リスクヘッジに使えない。マイニングプール運営者にとってはリスクヘッジとなるポテンシャルがあるかもしれないが、それはマイナーとは異なる。