先日海外のマーケットリサーチャーとBinanceのFiat戦略について話をして、その流れで気になったのでBinanceのFiat戦略の実態について少し調べました。

特にここ数か月、Binanceが○○と提携、新たに10種類以上のFiat取引ペアを追加!というニュースが連発し、BinanceのFiat拡大戦略が目につくようになっています。実際BinanceのこのFiat戦略は本当にうまくいってるのでしょうか?

BINANCEのFIATサービスの分類

BinanceのFiatサービスは主に3つに分類出来ます。ただし、それぞれ少し掘ってみてみると、どの手法も実際には大きな成果はまだ出ていません。

直接経営


Binance US、Binance Singapore、Binance JerseyなどではBinanceが各地域で実際にオフィスを開き、直接的に経営しているパターンです。Binance本体として最も責任とリスクを取っている形態ですが、今のところまだ大きな成功とはいえません。
アメリカの市場ではBinance USの一日取引高およそ1000BTCに対し、Coinbaseは21,000BTC。Coinbaseの取引高の5%未満にとどまっています。

また、ポンドやEuroのペアを提供するBinance Jerseyも1日の取引高は16BTC。ヨーロッパに主に強みを持つBitstampの7000BTCの1%以下です。


Binanceの銀行口座への入金

2つ目のやり方は、現地の決済代行業者などを通し、Binanceの銀行口座へFiat(法定通貨)を入金させ、その上で一部のアルトコインとの板取引を提供するパターンです。ロシアルーブル、トルコリラなどが主なペアになります。

ただし、こちらも取引高のマーケットシェアは低く、ビットコイン取引高で見ると、BTC-ルーブル市場全体の4~5%程、トリコリラでは1%以下のシェアしかありません。

こちらのアプローチでもあまり大きな取引高を作れないのは、おそらく決済代行の手数料が比較的高く(現状3~4%ほど)、ロシアやトルコなどそれぞれの市場に特化した競合に対して大きな優位性を提供しづらいからと想定されます。

Binance上でのインターフェース提供

3つ目は単純にBinance上での第三者プラットフォームへのインターフェース提供です。

例えば、数か月前に、LocalBitcoinの競合的存在のPaxfulとBinanceのパートナーシップが発表されました。仕組みとしてはPaxfulのアカウントとBinanceアカウントの紐づけが可能になり、取引残高はBinanceで一気通貫で確認出来るだけでなく、Paxful上で購入したコインは直接Binanceのウォレットへ転送したりすることも可能になります。

これは便利と言えば便利ですが、結局Binance以外の第三者プラットフォームでもアカウント作成や本人確認が必要なわけで、無理をしてBinanceを通してトレードをする理由も、直接的なユーザーベネフィットもそこまで大きくないと思います。

日本でもBinanceとTaoTaoの協業が先日発表されましたが、直接Fiatを扱えないBinanceではおそらくこういう間接的なサポートや協力しか出来ず、直接的な日本のユーザーへのベネフィットは結局限定的になるのでは、と個人的には思います(もちろん協業を通したノウハウや知見の共有によるサービス改善などはありえますが)

BINANCEのFIAT戦略の伸び悩みからわかること

さて、こう見てみるとクリプト界隈では常に大きな期待値を背負っているBinanceにとって、Fiat戦略は今のところあまり機能していないように見えます。もちろん、これは時間の問題で次第にBinanceがFiat領域でも強くなっていく可能性はまだありますが、同時にこれはより構造的な問題でBinanceと言えど簡単にFiat市場は攻略できないのではないか、とも自分は考えています。具体的なポイントとしては、

Binanceの中国依存

以前もコラムでTetherと中国市場の強い結びつきについて紹介したことがありますが、ご存知の通りTetherの需要の多くは中国マネーだという見方が業界内では強いです。

世界でも圧倒的な現物取引高を誇るBinanceですが、その内のかなりの部分は中国からの需要の取り込みであると予想されます。そうであれば、アメリカやヨーロッパ、中国以外のアジア地域でいまいちBinanceがパッとしないのも納得できる部分はあります。

同様の現象はその他の大手中国系取引所でも見られ、韓国と日本でも事業を展開するHuobiの取引高シェアは、それぞれの市場で1%未満です。クリプト to クリプトや先物市場では大きな存在感を誇るBinanceやHuobiでも、その内訳は中国に頼る部分も多く、そう簡単にその他のローカル市場に対応できるわけではないということです。

BinanceのFiat戦略はユーザーの為になってない

BinanceのFiatゲートウェイの拡大は、各地域での仮想通貨へのアクセスを向上させる、と今のところ好意的にとらえられていることが多いですが、よくよく考えて見ると、BinanceがFiat市場を拡大させることはアメリカや日本などの、すでに十分にFiatと現物へのアクセスが存在する地域のユーザーにとっては実はあまり嬉しい話ではありません

Binance USをオープンするにあたり、Binanceはアメリカ市民へのBinance本体へのアクセスを禁止しました。日本でも規制にそった形でパートナー取引所と経営していくなら、似たような形になるでしょう。

大部分のユーザーにとってBinanceに求めているのは多数の仮想通貨のリスティングと流動性、まだ先物やステーキングなどの現地市場に存在しないプロダクトへのアクセスです。つまり、Fiatを拡大するのは実はBinanceの都合であって、ユーザーにとっては実は迷惑な側面もあるわけです。

Fiatの不調と対照的な先物市場の躍進

一方、Binanceの先物市場は非常に好調です。2019年9月にローンチしたビットコイン無期限スワップ商品の取引高シェアは現在17~18%まで上げてきており、現在全体の3分の1ほどを占める首位のBitmexとの差を少しづつ縮めています。(添付画像参考)

これだけをとっても、Binanceの強みはグローバルに開かれたクリプトネイティブなソリューションやイノベーションであり、細分化されて規制によりスピードが遅くなるFiat市場は必ずしもBinanceの強みではないことがわかります。

暗号通貨市場の変質のサイン?

さて、以上のように少し掘ってみるとBinanceのFiat戦略は今のところあまり上手くいってないようですし、今後ローカルレベルでの規制や競争がさらに激しくなると、Fiat市場での急速な拡大は簡単ではないと思います。

一方で、BinanceがFiat領域でも存在感を増したいという狙いも大いに理解出来ます。先日のアメリカ財務長官の発言もありましたが、世界の規制当局は暗号通貨取引のさらに厳しい規制を常に検討していますし(KYC&AML強化など)、中国でも中央銀行デジタル元が発行された時に中国の市場へのアクセスや仮想通貨の扱いがいきなり変わる可能性もあります。そういうリスクへの対策として、Fiat側の世界でも勢力を伸ばしておきたいという狙いなのでしょう。

さらに想像を広げると、Binanceのこの一部方向転換はBinance単体の戦略ではなく、暗号通貨、ブロックチェーン業界全般で今後規制の強化や、当局との協調が求められる世界へのシフトを意味しているのかもしれません。もしそうだとしたら、本当にそれを懸念すべきなのは実はBinanceだけではなく、むしろその他大勢の分散化に失敗しているブロックチェーンやDefiプロジェクトなどかもしれません…。