今日から金曜日のコラムを担当するAndGoの練木照子と申します。ビットコインマキシマリストで、米国と米ドルを中心とする今の国際政治経済秩序をビットコインがどう変えていくかに特に興味があります。こうしたトピックを中心としつつ、海外動向もタイムリーにお届けします。

初回コラムとして別テーマの原稿を用意していたのですが、4月13日に付けた最高値から51%下落という史上6番目の調整直後ということもあり急遽変更、調整の引き金となったと言われるElonツイートを改めて振り返ってみようと思います。

「Teslaはビットコインの化石燃料使用量の急増に危機感を抱いている。そのため、ビットコイン決済を停止した。保有ビットコインの売却予定はない。エネルギー使用量が少ないアルトコイン決済を検討中だ。」

5月13日のElonツイートを機に始まった騒動、当初はいつもの冗談か彼なりのビットコイン普及戦略の一環だと思いました。直後にTeslaがカーボンクレジット市場参入を目指しているという5月13日付けのロイター記事が見つかり、参入申請を審査する米国環境保護庁の心象をよくするためのパフォーマンスの可能性も考えました。しかし、その後のビットコイナーとの応酬を追ううちに、Elonはビットコインの目的と価値提案を誤解しているという暫定的結論に至りました。ビットコインを見誤った人はElonが初めてではありません。2015〜17年のブロックサイズ戦争に立ち会った人なら、今回の騒動に既視感を覚えるのでは?

Elonの主張は2点です。

  1. 化石燃料を大量消費するマイニングは環境に悪いのでやめるべき
  2. トランザクション処理効率を上げて手数料を下げるべき1については、東さんが5/13、大石さんが5/14付のコラムでカバーされたので、そちらをご覧ください。2について、ElonはDogecoinに以下の変更を提案します。
  • ブロックサイズを10倍に
  • ブロック生成間隔を10分の1に
  • トランザクション手数料を100分の1に

これが実現すると10MBのブロックが6秒ごとに新規生成されるため、合意形成にはノードの高スペック化と通信回線の高速化が必要となり、ノード運営コストの上昇→ノード数減少→ネットワーク中央集権化が不可避だと思われます。

ここまでの流れから、2つの可能性が浮かびます。

A. ビットコインを単なる決済システムと見ている

B. ビットコインを貨幣として見てはいるものの、その技術側面、性能を偏重している

AはElonがPayPalの前身X.com共同創業者であることを考えると自然な気もします。ただ、決済システムを目指すアルトコインはあるかもしれませんが、ビットコインが目指すのは貨幣システムです。例えるなら、ビットコインは貨幣発行と供給管理を担う中央銀行であり、全銀システムや日銀ネットのような大口決済システムです。ベースレイヤーに求められるのはスピードやコストという効率性よりも、安全性や改ざん耐性です。効率重視の日常的な小口決済ならセカンドレイヤーのLightning Networkで十分です。アメリカでビットコイン決済を開始したPayPalはビットコインのセカンドレイヤーと捉えることもできます。

Elonが求めるものが、膨大な量のトランザクションを短時間で安価に処理できる決済システムであれば、ノードを1つに集約、すなわち、中央管理体を置けばよいだけで、そもそもブロックチェーンも独自トークンも不要という話になります。

Bの可能性はビットコインコア開発者Jimmy Songも指摘しています。最新技術を採用した高性能コインがビットコインを代替するという考えはアルトコイン開発者や支持者の間でも一般的です。

Elonは従来品よりも優れた電気自動車とロケットの開発に成功しました。最新技術を駆使すれば、ビットコインより性能に優れた貨幣を開発できると考えても不思議はありません。彼は以前から貨幣を語る時に “latency” 「待ち時間」という単語をよく使い、これが最短の貨幣が優れた貨幣だと語ったこともあります(下図左)。

では、質問です。仮に日本円に最新技術が実装されて即時決済が可能になったとしたら、あなたはビットコインや株などの資産を減らして日本円の保有を増やそうと思いますか?大半の人は思わないでしょう。ビットコインや株を買うのは、日本円の価値保持能力が信じられないからではないでしょうか。貨幣の優劣を決めるのは性能ではなく、時間が経っても購買力が下がらないという信用なのです。

この信用を得るには、将来にわたり希少性を維持できることを年月をかけて証明するしかありません。

ビットコインは過去12年間、2100万という供給上限を変えず、供給操作を介した価値操作につながる中央集権化を回避すべくノード運営コストを抑えてネットワーク分散性を保ってきました。規定の供給スケジュールが遵守されているかはノードを介して誰でも検証可能です。この不変性という実績と検証性で信用を徐々に勝ち取ってきました。

Elonは自身の信用をDogeの信用構築に利用することができます。アルトコインの常套手段です。ホワイトペーパーやウェブページにチームメンバーの学歴、職歴、受賞歴を並べ、著名人をアドバイザーとして雇うのは個人の信用をコインに投影するためです。

ただし、個人の信用は長続きしません。Elonはいつか死にます。その前に気が変わって突然プロトコルを変更したり、Dogeから離れることもありえます。長期的希少性の証明としては個人の信用はあまりに脆弱です。貨幣には特定の個人や組織に依存しない、誰にも操作不可能な非中央集権的な希少性が必要なのです。ビットコインはデジタル世界の希少財とも言える珍しい数字を探す競争PoWを介して長期的価値保全性を担保しています。ただ、この概念はビットコイナー以外にはなかなか理解できないようです。

下図右のTwitterでのやりとりです。ビットコイナー「PoWに代わるものはない」イーサリアン「俺はVitalikを信じるよ」映画「アイアンマン」のモデルとなったカリスマ起業家、世界有数の富豪であるElonでさえ理解に苦労するビットコイン。まだ世界人口のわずか2%しか保有していないビットコイン。本コラムを今読んでいるあなたは全世界を、そしてElonさえをもフロントランしていると考えることもできます。

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