Vol.330 ビットコインが変わる2025年10月―OP_RETURN制限撤廃の先にあるシナリオ (2025年9月29日)
ビットコインはデジタルゴールドである。
これは現在、ビットコインに関して定着し始めている価値の定義でもあります。
しかし2025年10月、OP_RETURN(オーピーリターン)制限の撤廃により、この定義が揺らぎ始めるかもしれません。
ブロックチェーンに任意のデータを書き込める容量を大幅に拡大するこの変更は、プログラムレベルでビットコインの価値を再度問い直す論争を引き起こしています。
現在進行形で起きているビットコインコア(Bitcoin Core)とノッツ(Bitcoin Knots)の対立は、単なる技術論争に留まりません。
ビットコインの本質的なアイデンティティをめぐる論争に発展しているのです。
この件、投資家にとっては短期的な値動き以上に重要な、次の重大ファンダメンタルズになる可能性があります。
数字が語るビットコイン・コアへの信頼の揺らぎ
今回の事態を理解する上で、まず知っておきたいことがあります。
それは、ビットコインが世界中に散らばった「ノード」と呼ばれるコンピュータによって動いていることです。このノードは、簡単に言えば「ビットコインのルールブックを持って、取引が正しいかチェックする審判役」のようなものだと考えれば良いでしょう。
例えば、誰かが「0.02BTCを送った」と宣言した時、その人が本当にそのBTCを持っているのか、二重に使おうとしていないかを、世界中のノードが確認します。
銀行なら中央のサーバーが管理しますが、ビットコインには中央がありません。だから、誰でもこの審判役になれるんです。
2025年9月現在のBitnodesのデータによると、全世界で約23,246のビットコインノードが稼働しており、これらは181カ国という、ほぼ全世界に分散して配置されています。
そして、このノードを動かすソフトウェアにもいくつか種類があります。
現在の主流は「Bitcoin Core(ビットコイン・コア)」と「Bitcoin Knots」です。どちらもルールブックの解釈がちょっと違うだけで、基本は同じビットコインネットワークを支えています。
つまり、どのソフトを使うノードが多いかは、ビットコインコミュニティの「どんなビットコインでありたいか」という価値観を映し出す鏡だとも言えます。
さてここで興味深いデータがあります。
以下のグラフは、Bitcoin CoreとBitcoin Knotsのノード数推移を示すグラフです。
2025年に入ってからKnotsが着実に増加し、全体の約24%(5,920台)を占めるまでに成長しています。一方、Coreは18,690台で横ばい傾向です。
つまり、4台に1台がCoreを使っていないことがわかります。

この変化の背景には、開発方針をめぐる根本的な対立があります。
簡単に言えば、「ビットコインを純粋な通貨として守りたい派」と「新しい機能を追加して拡張したい派」の戦いです。
そして現在、市場は後者のCore開発チームへの不信感をKnotsノードの運用へスイッチすることで表明しているのです。
市場の不信感は過去との矛盾から――ブロックサイズ戦争の教訓はどこへ
現在、Core開発チームはOP_RETURN(オーピーリターン)という機能の制限を大幅に緩和しようとしています。
これは「ビットコインのブロックチェーンに、お金の送金以外のデータも少しだけ載せられる機能」だと考えれば良いでしょう。
たまに結婚式のイベントなどで、「改ざんできないブロックチェーンに永遠の愛を刻む」などを実行している方もいたりしますが、その一部は上記の機能を活用したものだったりします。
Bitcoin Core開発者のPeter Todd氏らは、この制限を緩和または撤廃する方向での議論を進めています。
スケジュール的には、2025年10月のBitcoin Core 30で実装予定となっていますから、もはや目前ですね。
一方、Bitcoin Knotsを主導するLuke Dashjr氏は、ブロックチェーンの肥大化を防ぐため、現行の制限を維持または強化すべきという立場を取っています。
過去との大きな矛盾
でも、この変更の何が問題なのでしょうか。
実は2017年、ビットコインコミュニティでは「ブロックサイズ戦争」と呼ばれる大論争がありました。当時、Core開発者たちは「ブロックサイズを1MBから2MBに増やすだけでも、ノード運営のハードルが上がって中央集権化を招く」と猛反対したんです。
結果的に別のグループがBCHという分岐コインを作成し、マイニングのハッシュパワーを奪い合う事態が起こったりしました。
それなのに今、サイズ拡大に反対をしていたCore開発者たちが「無制限のデータ保存を許可する」方向に舵を切ろうとしているのです。
さきに示した図1のノード数推移は、「おいおい、Coreがやってることには賛成できないよ」という市場の意思が表れているのです。
Samson Mowによる「Bitcoin CoreとKnotsの論争」がわかりやすい
さてこの背景にある事態、仮にOP_RETURNの制限が撤廃されたらどうなるのか、などに関しては、What Bitcoin DidポッドキャストでSamson MowがDanny Floodと議論している内容が参考になりそうです。
参考: The Fight For Bitcoin's Future | Samson Mow https://podcasts.apple.com/au/podcast/the-fight-for-bitcoins-future-samson-mow/id1482455669?i=1000728696951
以下は、番組で議論された主要な論点のまとめです。
OP_RETURN制限撤廃論争の背景
Core開発者はUTXOセットの肥大化を防ぐため80バイトの制限撤廃を提案しています。しかし、実際にはUTXOの方が安く、撤廃してもOP_RETURNの使用は増加しない可能性があるという指摘もあります。
Core開発者への不信感
Luke Dashjrの排除や反対意見へのBANなど、Core開発者の行動はコミュニティからの信頼を低下させています。
企業の影響と透明性の欠如
Chaincode Labsの要請でOP_RETURN撤廃が提案されたこと、Citreaが受益者であることなどが明らかになり、企業の影響力と透明性の欠如が批判されています。
Bitcoin CoreとKnotsの論争は、OP_RETURN制限撤廃やCore開発者への不信感、企業の影響力にまで広がっています。技術的議論を超えて、ビットコインの本質をめぐる対立が表面化しているのです。
この先に起こりうる2つのシナリオ
さてこの先、Coreが推し進める容量制限の撤廃がビットコインに取り入れられるのか否かは、誰も予測することができません。
しかしながら、投資家としては、それぞれのケースで何が起こるのかを事前に想定しておくことも必要と考えます。
少し個別ケースで深掘りしてみましょう。
シナリオA: Core提案が通った場合
メリット:
- レイヤー2プロジェクトの活性化により、ビットコイン経済圏が拡大
- 取引手数料の増加によるマイナーの収益性向上
- 機関投資家向けの新たな金融商品開発の可能性
仮にOP_RETURNの制限が撤廃された場合、何が起きるでしょうか。
ポジティブなケースとして、ビットコインの利用範囲が今よりも広がり、新たな価値創造の可能性が出てきます。サイドチェーンでのスマートコントラクト実行が容易になり、より多様な使い方に道を開くことになります。
また、それらサイドチェーンの取引が本体に取り込まれる時には、おそらく今よりも大きな手数料が発生します。半減期が進みマイニング報酬が減少していく中、取引手数料を確保することは、ハッシュレートを健全に保つために必要という見方もあります。
リスク:
- スパムトランザクションによるネットワークの混雑
- ブロックチェーンサイズの肥大化による分散性の低下
- 「ビットコイン」ブランドを悪用した詐欺プロジェクトの増加
しかし、ネガティブな側面も無視できません。
Samson Mow氏は、ポッドキャスト内で警告しています。「ビットコインには圧倒的な知名度がある。その名前を使って、理解の浅い投資家に向けて怪しいトークンを売り込む動きが必ず出てくる」と。
実際、「このトークンはビットコイン上で発行されているから安全です」というミスリードなマーケティングで、新たなトークンを売り込み、発行者が利益を得て開発を放棄し、後には残骸だけが転がっている――そんな未来も想像できてしまいます。
シナリオB: Knotsが主流になった場合
メリット:
- ビットコインの「健全な通貨」としての純粋性維持
- ブロックチェーンのスリム化による分散性の向上
- 長期的な持続可能性の確保
仮に現行の80バイト制限が維持される場合、ビットコインは現在と同様、純粋な価値保存・送金手段としての地位を保つことになります。これは長期的なセキュリティと分散性を重視する選択です。
ただし、この場合でも技術革新のニーズは存在するため、サイドチェーンやライトニングネットワークなどのレイヤー2ソリューションの重要性がさらに高まることになるでしょう。
リスク:
- イノベーションの停滞
- 他のブロックチェーンへの開発者流出
- 機能面での競争力低下
レイヤー2ソリューションの重要性
ビットコインのネットワークがPoWで維持されるためにも、確かな手数料の収入源を確保することは必要です。
なぜならビットコインの採掘報酬(ブロック報酬)は、2140年頃には0になるからです。
レイヤー2は、メインチェーンの処理負担を軽減しつつもスケーラビリティを高めることで、マイナーの手数料収入を増加させることに繋がります。
ブロック報酬がゼロになった後のビットコインネットワークの持続可能性を支える重要な役割を担うことからも、開発のニーズは、ますます高まることになるでしょう。
まとめ
過去の事例(SegWit導入、Taprootアップグレード)を振り返ってみると、こうした技術的変更は実装から市場への影響がはっきりするまで、1年前後のタイムラグがある傾向があります。
現在のBitcoin CoreとBitcoin Knotsの対立は、単なる技術仕様の違いを超えて、ビットコインの本質的なアイデンティティを問う分岐点となりはじめています。
2025年10月のBitcoin Core 30リリースで予定されているOP_RETURN制限撤廃は、この論争をさらに加速させることになるのは、間違いないでしょう。
投資家にとって重要なのは、この技術論争を短期的な価格変動の材料として捉えるだけにとどまらず、ビットコインの長期的な価値の変化として理解することかもしれません。
ビットコインは依然として実験的な側面を持つ技術です。その発展過程における議論や対立は、むしろ健全な成長の証とも言えるでしょう。
今回の記事で検証したようなシナリオを自分なりに持っておけば、市場がアタフタし始めた時にも、落ち着いて対処できる可能性も上がります。
変化の先に何があるのか、まだ誰にも分かりません。それでも、準備をしている投資家と、何も知らない投資家では、結果は大きく変わってくるはずです。
常に変化には柔軟な対応で臨みたいものですね。
引き続き、ハッピー・ビットコイン!
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