ビットコインのスケーリングは様々な手法で試されており、今後も新しいレイヤー2プロトコルが発明されていくことは確実です。

スケーリングを目的とするプロトコルは基本的には「多数の取引をオフチェーンで扱い、オンチェーンには最終結果を記録する」というアプローチを採ります。でも、よく考えてみると私達の日常生活にも似たような仕組みのものがあります!クレジットカードです。

クレジットカードを使うとき、私達は多数の取引を毎月の引き落とし日にまとめて支払っています。ビットコインの世界にクレジットの概念を持ってくるとどのような形になるでしょうか?今日はビットコインとクレジットの関係を考えてみる頭の体操です。

・カストディ型ウォレットはデビット?それとも「逆クレジット」?

・eCashを使ってビットコインではなく負債を管理する逆転の発想

・信用には価値がある

カストディ型ウォレットはデビット?それとも「逆クレジット」?

一般的にはデビットカードは銀行口座などに紐づいており、支払いの都度残高から引き落とされます。一方、クレジットカードは冒頭で述べた通り、一旦負債として記録され毎月精算されます。ビットコインのカジュアルユーザーが使いがちなカストディ型ウォレットはデビットカードのような存在なのでしょうか?

確かに、デビットカードは銀行口座などから引き落とされるものであり、カストディ型のウォレットも銀行口座のようなものです。規制の差こそありますが、どちらも信用創造する能力があり、ユーザーの残高を預かったり、ユーザーの指示を受けて送金したりします。

ただ、専門家ではないので主観混じりの意見にはなりますが、デビットという概念には引き落とされる対象となる自分の財産が確かに保管されていることが十分に確かであるという前提がほしいと感じます。例えば、預けても返ってこない可能性が十分に大きければ、それは預金というよりは貸付なのではないでしょうか。(銀行預金も実質的には銀行への貸付だと思いますが、政府による救済というモラルハザードでリスクが最小化されているため特別扱いされていると感じます)

銀行も過去に多くのやらかしをしてきましたが、カストディ型ウォレットや取引所がユーザーの資金を使い込んだり盗難されている例も枚挙にいとまがありません。むしろ、カストディ型ウォレットに資金を預けているユーザーは「無担保で貸し付けている」という見方が実質に近いのではないでしょうか。(こちらも近年日本国内では謎の力によって被害がほぼ全額補償されてきた点が似ているといえば似ていますが)

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カストディ型ウォレットや取引所に預けたビットコインは実質的に自分のものではないという格言:Not Your Keys, Not Your Coinsは、つまりはデビット型の前提である「預けたコインは安全に保管されている」を否定しているものです。

このように、セルフカストディを諦めたコインはカストディアンに対する貸付、すなわち「逆クレジット」というのであれば、その特徴を活かしたケースというのもあるのでしょうか?

すぐに思いつくのはレンディング、そして数年前に個人的にファンだったHosted Channelsです。

レンディングは業界のシステミックリスクに巻き込まれがちでトラブルの種になりやすいイメージですが、ビットコインを貸し付けて金利を得るという商品です。通常であれば満期が設定されており、ウォレットのように好きなタイミングで引き出して使うわけにはいきませんが、仮に好きなタイミングで引き出せるレンディングがあればまさにカストディ型ウォレット運営者に対してクレジットを与えている状態といえるでしょう。(無論、運営者はそのコインを運用していることになるのでリスクがあります。)

Hosted Channelsとは、カストディ型のライトニングウォレットだがユーザーに仮想的なチャネルとノードを割り当てたもので、ウォレット運営者からユーザーへの負債が電子署名された形で(仮想的なチャネル内の残高として)残るという点と、送金先をウォレット運営者から秘匿することもできることが特徴の仕組みでした。(これを使ったウォレットはもう現存しないかもしれません。)

この場合、やはりユーザーがカストディ型ウォレット運営者にビットコインを貸し付けているような状態であることに変わりありませんが、ライトニングチャネルに仕組みにより必ず運営者による電子署名付きの貸付残高が記録に残ります。もし利用者が運営者に対して法的措置を取ることができれば、ある程度の証拠能力が認められるでしょう。

このように、カストディ型ウォレットはユーザーに対して負債があるという見方をすれば、その負債をどう管理するかというアイデアが出てくるのです。

eCashを使ってビットコインではなく負債を管理する逆転の発想

今日この記事を書くきっかけになったのは、カストディ型であることが唯一の欠点ともいえるeCashを逆転の発想でクレジットの管理に使うアイデアを読んだためです。どういうことでしょうか。

まず、eCashについては過去記事をご覧ください。カストディアンが預かったBTCを、ユーザー間で匿名にやり取りできる技術です。

Chaumian E-cashを扱うエコシステムがCashuを中心に活発化
本稿でも2021年夏に紹介したFedimintはその後も着々と支持を集めており、特にフェデレーション型ではない通常のカストディによるChaumian E-cashエコシステムが成長し続けています。カストディと引き換えにプライバシーとスケーラビリティを実現するFedimint及びChaumian E-cashについては下記の記事をご覧ください。 Federated Chaumian Mintsで分散カストディアル・ライトニングウォレットビットコインのレイヤー2はライトニングネットワーク以外にもいくつか出てきていたり、提案されています。そのうちの1つとして、Federated Chaumian Mintsというものが少し話題になっていたので、それがどういうもので、何ができるのかを調べてみました。 https://fedimint.org CHAUMIAN MINTとは ビットコインが誕生する前にも、いわゆる仮想通貨というものは実験されていました。新しいものから遡ると、代表的なものではE-gold、Liberty Reserve、Digicash (Ecash)などが挙げられます。特に、公

そして当然カストディが問題となるのですが、これをひっくり返してクレジットの管理システムにするとユーザー目線での問題は一気に解決します。カストディされているのはビットコインではなくて、運営者に対する負債なのですから。

こちらのGistで説明されている構想では、ユーザーとウォレット運営者がエスクローに資金を預け、それを担保に運営者がユーザーに毎月一定額までeCashトークンを発行し、ユーザーは使いたいときにそのeCashトークンを使ってビットコイン送金ができます。月末の精算時には、ユーザーは使用した分のeCashトークンを再度購入し、すべてのeCashトークンを提出することによって来月分のeCashトークンを付与してもらうことができます。

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月末の提出が限度額ピッタリになることと、ユーザーが選べる限度額の選択肢を絞ることで、運営者側からみて「どのユーザーがいくら使ったのか」という情報が推測しにくくなります。

またユーザーが月末にeCashトークンを十分に買い戻さなかったり、前月分の未使用eCashトークンを提出しない場合には金利を課すことになります。金利の引き方は次月分に付与するeCashから差し引くアイデアらしいですが、匿名性の観点からどういう仕組みが好ましいかは議論の余地があるでしょう。

そう、クレジットと匿名性の相性はあまりよくないはずで、実際この提案も担保の提出を前提としています。もし担保の代わりに属人的な信用を取り入れるのであれば、eCashの匿名性はある程度捨てる必要が出てくるでしょう。

信用には価値がある

このようにビットコインにクレジットの概念を持ち込むと面白いアイデアが出てくる余地がたくさんあります。

ただ、当然ですが信用はビットコインで守られているわけではないので、現実世界に結びついたものです。ビットコインがあれば信用はいりませんが、信用があればビットコインはより柔軟に使えます。このあたりが、ビットコイン界隈では少数派であるDIDなどに取り組んでいる人たちが見ている世界なのではないでしょうか。

クレジットを通してビットコインのスケーリングを助けるアイデアとしては他にも、何年か前に個人的に推していた、仮想的なライトニングチャネルを経由するルーティングなども考えられます。斬新なデザインスペースだと思うので、ビットコインと同じトラストレス性に縛られないがビットコインに貢献できるような新しい仕組みが見つかっていくのが楽しみです。