ビットコインマイニングにおける採掘報酬は「新規発行分+ブロック内の総トランザクション手数料」ですが、前者が半減期によって減少していく中で後者だけでネットワークが健全に持続できるかについて疑義を呈する人も少なくありません。

送金手数料はかなり変動するもので、送金需要が少ない期間は地を這うような低水準なのに急に高騰したりします。採掘報酬に占める手数料の割合が大きくなるほど、これがほぼリアルタイムでネットワークのハッシュレートにも影響してくるという見方があります。

仮にこのように手数料の変動を受けてハッシュレートが不安定化したり減少しやすくなった場合にも、(既存のブロックを巻き戻すのに必要な労力を十分に積めばよいだけなので)現在より長い期間決済を承認とみなす閾値を伸ばせば十分にPoWのセキュリティは享受できますが、これによるユーザビリティの側面での悪影響は未知数です。

個人的には、分散性を重視する以上は人間がビットコインの変化に適応する必要がある部分もあると思いますが。

ビットコイナーの間でこれを問題視する人もいくつかのアプローチを提案しています。例えば、Peter Todd氏が2100万枚の上限を撤廃し一定量の発行を未来永劫続ける「Tail Emission」を提案していることは夏に本稿でも記事化しました。

2100万枚までしか発行されないビットコイン。仮に発行上限を撤廃して「Tail Emission」を導入しても問題がないという主張の根拠は?
ビットコインはそれぞれのビットコインユーザーの主観で成り立っています。本稿でも何度か取り上げているように、ビットコイン最大の特徴に「自分のノードで、好きなルールで検証できる(気に入らなかったら自由にフォークできる)」というものがあるためです。 それでは、ビットコインユーザー100人に聞いた「ビットコインのアイデンティティ」はどんな感じになるでしょうか。実際に調査したわけではありませんが、おそらく次のような特徴をビットコインユーザーの共通認識として挙げてくれるでしょう: ・発行上限2100万枚を目指して、4年ごとに発行枚数が半減する ・Not Your Keys, Not Your Coins ・非中央集権性に価値を置いている このようにビットコインの発行上限は非常に有名な特徴となっていますが、一般的な法定通貨にはない特徴のため比較的批判されやすい部分でもあります。特に現代の金融政策とは「通貨の量を調整することで経済活動を安定させる」という思想に他ならないため、通貨の量を調整しないビットコインは異端なのでしょう。 逆に、上限撤廃論者はビットコインの中でも異端で、かなりの少数派

ほかにも、手数料のボラティリティを下げる方法があれば影響が軽減されるという考え方もあります。例えば、送金手数料は次の72ブロック(6時間)に分けて分割でマイナーに割り当てられるとか、送金手数料を先物のように予約できる(安いときにあらかじめ購入し、高いときに購入せずに済む)仕組みの導入などです。これらはそれほど具体的な話になっていないようですが、アルトコインには需要によってブロックサイズが変動するという似たような仕組みが導入されているものもあります。

今日はまた別のアプローチとして「Bitcoin Hodler Tax」と呼ばれる、保有期間に対して手数料を払う仕組みを考えてみます。あくまで不人気な提案であり、概念以外はそれほど決まっているわけではありませんが、ビットコインが主に価値の保存に利用されている以上、応益負担は考え方としては悪くないような気もします。

 (なお、あまりビットコインに詳しくない人が言いがちな「手数料が不足してマイナーが一切いなくなる」というような極論は送金需要があれば手数料が増加する手数料市場や、ハッシュレートが下がればブロックが見つかりやすくなる難易度調整の仕組みについての理解不足です。騙されないでください。)

・ユーザーあたり年間平均のオンチェーンTX回数は「0.66~1回」

・Bitcoin Hodler Taxはいくらが最適か?

・ソフトフォークで導入できるアプローチは簡単だが、必ずしも問題解決につながらない

ユーザーあたり年間平均のオンチェーンTX回数は「0.66~1回」

ビットコインのユーザーについての信憑性が高い統計は存在しません。そもそも、ビットコインのユーザーの定義が定まっていないためです。1 satでも保有している人なのか、取引所ユーザーをカウントすべきか否か、Microstrategyの株主は?間接的な株主は?など、線引きが難しいためです。

一応、よく引用される数字としてはCrypto.comが行っているMarket Sizing Reportに出てくる2.96億人という数字が挙げられます。これは取引所ユーザーを含めたすべてのビットコイン保有者であり、MSTRなどを通した間接保有を除いた推計として最大規模のものです。

また、オンチェーンの1アドレスを1ユーザーと数えるのはよくある間違いですが、似た間違いとしてオンチェーンのUTXO数を見ると1.87億件ほどあります。

仮にビットコインのユーザー数が2~3億人だとすると、オンチェーントランザクションは過去1年間で2億件ほど行われたため、ユーザーあたりの年間平均のオンチェーンTX回数は0.66~1回となります。直感と比べていかがでしょうか?

実際には極少数のユーザーが多数のトランザクションを行っていて、体感値としては上のユーザー数の100分の1未満でも驚きません。現在のトランザクション手数料はその少数のユーザーが負担していることになります。

Bitcoin Hodler Taxはいくらが最適か?

ところが、現在のビットコインはデジタルゴールドという文脈で保有されることが多く、価値の保存手段(投資対象)としてみなされていることがほとんどです。先程体感値ではオンチェーントランザクションを行っているユーザーは1%以下じゃないかと述べましたが、要するにそれ以外の大半のユーザーは取引所に預けっぱなしで、値上がりのみを享受しているわけです。すなわち、ビットコインネットワーク自体には一切手数料を払っていません。

もちろん、取引所を通して間接的にトランザクションを出しているという意見もあるかもしれませんが、それも大半は入出金関連なので入出金を行わないユーザーは寄与していないと見るべきではないでしょうか。

そこで価値の保存にはいくら払うのが最適か?という問題があります。例えば現在、ビットコインの新規発行による供給インフレ率は0.85%程度となっており、これだけでもマイニングには悪影響が出ていません。

仮にあと2回の半減期を乗り越えてこれが0.2%くらいになるあたりから採掘報酬のうち送金手数料が占める割合が相対的に大きくなり、新規発行分を超える時間が多くなってくるとしましょう。ネットワークが必要とする「送金手数料以外を原資とした維持費(=Bitcoin Hodler Taxとして徴収すべきと主張できる金額)」はビットコイン全体に対して0.2%となるわけです。

冒頭で紹介した記事でPeter Todd氏が主張するのは、それなら2100万枚の上限を撤廃して毎年21,000,000*0.2%=42,000枚を未来永劫発行しよう、という内容です。これの亜種として、​Bitcoin Hodler Taxだと年利率0.2%ほど保有者の保有額を減らしてみようとなります。(減らされるよりは新規発行で賄われるほうがなんだか気持ちはいいですね)

ソフトフォークで導入できるアプローチは簡単だが、必ずしも問題解決につながらない

無論、Bitcoin Hodler Taxのような概念はおそらく一生ビットコインに導入されない可能性のほうが高いと思われます。なぜなら、ビットコインのリバタリアニズム的な思想と相性が悪いのみならず、悪影響を受けるユーザーの人数のほうが圧倒的に多いためです。(強いて言えば取引所などの手数料負担が相対的に楽になる可能性はありますが、取引所主導のフォークが失敗したSegwit2xという前例があります。マイナーも儲けが増えるかもしれませんが、これもマイナー主導のフォークでBCHが分岐していった過去があります。)

しかし仮に導入されるとしたら何種類かのアプローチが考えられます。一番カンタンなのは、「消費するUTXOの古さによって最低の手数料を増加させていく」ようなもの、例えば10万ブロック前にできたUTXOを使うには必ずトランザクション手数料が1万sats以上である必要がある、というようなコンセンサスルールの導入です。

これなら、取引所に資産を預けているユーザーも(もし取引所が本当に全員分のビットコインを保管しているのであれば)取引所がトランザクションを発行するたびに間接的にBitcoin Hodler Taxを支払うことになります。

ただし、このコンセンサスルールにはトランザクションを作成する数多のウォレットが対応しなければならず、そこに(Bitcoin Hodler Tax自体に伴うものとは異なる)大きな導入への障害があります。また、適切な手数料設定も誰にもわからないため、目的を達成できずに不必要な複雑性を導入しただけに終わってしまうリスクもあるでしょう。

ビットコインの思想とあまり相性のよくないBitcoin Hodler Taxですが、価値の保存に対する応益負担としては筋の悪くない話だと思います。残念ながら当面はあまり議論が盛り上がるトピックではないでしょう。