ビットコインと全銀ネットを比較するのは妥当なのか?
先週、2日間にわたって大手を含む10の銀行で全銀ネットが使えなくなるという大きなシステム障害が発生し、給与や代金の振込が一時的に行えなくなるなど社会に非常に大きな影響がありました。
ところが、一部のビットコイナー(というよりはブロックチェイナー?)が「ビットコインはこんなにシステムが落ちたことはない、Buy Bitcoin (Use Blockchain?)」のような発言をしたのが目についたのか、以下のツイートに非常に多くの賛同が集まってました:
Web3界隈の方々が全銀システムに対して、「だから中央集権型システムはダメ」「ビットコインは2009年から障害なし!」と煽ってた。
— マスクド・アナライズ(DXコンサルタント・作家) (@maskedanl) October 11, 2023
さすがに1973年というCOBOLやFORTRANやオフコンの時代に開発されて、いまや1日480万件を正常に処理する実績に対して、初めての障害でディスるのは失礼だと思うよ。
果たしてビットコインと全銀システムを比較するのはフェアなのでしょうか?どちらかというと全銀システムを擁護してビットコインを批判するリプライが多数寄せられていましたが、逆にこの比較はビットコインにとって不利な側面もあると考えられます。今日はその性質の違いを深掘りしてみましょう。
・そもそも全銀ネットとは
・ビットコインはただの決済システムではない
・これまでのビットコインの「ダウンタイム」
・よくある誤解:フォークは欠陥ではなく仕様
そもそも全銀ネットとは
全銀ネット、あるいは全銀システムとは「全国銀行データ通信システム」のことを指し、日本国内の銀行間送金を電子的に行うためのシステムのことを指します。冒頭のツイートの言う通り1973年に初代のシステムが稼働を始め、2019年から今に至るまでは第7次の全銀システムが稼働しているそうです。
みなさんの記憶にも新しいかもしれませんが、2018年からは平日8:30~15:30までしか実行できなかった国内送金が原則24時間いつでも実行できるようになりました。これも全銀システム側の対応による改善です。
このように異なる銀行間の国内送金に使用される全銀ネットですが、やっていることは非常にシンプル(国内送金を累計していって定期的にまとめて決済)なように思えてもシステム自体は非常に大きなものだそうで、今回の障害も原因の特定にはかなり苦労したようです。
今回の障害はあくまで一部の銀行で他行宛の振込ができなくなったというもので、全ての国内送金ができなくなったわけではないという点にも注意が必要です。(とはいえ三菱UFJやりそな銀行などが影響を受けていたため非常に多くの送金に障害があったとは言えそうでうが)
ビットコインは決済システムではない
さて、冒頭のツイートはビットコインと全銀システムを比較するのは失礼ではないかという内容で、実は私もこれには同意する部分があります。なぜならその2つは異なる目的を主軸に置いたシステムだからです。
そう、ビットコインを全銀ネットと比較することはVISAやWestern Unionと比較するのと同じ問題を抱えているのです。それはビットコインが通貨自体でもあるのと比べ、全銀ネットやVISAは単なる決済ネットワークであり、通貨の部分は日本円というものにフリーライドしていることです。
例えば読者の皆様はビットコインのオンチェーンでの処理能力に上限があったり、Proof of Workという非中央集権に極端に特化したアルゴリズムを採用していることは意図的な判断によるものと理解されていることでしょう。その意図とは、誰もが公正に検証できる通貨としてのビットコインを実現するためです。(逆にこの前提を捨てて、ごく一部の参加者のみが検証できるような通貨を作ることもできますが、法定通貨や企業ポイントに対して差別化ができませんね)
したがって、ビットコインのダウンタイムがかなり少なかったり信頼性が高いのは第一に通貨として設計されているのである結果であり、おびただしい数のトランザクションを処理することが前提でダウンしても通貨自体の信任に影響のない全銀システムのようなものとは根本的に要求されているものが異なるからという側面があります。
そしてもちろんこのビットコイン批判派にもこの違いがわからずに的外れな批判を口にしているツイートが数多くありました。つまり、ビットコイン支持派も批判派も、ビットコインと全銀ネットを比較していること自体が誤っているのです。
これまでのビットコインの「ダウンタイム」
ところでビットコインには2009年以来ダウンタイムが全くなかったという主張(この主張をするツイートは見つけていないので虚偽かもしれませんが)も明確に誤っています。なぜなら、ビットコインには有名な2回のダウンタイムが過去に存在するためです。
1回目は2010年におよそ8時間の間ダウンしました。この利用は"Value Overflow事件"と呼ばれるものに関連しており、1844億BTCを発行するトランザクションがコンセンサスルールに弾かれなかったことに対応するためでした。本来は2100万BTCまでという発行上限がありますが、これを守るためのコードにバグがあったことに起因します。修正後このトランザクションは無効となり、その直前のブロックからネットワークが再開しました。
2回目は2013年におよそ6時間の間ダウンしました。これはソフトウェアのバグによってネットワークが分裂してしまったことに起因するものです。
これらのうち1回目は「通貨の信頼性」に関するバグで、2回目は「通貨の信頼性と決済システムとしての信頼性」に関するバグと見ることもできます。いずれにせよビットコインの場合はシステムが使えないと通貨としての信用に影響があるため非常に重大な出来事とされています。
ちなみにこのまま行けばあと数年でビットコインの累計のダウンタイムは0.01%を割り込み、AWSやGoogleのような大手クラウドプラットフォームが保証する信頼性レベルに達するそうです。
よくある誤解:フォークは欠陥ではなく仕様
少し余談めいてきましたが、ビットコインを批判するツイートの多くが触れていた中で1つだけ特に気になった指摘がありました。処理できるトランザクション数 (ビットコイン上に別の決済システムを構築すればよいだけ)、消費電力量 (同上)、ハッキング (むしろデジタル時代全般の問題)のように技術的に解決すべき問題とは異なり、利点を欠点と読み間違えている指摘です。そう、「ハードフォークが発生するから使い物にならない」という意見です。
おそらく2017年にビットコインキャッシュが分岐したハードフォークを指していると考えられますが (その後ビットコイン自体で重要なハードフォークは起こっておらず、草コインが生まれるフォークとビットコインキャッシュからさらに分岐したフォークが起こった程度です)、確かに一部の参加者に混乱をもたらしていたのは事実でしょう。しかし自由にハードフォークできるというのはビットコインを守る上で最重要とも言える特徴の1つです。
ビットコインは参加者全員がコンセンサスルールに合意することで使用できる通貨です。そこに絶対的な「正しさ」を決定する権威はいません。参加者1人1人の主観的な正しさについてコンセンサスが取れているからその参加者間で使用でき、多数決とも異なります。
この仕組みでは、仮に多数派が間違っていようと彼らの主観に同意する必要はありません。ハードフォークという形でオプトアウトし、志を同じくする仲間と経済圏を構築することができます。分裂していった人たちが心変わりして戻ってくる可能性だってあります。このように強制に依存しない通貨であることがビットコインの法定通貨に対する最大の特徴の1つと言えるでしょう。
残念ながら本質的すぎて、表面的な情報ばかりが流通してしまう検索エンジンからは得られにくい視点なのかもしれません。確かにここに到達するのに自分も時間がかかりました。フォークに関する誤解はビットコインの思想があまり理解されていないことによるものかなと感じました。(確かに混乱はいつまでも起こるでしょうが)
まとめ
金融系のエンジニアリングに興味のある方の間でもあまりビットコインについて考えを整理できている人っていないのかな、と感じる一連の出来事でした。ビットコインには通貨と、通貨として利用するための最低限の決済システムが実装されていますが、このことが議論を混乱させやすいのでしょう。これからは混乱を防ぐためにもなるべくその2つの性質は分けて話そうと心がけていきたいです。
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