大乱闘・オンチェーンデータ分析業界
1/21にビットコイン研究所の記事でオンチェーン指標を使ってトレードしている方が少なからずいることと、オンチェーンデータを提供する会社もたくさんあることを紹介させていただきました。つい最近、オンチェーンデータプロバイダーによって同じトランザクションについての解釈が異なることで、市場が少なからず混乱する事件があったので、その事件について書いてみます。
2月22日:大口の利確と見られるトランザクションビットコインが最高値を更新し6万ドル直前まで上昇していたとき、多くのオンチェーンデータ分析ツールが取引所への28,000BTCほどの流入を検知しました。これに反応してマーケットは急落、連日の上昇で膨らんでいたロングポジションを巻き込んで下落し、2日間で1万ドル以上の下落を記録。一週間ほど市場を冷やかす事件となりました。実はこのときから、「Coinbase関連」(@whale_alert)だとか「Geminiへの流入」(@CryptoQuant)、OKEx関連(@thisisbullish)という説があり、トランザクションの解釈が割れていましたが、いずれにせよ大口の動向はオンチェーンデータを通じて常に意識されており、市況によっては大口の送金に市場が激しく反応することもあるという1つの例になりました。
3月15日:大口利確再来?さて、3週間が過ぎ、ビットコインが再び週末に最高値を更新し初の6万ドル台に到達していたところに、またもや大口の利確が疑われる送金が検出され、またたく間にツイッターで話題となりました。CryptoQuantのDiscordではGeminiへ19,000BTCほどの入金というアラートが発せられましたが、ツイッターではWhale AlertがCoinbaseへの多額の入金を警告したいました。
オンチェーンデータ各社よりは精度が低いものの、Whale Alertのほうがツイッターでは拡散力がありますね。
ほどなくしてやはり解釈の違いに関して、オンチェーンデータ分析の会社が他者の解釈を引用リツイートで批判するという面白い状況になりました。今回の記事を書いたのはこれが面白かったからです。まず、各社とも同意していた点は「送金先のアドレスはCoinbaseではなくGeminiである」という点でした。これに関しては、Whale Alertの使用しているアドレスのラベリングが不正確だったからだと考えられます。(アドレスをラベリングする方法は後述)それを踏まえて、Glassnodeは「送金元のアドレスもGeminiなので、内部管理的な送金であり新規の売り圧力とは考えにくい」との見解を発表。これに対してCryptoQuantが根拠を求め、自らの見解と理由を解説。
理由は「送金元のアドレス(へと送金している大量のアドレス)はP2SH (3で始まるアドレス)を使用しているが、Geminiは1かbc1で始まる入金アドレスしか提供していない」というもので、したがって内部的な送金ではなく、大口の入金・流動性提供目的で他所の取引所からの入金・OTC取引のいずれかだと考えられるという説でした。そこで更に送金元のアドレスの残高の推移のグラフを見た人が、のこぎりの刃のような形になっていると指摘。(徐々に貯まっていったBTCを一気に出金する、の繰り返し。) これは通常は取引所などの事業者がウォレットの管理上の理由で行う行動パターンなため、単一のトレーダーという可能性はほぼなくなりました。CoinMetrics社のデータエンジニア(@khannib)は、根拠は示さずにBlockFiのウォレットだと指摘。BlockFiはGeminiのカストディを使用しているので論理が通っていることもあり、これで推理がまとまりました。
すなわち、現時点で一番有力な説はBlockFiからGeminiのホットウォレットに8,700BTCが入金されており、潜在的な売り圧力になっている可能性はある(@thisisbullish)という解釈です。さらに追記で、1日も経たずにGeminiのホットウォレットからHash Oceanというクラウドマイニング詐欺に関連したアドレス宛てに7,600BTCが出金されており、悪い大人が価格操作目的で大量入金しただけなのではないかという意見も出ています。実際に、Geminiのマーケットの流動性を考えると過剰な入金ではあったので、ある程度信憑性があるかもしれませんし、送金だけ見ていては騙される可能性もあることは頭に留めておく必要があります。
アドレスを取引所ごとに分類する方法
さて、ブロックチェーン上のアドレスの所有者が誰かは簡単にはわかりません。オンチェーンデータプロバイダーは各取引所のアドレスをどのように分類しているのでしょうか。
クラスタリング
まず、大前提として取引所は入金アドレスを多数持っていたり、ホットウォレットとコールドウォレットを使い分けているなど、多くのアドレスを使用しています。
また、これらは役割が異なるため、送金による独特の関係性が現れることになります。その関係性を自動化して「関連性の強いアドレス集団」をまとめることをクラスタリングといいます。入金アドレスからホットウォレット・コールドウォレットへと入金されていく様子など、比較的明らかなので分類しやすいですが、複数の取引所がまとめて1つとして検出されてしまったり、取引所以外の事業者と区別できないことがあるなど、これだけでは細かいところに粗が出やすいです。
例えばWhale AlertがCoinbaseとGeminiを区別できなかったのは、おそらく同じ取引所としてクラスタリングされてしまっていたからと考えられます。
送ってみる
実際に取引所に口座を開いて入金をし、その資金の流れを追うことでホットウォレット・コールドウォレットなどを発見しその情報をクラスタリングに利用する方法があります。口座開設や手数料、時間などのコストがかかってしまいますが精度が高い情報が得られます。例えばある程度クラスタリングした後に検証してみて、「bitFlyerに入金したのになぜかOKExのウォレットに入ったと表示される」のようにデバッグするのに使えます。取引所の入金アドレスが動画内やツイッターなどに表示されていることがありますが、その情報から他人の送金を追って擬似的に行うこともできます。
行動分析
送金が多い時間帯、曜日や、残高の推移グラフの形などからそのウォレットの性質、場所などをある程度推測することができます。
また、トレーダーだと断定した場合は、過去の値動きと照らし合わせて上手いか下手かなども考えることができてしまうため、大口のトレーダーはフロントランニングなどを防ぐため本来は所有アドレスを隠そうとするはずです。他者のラベリングをパクる大量にあるUTXOをきちんと処理して、正確にラベリングするのは非常に大変なプロセスです。ラベリングを公表しているいくつかのサイト (リッチリストやOXTなど)からデータを取ってきて満足している場合がありますが、それらのサイトのデータの質が悪いと間違った分析に繋がります。
データの質が命
結局のところ、今回の騒動はオンチェーン分析で自動化できる精度に限界があり、専門家でも意見が割れるような状況もよくあることを表しています。しかし、ブロックチェーン上の1次データは全員が共有しているので、最終的には専門家の分析力によって事実に関してある程度コンセンサスが取れたことも感心しました。
さて、オンチェーンデータを提供しているサービスは必ず自動化して提供しています。即時性が何よりの価値だからです。これを元にアルゴリズム取引している主体もいるでしょう。したがって、今回のようにプロバイダーによって解釈が異なると、ユーザーに表示されるデータも異なり、また、例えばglassnodeはプラットホーム上では外部からの入金として検出していましたが、2月22日・3月15日の両方とも内部的な送金という人間による解釈を元にデータを修正して表示しています。一度表示した後にデータを修正されるリスクもあることを覚えておきたいと思います。結論から言うと、根拠にする際は自分もある程度の専門性が必要で、誤ったデータや悪意のあるデータに踊らされる可能性もかなりあるので、注意が必要です。
また、オンチェーンデータ各社は今回の騒動に学び、判断の基準を公開したり、分析をより頻繁に公表して信頼を獲得するなど、これからもっと差別化していくかもしれません。
まとめ
・オンチェーンデータの解釈は分析者によって異なる
・1次データを丁寧に手動で見ていけば、専門家は誤りも見抜ける
・データプロバイダーによっては対応が大きく異る
・分析はパズルみたいで面白いので、興味がある方は以下のTwitterアカウントをフォローするのがおすすめ
@ErgoBTC @thisisbullish @woonomic @glassnode @cryptoquant_com @khannib @ki_young_ju
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