(Vol.291) 1971年と2008年:バフェットのビットコイン批判は通貨の本質が変わったことを見落としている
「アパートは家賃を生み出し、農場は食料を生産する…資産が価値を持つためには、誰かに何かを提供しなければならない。」
「世界中のビットコインを25ドルで売ると言われても買わない」
ウォーレンバフェット氏によるこの指摘は、一見投資の本質を鋭く突いているように見えます。そして、これらのフレーズは、ビットコインの価値を拒否する人々によってしばしば引用をされています。
もちろん、バフェット氏が残した莫大な財産、投資に対する哲学、積み上げた実績には疑う余地がありません。ですが、このビットコイン批判を見るにつけ、何かバフェット氏が重要なものを見落としているような気がしてならないのです。
当記事では、1971年と2008年に起きた通貨の根底を揺るがす事件を振り返りつつ、バフェット氏が決定的に見落としている転換点について考えてみたいと思います。
バークシャー社の運用成績はリーマン後に市場平均並みに下がっている
冒頭でバフェット氏は、通貨の役割が変わったことを見逃していると書きました。
なぜそんなことをいうかと言えば、バークシャー社の運用成績がリーマンショックを経てから市場平均並に下がっているからなのです。 ちょっと数字を確認してみましょう。
以下は2019年のハザウェイ社の公開資料で、4ページ目に年度ごとのブックバリューの年間成長率と、SP 500の年間成長率が比較対象として掲載をされています。
https://www.berkshirehathaway.com/2019ar/2019ar.pdf
これをもとに、バークシャー社の運用がS&P 500に対してどの程度アウトパフォームしたのかを年度ごとに計算し、リーマンショック前後で平均値を出してみました。
- バークシャー社の運用成長率をSP500と比較した数字
- リーマン前(1965-2007): 平均➕17.5%のアウトパフォーマンス(上振れ)
- リーマン後(2008-2019): 平均➖1.7%のアンダーパフォーマンス(下振れ)

- 特筆すべき年:
- 最大アウトパフォーマンス:1976年 (+105.7%)
- 最大アンダーパフォーマンス:1999年 (-40.9%)
- パフォーマンスの特徴的な変化:
- 1970年代:非常に大きなアウトパフォーマンスが多い
- 1980-90年代:安定したアウトパフォーマンス
- 2000年代以降:アウトパフォーマンスの縮小
- 2008年以降:市場との差が顕著に縮小
この結果を見ると、リーマンショック以降の数値がなぜこんなに平凡なのだろうと感じてしまいます。
筆者が思うに、バフェット氏はやはり通貨の役割が決定的に変わったことを見逃していたのではないかと考えるのです。
ここからは、少しだけ通貨の歴史を振り返りつつ、バフェット氏が見落とした通貨の本質の移り変わりを確認していきましょう。
全てが変わった1971年、ゴールド価格もFXもここから全て始まった
バフェット氏の冒頭の指摘を聞き筆者が感じるのは、その指摘が当てはまるのは、通貨が価値の尺度として正しく機能すると言う前提条件が必要だと言うことです。
少しだけ通貨の歴史を振り返ることをお許しください。1971年にブレトンウッズ体制が崩壊しました。それまで金との固定相場であった米ドルは、市場で自由に取引されることで値段が変動するようになりました。
金とドルの固定相場が終わると言う事は、その他の通貨との固定相場も終わると言うことです。その瞬間から、ドルと日本円やポンドとも全て変動相場制が始まりました。
日本で最も個人に取引されているのがFXなわけですが、この原点となったのは、ブレトンウッズ体制の崩壊によって通貨同士の固定相場が崩れたことによるものなのです。
もともと通貨の本質は、価値を計測するための物差しとしての機能です。ところがその価値を計測する機能自体を市場にぶん投げてしまったのが1971年と言うことになります。
平たく言えば、1971年以降、通貨は通貨ではなく、コモディティーとなったのです。
ただし、人間には記憶があります。制度が変わったとしても、一気に新しいシステムに順応する事は現実問題としてできないのです。
ですから、1971年までは金の保有残高に応じて通貨が発行できると言う制度に縛られていました。それを人類は放棄したわけですが、ただ記憶の中には、金との固定相場に対しての哀愁が残っていたといえます。
法定通貨の発行残高が増え、購買力が下がった場合には、通貨をこんなに発行して良いのだろうかと言うような議論も出ます。
これは正当な疑問ではあるのですが、実際のところは、固定相場を通貨が終えてしまった以上、どれだけ通貨が発行されたって問題は無いわけです。
なぜならば、通貨はコモディティーであり、そのレートを決めるのは、他の通貨との強弱関係で数値化してしまえばそれで良いわけです。
でもそうならなかったのは、やはり1971年の金との固定相場の記憶を人類が引きずり哀愁を感じていたことが影響しているでしょう。
2008年のリーマンショックで、金本位制の哀愁はゴミ箱に捨てられた
さて、そんな金本位制への哀愁を引きずりながら進んでいた人類ですが、2008年にリーマンショックと言う究極の金融ショックを迎えます。
このリーマンショックの最中、市場からは決済できる資金が消え、高いレバレッジで回っていた金融市場は持っている資産を売却したくても、買い手がいない、決済ができないと言う状況に投げ込まれます。
こうなると単純にドルが足りないから決済ができず、それだけの理由で倒産する銀行や証券会社等が続出し、経済破綻一歩手前まで米国は追い込まれます。
そこで米国が取った対策は、すべての問題を押し流せるだけの米ドルを市場に供給し、すべての問題を札束で流してしまうと言う手段です。
ある意味で、人類は1971年から2008年まで引きずっていた金本位制への哀愁を強制的に立ち切ることを迫られたのです。
それまでの中央銀行の役割は、物価と雇用の安定でした。
ですが、2008年のリーマンショックを経て、中央銀行の役割の最優先課題は、金融のシステムリスクを回避することになったのです。
つまり、人類は、連鎖破綻が起こるぐらいなら、通貨を大量に供給して、それをうやむやにしてもよいと言う解決手段(?)を手に入れたのです。
こうしてみると、1971年のブレトンウッズ体制が終わり、金との固定相場から変動相場へと移行し、その哀愁を2008年に完全に中央銀行が断ち切り、ゴミ箱に投げ捨ててしまったという流れを見ることができます。
通貨の役割が変わったことを見逃したバフェット
さて、ここまでで通貨の変遷を振り返ってきました。金との固定相場が終わり、その哀愁を人類が最終的に断ち切ったのがリーマンショックだったと言う話ですね。
では、このように役割を変遷してきた通貨ですが、果たして価値の尺度としての機能を維持してきたと言えるのでしょうか。筆者はNOと考えざるを得ないです。
そして、その通貨の役割が、決定的にリーマンショックで変わってしまったことを、バフェット氏はおそらく理解できていないのだと思います。
もちろん、今のバフェット氏は事業承継のタイミングに入っていますから、あえて過大なリスクを取り、資産を減らす可能性を取る必要もないわけです。
ただバフェット氏自体は、投資の哲学としてわからないものにはお金を入れないと言うことを明言していますし、徹底しています。
そして彼はビットコインの事はわからないと言っているわけですから、それはそれで良いわけです。
でも、ページビューが欲しい人たちは、どうしてもあえてバフェット氏にビットコインどうなんだと聞いてしまいますので、苦笑いしているバフェット氏がそんなことより殺鼠剤の2乗と言ったところで、それは批判されるものでもないでしょう。
筆者がこの記事を通じてお伝えしたかった内容としては、どれだけ偉人と素晴らしいと呼ばれている人でも、時代が変われば自らを変えて適応していく必要があると言うことです。
そしてバフェット氏だからといって言ってることが正しいと、安直に飲み込むのではなく、現実のパフォーマンスがどうなっているのかを確認し、世の中の言説を自ら判断すると言う癖をつけておくのは、損はしないのよねということです。
上手に、いいとこ取りして行きましょう。
引き続き、ハッピー・ビットコイン!
ココスタ
佐々木徹
次の記事
読者になる
一緒に新しい世界を探求していきましょう。
ディスカッション