ビットコインは貨幣になれる? ②貨幣化プロセス
本コラムは「【2021/06/04】 ビットコインは貨幣になれる?①貨幣の条件」の続きです。①を未読の方は、先に①に目を通すことをおすすめします。
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ある財がフル機能を備えた貨幣へと進化するには、以下4つの段階を経ると言われています。
- コレクションアイテム
- 価値貯蔵手段
- 交換手段
- 価値尺度
第1段階では、例えば、美しい、珍しいなど人々の興味、収集意欲を掻き立てる財の特性が需要を喚起します。貝殻もビーズも金も貨幣になる前は装飾品として収集されていました。
ビットコインの場合、それまでの中央管理体がトランザクションの正当性を担保する電子マネーや決済ネットワークと異なり、中央管理体を排除した分散ネットワークでありながら、始動当初から設計通りに動いたことに興味をそそられた暗号学者、コンピュータサイエンティスト、サイファーパンクがマイニングを始め、マイニングしたコインを互いに送受金し、プロトコルやコードに欠陥がないか検証していた2009〜2010年にコレクションアイテムとしての需要が生まれ、価値がつきました。
その後、ビットコインは半減期をトリガーとするバブル→バブル崩壊→停滞期というサイクルを繰り返しながら価値を上げ、ブロックサイズをめぐる内輪揉め、度重なる取引所ハッキング、ランサムウェアなど犯罪での利用などの悪いニュースをPR材料にしながら認知度を高めます。その過程で、総供給量と供給スケジュールが予め決まっているビットコインに希少性を見出し、価値貯蔵手段として使う人が現れました。
ビットコインの第2段階の価値貯蔵手段への移行を決定づけたのは、昨年2020年のコロナパンデミックです。未曾有の事態に対処するため、各国政府は巨額予算を組み、中央銀行は紙幣印刷機をフル稼働させ、国民に現金を配り、企業に無利子無担保で融資します。すると、インフレを予測した個人が自衛策として金や優良株とともにビットコインを買い始めます。
(https://youtu.be/YPHEM4gEqvg はアメリカの経済刺激策予算10兆ドルを可視化した動画です。法定通貨の価値に疑問を感じずにはいられないホラー映画のようです。)
5月にマクロ投資家Paul Tudor Jones氏が資産の2%(100億円相当)をビットコインで保有していることを明かすと、それまでビットコインを冗談のネタとしか思っていなかった機関投資家が態度を軟化させます。8月にはMicroStrategyが21,000ビットコインを約260億円で購入したと公表し、株価が急騰しました。今年2月に同社が開催したビットコインの購入と保有に関する企業向けセミナーには6,917社から8,197名が参加、企業がビットコインを持たないリスクを意識し始めたと解釈してよいでしょう。その数日後に飛び込んだTeslaによるビットコイン購入のニュースが最後のダメ押しとなりました。
(先月以降のTesla CEOによる発言は一時的に価格変動率を高めて普及を妨げる可能性はありますが、欧米では法人によるビットコイン購入、保有ハードルを下げる商品やサービスが次々とリリースされており、機関投資家と企業によるインフレ保険としての利用は今後も増え続けると考えます。)
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現在、ビットコインは貨幣化プロセス第2段階に位置し、価値貯蔵手段として機能しています。では、ビットコインが第3段階の交換手段に進化するための必要条件は何でしょう?
一つは優れた価値貯蔵手段として社会に広く認知されて一般的受領性を持つようになること、もう一つは価格が安定することです。価格上昇中の財を交換手段として使うには、将来上昇する購買力を放棄するという機会費用が発生します。2010年にピザ2枚(3,000円相当)に1万ビットコイン(今の価値で約415億円)を支払った人が分かりやすい例でしょう。価格が安定すれば機会費用も低位安定するため、交換手段としての利用が増えます。
そして、交換手段として広く通用するようになると、最終段階の価値尺度に進化します。今でもビットコインで購入可能なモノやサービスはありますが、これは単に日本円の表示価格を支払い時の交換レートでビットコインに換算しているだけで、価値尺度はあくまでも日本円です。ビットコインと日本円の交換レートに関わらず、モノやサービスの対価をビットコインで受け取ることを選好する人が増えると価値尺度に進化します。
ビットコインが次段階に進み、交換手段としても機能するようになるのは、まだ数年〜数十年先でしょう。ちなみに金は数世紀を要しました。
今生きている人の中に財の貨幣化を経験した人はいません。ビットコインの貨幣化プロセスに立ち会える私たちは、貴重な体験ができるだけでなく、価値貯蔵手段から交換手段への進化過程で起こる購買力の著しい上昇の恩恵を受けられるという意味でも非常に幸運です。
ビットコインを保有することはコールオプションを買うようなもので、ダウンサイドリスクは1倍に限定される一方、リワードは無限です。このリスク・リワードの非対称性のおかげで、ほんの少量の保有でも、万が一のインフレや制度崩壊の保険として機能します。資産配分0%と1%の差は極めて大きいのです。
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もちろん、ビットコインはそう簡単に貨幣になれるわけではありません。現在の法定通貨制度で最大の権力と財力を誇る人たちから通貨発行という莫大な利権を奪うのですから、激しい抵抗が待ち受けるのも当然です。
先週のコラムでお伝えしたように、6月8日にエルサルバドルでビットコインを法定通貨にする新法が成立しました。支払手段として差し出されたビットコインの受け取りを拒むことは許されないと明記されており、現地ではビットコインが一足先に第3段階の交換手段に進化する可能性が濃厚です。価格表示はビットコインでもよいという書き方なので、ビットコインとドルのどちらを使うかは事業者の選択となります。したがって、最終段階の価値尺度への進化、すなわち、ビットコインがフル機能を備えた貨幣となるのは、エルサルバドルでもまだ先です。
エルサルバドルの決断は、早くも各方面に波紋を広げています。エルサルバドルと似たような境遇にある国からは、支持に加え、自分たちも後に続くとの意思が示されています。パラグアイとパナマでは来月ビットコイン法案が議会提出される予定です。一方の先進国では、大半のメディアは批判的に報じています。国際機関は一様に懸念を表明し、IMFはビットコインを日常の交換手段として使うリスクを指摘、世界銀行はビットコインの透明性欠如と環境への悪影響を理由に、エルサルバドルを支援できないとコメントしています。今のところ、批判は各国、各機関から散発的に出ているだけですが、これが組織的なものに発展するとエルサルバドルの動きを鈍化させる可能性はあります。国際基軸通貨としての特権を失いたくないアメリカや、自らの存在理由が脅かされる中央銀行、IMFなどが、なりふり構わぬ攻撃を仕掛けてくることは想定しておくべきでしょう。
いずれにしても、ビットコインの貨幣化を考える上で、エルサルバドルという実験場ができたことの意味は大きいです。今後も動向を注視し、進展があれば随時お伝えしていきます。
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