今週新しく見つけたサービスに、nostrで利用する公開鍵(npub)をユーザー名としたカストディ型のLightning Addressサーバーがありました。このサービスの特徴の1つは送付されたsatsをユーザーが指定したChaumian Mint上のE-cashとして保管し、出金時にはこれを移転するというところです。

npub.cashとしてローンチしているこのサービスですが、ウェブサイトに最低限の説明が書いてある程度のアーリーな段階ですので利用自体は自己責任でお願いします。本質的にWallet Of Satoshiの利用と出金方法以外はほとんど変わりませんが、Fedimintとの合体によって化ける可能性も感じました。

今日はそんなCashu Addressについて説明します。

・Cashuとは

・Cashu AddressはLightning Address+Cashu Tokensが融合した形

・カストディアルなCashuによるスケーリングの役割

Cashuとは

ビットコイン以前にも様々なデジタルマネーの試みがなされていました。その中の1つに、暗号学者David Chaum氏が考案した、公開鍵暗号による電子署名に基づいたものがあり、Chaumian E-cashと呼ばれます。

特徴としてはブラインド署名の利用により同じMint (サーバー)内でユーザーが送金する内容についてサーバー側が知ることができない、つまりプライバシー性に優れる点です。

David ChaumによるDigicashをはじめ、E-cashを社会実装する試みは多数ありましたがどれも大きな支持を集めることなく終了していきました。しかし、ビットコインのスケーリングやプライバシー面での課題に対する1つのアンサーとしてここ数年のうちに一部のビットコイナーが期待し、少しずつそのエコシステムを広げています。過去のChaumian Mintになかった特徴として、共通のビットコインという裏付け資産やライトニングネットワークを利用することによってある程度の相互互換性を実現できる点などが挙げられます。

CashuとはこのようなChaumian Mintを扱うためのオープンソースソフトウェアです。詳しくは去年の春に書いた記事をどうぞ。

Chaumian E-cashを扱うエコシステムがCashuを中心に活発化
本稿でも2021年夏に紹介したFedimintはその後も着々と支持を集めており、特にフェデレーション型ではない通常のカストディによるChaumian E-cashエコシステムが成長し続けています。カストディと引き換えにプライバシーとスケーラビリティを実現するFedimint及びChaumian E-cashについては下記の記事をご覧ください。 Federated Chaumian Mintsで分散カストディアル・ライトニングウォレットビットコインのレイヤー2はライトニングネットワーク以外にもいくつか出てきていたり、提案されています。そのうちの1つとして、Federated Chaumian Mintsというものが少し話題になっていたので、それがどういうもので、何ができるのかを調べてみました。 https://fedimint.org CHAUMIAN MINTとは ビットコインが誕生する前にも、いわゆる仮想通貨というものは実験されていました。新しいものから遡ると、代表的なものではE-gold、Liberty Reserve、Digicash (Ecash)などが挙げられます。特に、公

またアメリカを中心としてFedimintという技術に興味のある開発者やビットコイナーも一定数いますが、これはフェデレーション型(複数主体が管理する)Chaumian Mintのことです。Chaumian Mintによる持ち逃げリスクの対策という側面もありますが、実際はカストディ周りの規制を回避する方法として関心が持たれているのではないかと感じます。

Federated Chaumian Mintsで分散カストディアル・ライトニングウォレット
ビットコインのレイヤー2はライトニングネットワーク以外にもいくつか出てきていたり、提案されています。そのうちの1つとして、Federated Chaumian Mintsというものが少し話題になっていたので、それがどういうもので、何ができるのかを調べてみました。 https://fedimint.org CHAUMIAN MINTとは ビットコインが誕生する前にも、いわゆる仮想通貨というものは実験されていました。新しいものから遡ると、代表的なものではE-gold、Liberty Reserve、Digicash (Ecash)などが挙げられます。特に、公開鍵暗号による電子署名によって使用するEcashは論文で提案されたのが1983年で、David Chaumという暗号学者が考案しました。Ecashは考案者の名前を取って原始的なChaumian Mintに分類される暗号資産取引プラットフォームの代表例です。 Chaumian Mintは、運営母体のサーバー(Mint) がデジタル署名したトークンを付与し、ユーザーは移転の際にサーバーにそのトークンの所有権移転を請求するという構造

Cashu AddressはLightning Address+Cashu Tokensが融合した形

さて、Cashu Addressは「(nostrで利用しているnpub)@(Cashu Address提供ドメイン」という形のLightning Addressを誰でも利用できるものですが、通常のLightning Addressとは少し違います。

送金者がLightning Addressにインボイスを要求すると、Cashu Addressサービスはユーザーが指定したMintのE-cash発行用のインボイスを取得し、送金者に返送します。そのインボイスに対して送金が実行されE-cashが発行されるとサービス側がそれを保管します。ユーザーは出金したいときにこのトークンを自分のE-cashウォレット宛に送ってもらったり、あるいはライトニングを利用して別のMintやライトニングウォレットへと引き出すなどします。

このようにLightning Addressのバックエンドを工夫することで送金者にユーザーが指定したMintのE-cashを生成させて代理保管するという、Cashu Addressプロバイダー自身はライトニングノードすら要らない非常にシンプルな仕組みとなっています。生成するトークンはCashuのP2PK機能(トークンをビットコインのように特定のキーペアを知らないと使えないようにロックする機能)を使ってロックするなどして、Cashu Addressサービスのカウンターパーティーリスクを限定する試みも含まれています。

カストディ型のLightning Addressサービスと同様のカウンターパーティーリスクに加え、Cashuの性質上指定したMintのカウンターパーティーリスクも負うことには注意が必要です。

将来的にFedimintを指定のMintにするなどしてカウンターパーティーリスクを削減することができれば、カストディ型のLightning Addressサーバーと利用時のリスクはほぼ同じと言えるでしょう。

Lightning Addressやカストディ型のLightning Addressサーバーを利用するリスクについても過去記事をご覧ください。

Lightning Addressと乱立するインボイス請求方法
ライトニングネットワークを用いたペイメントにはインボイスという1回1回の支払いごとに異なる情報が用いられます。そのため、非推奨ながらも固定のアドレスを使い回せるオンチェーンの送金と異なり、ライトニングで送金を受け取るにはインボイスの発行という手順が最初に必要になります。 送金を送金者から開始したい場合に、宛先のノードにインボイスの発行を依頼する方法は前からいくつかありましたが、最近このあたりを考えている人が多いように感じます。今日は8/20にリリースされたLightning Addressを紹介し、他の方法との類似点や違いを見ていった後に、将来的にどうなるのか予想してみます。 https://lightningaddress.com/ 既存のインボイス請求方法 既存のインボイス請求方法で一番有名なのは圧倒的にLNURL-Payだと思われます。これはLNURLという仕様群の1つで、ノードの運営者がLNURLのリクエストを捌くサーバーを動かすことで、「インボイスをくれ」「はい、どうぞ」という流れなどを自動化することができます。 毎回異なるインボイスと違い、LNURLは変更せず使
独自ドメインでLightning Addressを設定する方法、どれがいい?
最近ツイッター(X)に対して思うところがあり、将来的なことを見据えてNostrに力を入れることにしました。というわけで、週に1回つぶやく程度だったアカウントをちゃんと整備して、クライアントもちゃんと選んで、1日数回見ています。 きっかけは以下のポッドキャストにおけるMatt Odell氏の「XはKYCを半強制してくる」という予想でした。広告モデルとしてもユーザーデータが多いことに越したことはありませんし、スパムやボット対策にもなりますから全然ありえる話だと思います。 イーロン・マスクがトルコ政府の圧力に負けて選挙期間中に野党候補のアカウントを凍結したこと、Twitter Blue認証やスパム対策・ボット対策、そして広告ビジネスとデータ収集の相性を考えたときに、1.ツイッターがユーザーのKYCを進めるインセンティブがあること、2.そのKYC情報を元に不利益な扱いを受ける可能性が決して小さくないこと、というOdell氏の見立てが印象的でした。 さて、TwitterになくてNostrにある神機能の1つが“Zap”です。過去にも何回か触れているように、ZapとはLNURL規格を応用した投

カストディアルなCashuによるスケーリングの役割

ビットコインのスケーリングは昔から論争の的になり続けていますが、今もまさに去年からのOrdinals Inscriptions関連のトランザクション手数料高騰によって2017年以来のレベルでホットな話題となっています。特に「ビットコインへの機能追加や変更はリスキーだからやめろ」と主張する保守派と「機能追加や変更によって改善する余地はまだたくさんある」とする革新派に分かれている様相です。

仮にビットコインに今以上の変更を加えないとすると、どれほど効率的に利用されるようになったとしても全世界でノンカストディアルに日常的に送金を行うことは現実的ではありません。かといってカストディによるスケーリング効果(要するに取引所内送金やカストディ型ウォレット内での送金といった、単純なデータベースの書き換え)に過度に頼るとカストディアンの影響力が増したり、ユーザーの資産が盗難・没収などの危機に瀕してしまうでしょう。

おそらく実際に必要なものはどちらの極論でもなく、「ノンカストディアルなビットコインの利用を今より拡大できるようにすること」と「よりよいカストディ型のモデルを実現すること」の両方だろうと思います。その見方からだと、CashuやFedimintは後者の実験を行っていると捉えることもでき、今後の発展に期待してみたくなりませんか。

ツイッターでの議論は(特にポジショントークで熱くなる議題ほど)極論の応酬になってしまいがちですが、ビットコインの成長段階に応じて役立つ技術が同じとは限りません。ノンカストディアルな使い方ができることがビットコインの価値の根源であることは間違いありませんが、それが経済的合理性を欠く金額帯においてはBetter Custodyもまた非常に有意義な探求だと私は考えます。