G7広島サミットが2023年5月に行われましたが、それに先行してG7財務トラックが新潟市で行われました。G7サミット自体ではゼレンスキーがやってきたり、原爆の資料館を首脳たちが見学するなどが話題でしたが、裏のテーマの一つとして中央銀行デジタル通貨(CBDC)が話題になっていたようです。

今回はG7以外の国も含めて、各国のCBDCの研究開発・実装試験・ローンチについて、どのような状況かを見ていきたいと思います。

アメリカのシンクタンクのAtlantic Councilのデータによれば、2023年6月時点で中央銀行デジタル通貨(CBDC)について、現在109の国・地域が導入を検討しているそうです。

6/28時点でのデータによると、

  • Launched 11
  • Pilot 21
  • Development 32
  • Research 45

というように分類されています。G7、G20の主要国などを抜き出してまとめてみました。

各国の状況(Atlantic Council データをもとに筆者作成)

2023年6月時点で、全てのG7諸国はCBDCのDevelopment以上の段階に進んでいます。Developmentではあくまで実験環境の中での実証であり、Pilotは少数の人・組織による実世界での実証ということになります。

日本はPilotの段階にいます。今年の4月から日銀はパイロット試験を開始するという報道がありました。国内での実験だけでなく、Project ステラという欧州中央銀行(ECB)との共同研究もあります。こちらはブロックチェーン・分散型台帳システムの検証です。

全体的にアジアの国ではPilot段階に入っているようです。日本、韓国、中国、台湾、香港、シンガポール、インド、タイなどです。デジタル人民元を配布していた中国もここにいます。

Launchedという分類は、国民の全てがアクセスできるような状態になっていて、口座を開いたり、決済に使える状態であるという意味です。具体的にはバハマ、ジャマイカ、東カリブ諸国機構(OECS)のうち英領ヴァージン諸島を除く8カ国、それにナイジェリアです。中南米はデジタル通貨の利用が盛んになっているようです(日経新聞記事)。

また、Atlantic Councilの資料には、Cancelledという国が2つあります。エクアドルとセネガルです。セネガルはCFAフラン通貨圏で、通貨発行を自国で行いたいというモチベーションがあり、デジタル通貨を2016年に発行したようですが、すぐに停止しました。西アフリカ諸国経済共同体が発行する統一通貨ECOへ移行する予定となっています。

もう一つは、エクアドルです。2014年にエクアドルは独自のCBDCであるDinero Electrónico (DE)をローンチしました。しかしその後、原油安などの経済悪化によってデフォルトの不安が再燃したことから、2017年末にエクアドル中央銀行はDEの取り扱いを停止ししました。エクアドルについては次回に詳しく解説します。

アメリカは?

全世界を眺めるとアメリカは遅れているように見えます。
バイデン大統領は2023年3月に、デジタル資産の研究開発加速を命じる大統領令に署名し、世界の中で出遅れた米国政府のデジタル通貨開発を加速させる指示をしました

一方で、まだCBDCを導入すると決定している訳ではないようです。米連邦準備理事会(FRB)のラエル・ブレイナード副議長は、2023年5月に下院の公聴会で

ドルの世界における地位を当然のことと考えるべきではない。他の主要国などが自国のデジタル通貨の発行に動く中、米国がデジタル通貨を発行することなく、現在と同様の地位を維持できるか考えることが重要

と言いました。

現在において、アメリカ政府はドルの流通を管理・監視できます。アメリカ政府、特に金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)や連邦準備制度、内国歳入庁(IRS、日本でいう国税庁のようなもの)などの機関は、複数の手段を用いて、特に銀行間の国際的な送金やその他の大規模な貨幣移動を監視し、追跡する能力を持っています。

しかし、これらの方法は銀行システムを経由する資金移動に対して主に有効であり、現金による取引や非銀行の金融システムを使用した資金の移動については、それらを追跡するのはより困難となります。アメリカ政府は、CBDCや暗号資産はこれらの現金と同じようなものであると考え、監視が難しくなると考えています。従って、マネーロンダリングなどによる犯罪活動に利用されてしまうことを危惧しています。あるいは、CBDCの普及がアメリカのドル覇権を崩すものと見なしているのかもしれません。

実際、ロシアやイランなどといったアメリカなど西側諸国から経済制裁を受けている国では、ドルによる決済に依存している状況を変えるための一つの手段として、CBDCの発行を研究しています。エクアドルなどの南米でも同じようにドルを法定通貨として使用しています。

それではアメリカはCBDCを無視して良いのかというと、それはそれでできないと考えています。放置すれば、中国が発行するデジタル人民元が世界で、特に途上国で広まり、決済で利用されるようになってしまうと警戒しているからです。ラエル・ブレイナード副議長も

デジタル化が急速に進む現状においては、他国が開発した暗号資産やデジタル通貨が普及するため、デジタルドルの発行が、金融システムの安定性確保で有益となる可能性がある

という認識を示したそうです

日本がG7を先導しているように見えますが、他の国をみると19の国・地域でパイロット試験を行っているようです。決して日本が突出して早いというわけではありません。G7の全体として慎重だということです。その中で、中国など他の国がCBDCを発行するのであれば、自分たちもやらざるを得ない状況に置かれているのだと思われます。