日に日に泥沼化していくBitcoin Core v30のリレーポリシーにおけるOP_Return制限の緩和に関する議論ですが、当初は「想定ユーザー」としてCitreaというレイヤー2の名前が挙げられていました。しかし実際のところ、CitreaでOP_Returnを使う予定はないようで、風評被害だったようです。

CitreaはビットコインネイティブなEVMレイヤー2を目指しているようで、先日のWebXやその前のTokyo Bitcoin Baseのイベントでチームメンバーと話す機会がありました。そこで彼らの技術的新規性に関心しましたが、同時に作っているものに需要があるのか疑問も出てきました。

今日はCitreaについて概要を説明し、どのような需要を狙っているのか、どこに需要を見つけられそうなのかについて書いてみます。

・BitVMを使ったビットコインネイティブなzkロールアップ

・DefiにフォーカスしたEVM L2の需要はあるのか

・EVMチェーンであるがゆえの「斜め上」の使い方も

・メインネットローンチ前だが使ってみることもできる

BitVMを使ったビットコインネイティブなzkロールアップ

Citreaは一言で説明すると「BitVMを使った、ビットコインネイティブなzkロールアップ」となります。

BitVMについては最近新しい記事を書きました:

発表からもうすぐ2年。ビットコイン上で任意の計算を検証できるBitVMはどう進歩しているのか?
2023年の秋に発表されたBitVMはいわゆる「ビットコインL2」、その中でも特にzkロールアップと呼ばれる技術を実現する方法としてその後も改良が続けられており、例えば最近のOP_Return騒動で「緩和されたOP_Return制限の想定されるユーザー」として一部のコア開発者に挙げられたCitreaというzkロールアップも利用しています。 OP_Return戦争再び:ブロックチェーンにデータを刻む機能について再燃する議論今週、ビットコイン関係のツイッターがある話題で持ちきりになっています。GitHubのBitcoin CoreリポジトリにPeter Todd氏が提出した以下のプルリクエストです。 Remove arbitrary limits on OP_Return (datacarrier) outputs by petertodd · Pull Request #32359 · bitcoin/bitcoinAs per recent bitcoindev mailing list discussion. Also removes the code to enforce tho

zkロールアップについては5年ほど前に記事も書いていますが、今と比べるといまいち解像度が低かったので短く説明します。

zkロールアップとはイーサリアムのレイヤー2スケーリングソリューションの1つとして触れられることが多いもので、オフチェーンでトランザクションを実行し、その結果に関する「ゼロ知識証明」と呼ばれるデータを定期的にオンチェーンのスマートコントラクトで検証するものです。これによって、オフチェーンで実行されたトランザクションの内容にコミットすることができるほか、「コミットされた内容と実際の内容が違う」「運営者に出金・利用させてもらえない」のような場合にユーザーが自身でオンチェーンに強制出金したり、オンチェーンからパーミッションレスに利用することができます。

問題が発生した場合にはユーザー単独でオンチェーンで強制出金することができるので、厳密な方の「レイヤー2」の定義にも当てはまるとされます。

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ただし、不正告発にはそもそもユーザーがオフチェーンの状態を入手できる必要があり、「データアベイラビリティ問題」と呼ばれています。ブロックチェーン上のデータ保存のための領域(イーサリアムでいうとblob領域)を使う、安いチェーンを使うなど、様々なアプローチがされてきています。Citreaの場合はOrdinalsとセットで取り上げられることが多いInscriptionとしてビットコインに記録されます。

ビットコインではオンチェーンでゼロ知識証明の検証ができないため、ビットコインネイティブなzkRollupは実現できないとされてきましたが、BitVMの発明により任意の計算が検証できるようになったので実現が近づきました。それがCitreaです。メインネットリリースは10月予定で、ちょうど1年ほど前からBitcoin Testnet 4で稼働しています。

Citreaについて調べていると、Clementineというブリッジ(BTCをCitreaにペグイン・ペグアウトするための仕組み)についての情報も出てきます。こちらもBitVMを使った、トラストを最小化したいわゆる2-way pegです。完全にトラストレスではありませんが、最低1人の不正告発者がいればセキュリティが守られるという構造になっています。

DefiにフォーカスしたEVM L2の需要はあるのか

そもそもCitreaは何を目指してビットコイン上でzkRollupを始めるのかというと、Defiにおけるビットコイン活用が想定ユースケースだそうです。

現状でビットコインをDefiで運用しようと思うと、イーサリアム等のチェーンにBTCを移すためにカストディ業者に渡してしまう必要があったり、そのチェーンのネイティブトークンがないと使用できなかったりという問題があります。それをビットコイン上で行えることにメリットがあるという見方でしょう。

そう考えると、同様にEVMが動作するビットコインサイドチェーンであるRootstockなどと同じ発想だと言えます。(Rootstockは単純なフェデレーション型サイドチェーンなので、預けたビットコインが返ってくるかについてCitreaよりもトラストが必要です)

しかし、果たしてCitreaがそこに勝機を見つけることができるのか個人的に少し疑問です。そもそもEVMチェーン自体が供給過多であり、トラストアサンプションが強いとはいえわずか1%程度の利回りのためにカストディ型のビットコイン預り証を保有する人だってかなりいます。彼らのうちどのくらいがCitreaのトラスト最小化という価値訴求に魅力を感じるかという問題と、そもそもDefiエコシステムのどれくらいをCitreaに誘致できるのかという問題があります。流動性が正義です。

ここに関してはローンチしてもらって様子を見るしかありません。

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少し話がずれますが、2020年ごろと比べると最近はzkRollupの話題が下火に感じます。ポリゴン・ソラナなどの躍進で必要性が感じられづらくなったり、投機のネタが別に移ったり、ステーブルコインが独自チェーンを始める流れがあるなどでスマートコントラクトチェーンにおけるスケーリングをあえてレイヤー2方式でやる必要性が感じられていないのではないかと思います。

EVMチェーンであるがゆえの「斜め上」の使い方も

ただ、仮にDefiの需要が思ったほど誘致できなかったとしても、CitreaでEVMスマートコントラクトが動作し、純粋にビットコインを扱えるという部分に魅力を感じるビットコイナーは少なくないかもしれません。コモディティ化したDefiのみならず、新しい仕組みのウォレットや予測市場など、他のDefiに興味がなくても利用価値のあるアプリケーションが実現しやすいためです。

もしCitrea上のスマートコントラクトを利用することでカストディに該当しないことができるなら、そこの規制回避効果だけでも価値があります。その側面でPMFする可能性もあるのではないでしょうか。

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Liquid NetworkやRootstockと比べてカストディ感がさらに薄いのがポイントです。

メインネットローンチ前だが使ってみることもできる

さて、そんなCitreaですがテストネットで触ってみることができます。最近やっとTanariというウォレットがアプリストアに登場しました。

Tanari – The First Self-Owned Bitcoin Financial Platform
One platform for all your Bitcoin finance. Store, send, borrow, lend, and access bitcoin stablecoins in one simple and secure place.

現時点ではフォセットから受け取った資金をTanari上で送受金することしかできず、機能面では特に面白くないものですがTestnetなので仕方ないでしょう。デザインは非常によく、アカウントはPasskeyとユーザー名のみという構成も面白いです。ウォレットあるあるのシードフレーズのバックアップはなく、逆にソーシャルバックアップ機能があります。

Citreaから面白いものが出てくる可能性は50:50くらいだと感じています。ライトニングとの連携で何か新しいことができないかも気になります。今後も引き続きウォッチしていきたいプロジェクトです。