最近あまりLightningを細かく追ってない業界関係者から、Lightningって盛り上がっているの?と素朴な疑問をぶつけられることがあります。また、それと若干関係して「EthereumのDeFiは盛り上がっているが、Lightningは停滞している」というような言説を聞くこともあるのですが、これは本当でしょうか?

おそらく日本にいる人たちは体感的にEthereum上のDeFiの方が盛り上がっていると感じる人が多いんじゃないかと思います。確かに日本国内だとステーブルコインなど含むDeFiは結構SNSなどでも盛り上がってるように感じますし、サービスの数も増えてきており話題になることも多いです(ハックなどの悪いニュースも増えてきてますが)

どちらの方が「盛り上がっているか」という判断材料としてよく引用されるのが、DeFi Pulseのロックアップされている資金の比較ランキングです。(https://defipulse.com/)

これによれば現在Lightningを含む「DeFi」にロックアップされている資金総額はおよそ841億円。そのうち約半分(420億円)がDAIの発行に使われています。一方、Lightningはこのランキングでは10位で、金額は8.5億円です。ロックアップされた資金のシェアで見るとたったの1%くらいなので、確かにこれだけ見るとその他のサービスやプロトコルと比べてしょぼく感じますね。

ただし、そもそもこのロックアップされた金額でそれぞれの利用度や成熟性を判断するのは非常に危ういです。Ethereum型のDeFiの多くも、Lightningも資金をいったんロックアップする、という行為は近い部分はありますが、リスクとリターンの性質が全く違うからです。

イーサリアム型のDeFiの場合、EtherもしくはEthereum上のトークンをロックアップする行為そのものが一種のサービスのような形になっており、ロックアップする金額に応じて金利が得られたり、DaiのようなStablecoinが付与される、というものが多いです。

実需やネットワークの利用度に関わらず、大きな金額をデポジットすればするほど、その分リターン金額も比例して大きくなる形になっています。ただし同時に、ロックアップする行為自体が大きなリスクを伴い、最近何度も起こっているスマートコントラクトのバグをつかれると資金を失う可能性や、Daiの場合などEtherの大きな価格変動があった時に強制的に清算されて資金を失う可能性もあります。

凄く平たく言ってしまえば、大きな金額をロックアップするインセンティブもあるけど、ハイリスクハイリターンな行為なわけです。

一方、Lightningの場合はLightning上に資金をロックアップするのは比較的安全です。基本的にはビットコインのマルチシグコントラクトの応用なので、DeFiのようなコントラクトのハックやその他の外部的要因で預けていたコインが盗られてしまうリスクは低いです。

ただし、Lightningの場合はコインをたくさん預ければそのまま丸々金利を得られるわけではなく、自分のノードがどれくらい他のノードと接続しているのか、どれくらいLightningを採用するサービスが存在し、ペイメントが頻繁に発生しているか、などの実利用度に依存します。

現状はLightningの店舗利用やLappsの数も限られているため、そもそも大きな金額をLightningにロックアップするインセンティブが元々あまり存在せず、(これはLNの中長期の課題の一つでもありますが)イーサリアム型のDeFiと比べてLNのロックアップ金額が低い要因はここにあります。

DeFiは価格変動リスクやスマートコントラクト攻撃リスクを金利に変えているので、実利用が限られても大きな金額を預けるインセンティブは一応存在しますが、LNの場合実需や実際のトランザクション利用がないと金利は得られず、相応の金額がLNに溜まるのにはまだまだ時間がかかるでしょう

ということで、ロックアップされている金額が大きいからもっと使われているとか盛り上がっている、というわけでは必ずしもないので、その他の指標も見てDeFiとLNの利用度などを比較する必要があります。具体的には各サービスのトランザクションやホルダー数、SNSなどでの認知、関連サービスの利用人数、開発アクティビティなどを一部見てみましょう。

これに関してDune Analyticsという会社が有用なデータをまとめており、主要なDaiサービスのユーザー数を推定しています。これは特定のDeFiを利用した固有イーサリアムアドレスをトラックしたものですが、推定としては十分です。

DeFi Usage Numbers
The most popular metric right now for DeFi adoption is total value locked (TVL), shown on trackers like DeFi Pulse. TVL is a good metric…

これによれば主要なDeFiの過去の累計固有ユーザー数は、

DAI:33万 vs CDPホルダー数 約1万5千

Kyber:6万

Uniswap:5万

Compound:3万

くらいです。

複数アドレスを使っているユーザーも想定して、この数字に仮に7掛けしたとしたら、主要なDeFiサービスでも累計せいぜい2万~5万人のユーザー数、アクティブユーザー数はこの10-20%だと仮にすると、世界でも毎月数千人~1万人くらいの規模です。界隈では局所的に盛り上がっているように感じますが、数字で見ると率直に言ってまだ全然大したことないな、という印象です。

一方Lightningはどうか、というと、Bitcoin Visualsでは現在のLightningのフルノードの稼働数は大体5600、主要なモバイルLightning Wallet(EclairやBluwallet)はインストール数が大体2~3万だと推定出来ます。Lightning上のトランザクション数は技術特性上正確に把握できないですが、アクティブユーザー数でいうとおそらくこちらも大体数千人くらいでしょう。

SNSでのプレゼンスも一つの参考になりますが、

Kyber Network: 約10万

Lightning Labs:約8.5万

MakerDAO:約4.3万

というわけで実はMakerよりはLightning Labsの方が多いですし、KyberとLightning Labsもそこまで大差ない感じです。

ちなみにおまけですが、ビットコインのサイドチェーンとして期待されているLiquidはどうでしょうか?Liquidは研究所でも過去に何回か考察、解説していますが、今のところ感覚的には利用は限定的で想定より進んでないように思えます。現在Liquid上で発行(Pegin)されているL-BTCの金額は約2,000BTC(vs Lightning 930btc) です。
https://liquid.net/?fbclid=IwAR0S6ZrCpPCQpPtnGn_D0fq4K-9jPb_1QodvrmwwLZcomJs_zoAmn8QWvXY

比較対象として適当なのはEthereum上のBTCペッグトークンのWBTCですが、WBTCの発行量は現在約2300BTC、トランザクション数でみても1日1000~2000くらいで、Liquidとほぼ同じ水準です。50歩100歩て感じですね。今後WBTCとLiquidのロックアップ金額と利用度の比較は、EthereumのDeFiとある種のビットコインのDeFiの対比の一つのバロメーターになるかもしれません。

結論

資金のロックアップ金額だけ見て、DeFiは盛り上がっているけど、Lightningは盛り上がってない。というような認識をされることもありますが、ロックアップに対するリスクとリワードの構造がそもそも違うのでそれだけ見て判断するのは間違いです。

その他の数字も含めもう少し総合的に見るとDeFiもアクティブユーザー数はせいぜい数千~1万くらい、Lightningも似たようなレベルで、正直両方ともそこまでまだ広く利用されているわけでも大きく盛り上がっているわけでもないです。DeFiはコントラクトへの攻撃、集権化の解消と規制対応、などの課題があり、一方Lightningは実需を広げる必要があったりなどそれぞれまだまだ課題は多いです。雰囲気や空気感で特定の分野が盛り上がっている、みたいな感覚もあると思いますが、こういうのには騙されることもよくあるので是非現状判断の材料の一つとして参考にしてください。