米国企業Marathon Digital Holdingsが運営するMara Poolというビットコインマイニングプールが、今月初旬に「OFAC規制遵守のブロック」を採掘したとして話題になりました。ビットコインに関して、「クリーンな電力で採掘されたビットコインしか買いたくない」など、仕組み上無理がある要望がなされることがありますが、マイニングプールが特定のトランザクションをあえて検閲することは必ずしも無理ではありません。今日はそれにどれくらいのコストがかかるのか、実際に行われているのかを見ていきましょう。

OFAC規制とは

OFACとは米国の財務省外国資産管理室のことで、この米国政府機関は主に安全保障・外交上の理由で個人・団体の銀行口座を凍結したり、取引を停止するよう金融機関に指示します。この対象となる個人などが記述されているリストをSDNリストと言います。1500ページ以上あります。SDNリストにはビットコインなどの仮想通貨アドレスが現在おそらく100件ほどあります。(ビットコインアドレスは65件) したがって、これらに関わる送金を処理しないことがOFAC規制遵守ということになります。ところで、国単位の経済制裁と比較して、OFAC規制は比較的小規模な規制だとわかるでしょう。これらのアドレスが関わるブロック自体が珍しいと思いますが、もしコンプライアンスをシノギにしようとするマイニングプールの立場であれば、他の規制への対応も進めていくでしょう。これにはブロックチェーン解析業者などに頼る必要が出てきますが、精度が低い割にコストがかかってしまうと考えられます。(コストについては後述)

手数料を取らない機会費用

さて、PoWマイニングに対検閲性があると言われるのは、誰でもマイナーになることができ、送金手数料を求めてマイニングをすることが理由です。高い手数料を払うトランザクション (TX)をブロックに含めなければ、他のマイナーの収入になるでしょう。つまり検閲には機会費用が発生します。機会費用は(検閲したいTXの手数料)ー(代わりに含まれるTXの割安な手数料)です。検閲したいTXの手数料が低い場合、機会費用は非常に小さなものとなります。(閑散期での承認を狙って、安い手数料を指定するTXは大量にあるため、代わりがいくらでもいる。例:3 sat/byteを1つ検閲しても代わりの3 sat/byteがいる)逆に、メモリプールの状況によっては100sat/byteのTXを検閲して25 sat/byteで代替するような状況もあるでしょう。これはブロックの生成が滞るなどして急ぎの送金が溜まり、手数料が積み上がっていく状況で起こりやすいです。この場合、先程と比べて機会費用ははるかに大きいです。また、長期的に見ると、マイナーの報酬のうち、新規発行されるコインベース報酬は減少していき、TX手数料が増えていくため、機会費用の影響は大きくなっていくと考えられます。制裁対象の送金が増加するほど機会費用が増えるので、疑わしきは罰する方式で厳しくなっていくコンプライアンス屋さんは自分で自分の首を絞めることになるのではないかと考えられています。

検閲を監視できる

さて、Mara Poolが採掘した「OFAC規制遵守ブロック」ですが、実際にはトランザクションは特に検閲されず、規制遵守のメッセージが埋め込まれただけのようです。マーケティングみたいなものですね。なぜこれがわかるかというと、ビットコインノードにはマイニングのための機能も搭載されており、そのなかに「ブロックテンプレート」を生成する機能があるからです。これが何かというと、メモリプールから手数料が最大となるようにトランザクションを選んでブロック候補を生成するものです。自分のノードのブロックテンプレートと、実際に出てきたブロックを比較することで、マイナーが恣意的に含めなかったトランザクション、あえて含めたトランザクションを確認することができます。そして、Mara Poolの登場へのリアクションとして、実際のブロックを直前のブロックテンプレートと簡単に比較できるサイトが登場しました。miningpool.observerです。このサイトの注意点として、

テンプレートの作成時とブロックの採掘時が数秒ずれるため、多いときで10TXほどの誤差が出ることが挙げられます。しかし、差異のトランザクションを個別に見ることができるので、それらがすべて最後の数秒に追加されたものであればネットワークの遅延のせいだと判断できます。情報量が多いですが、けっこう親切なサイトなので興味のある方はぜひ見てみてください。サイトのRSSフィードによると、現時点でOFAC規制対象のアドレス絡みのトランザクションが検閲されたという事実は検知されていません。