Oceanが発表したマイニングプロトコル「DATUM」は、いわば「リデザインされたStratum V2」
先日東京で開催されたBitcoin Tokyo 2024カンファレンスにも来場していたLuke DashjrをはじめとするマイニングプールOceanが、マイニングの分散性を守るためとしてStratum V2とは異なる次世代マイニングプールプロトコル「DATUM(Decentralized Alternative Templates for Universal Mining)」を発表しました。
本稿では以前にもStratum V2を紹介しています。知識をリフレッシュされたい方はぜひ以下の記事をご覧ください。またOceanについてもマイニングカテゴリ内の記事で度々触れております。
さて、元々はStratum V2を使うとしていたOceanでしたが、なぜDATUMという独自のプロトコルを作る方向に舵を切ったのでしょうか?DATUMの中身をStratum V2と比較して、彼らの思想を炙り出してみます。
・OceanはなぜStratum V2を諦めたのか?
・DATUMはいわば「リデザインされたStratum V2」
・大半のマイナーは即座にDATUM・Oceanを選ばないだろうが…
OceanはなぜStratum V2を諦めたのか?
元々2023年11月にOceanが発表されたとき、Oceanの「目玉機能」のなかでOrdinal Inscriptionsのフィルタリング方針の次に話題となっていたのがStratum V2対応でした。
冒頭でリンクした記事にあるように、Stratum V2はマイニングの非中央集権性、特にブロックテンプレートの生成をマイニングプールではなく個別のマイナーが行うことができるという機能を宣伝することが多いです。これはすなわちマイナーがマイニングプールから真に独立して存在できるということで、マイニングプールの寡占化が課題となっているビットコインマイニング業界にとって重要な命題です。
しかし、やはり記事内で解説しているようにStratum V2は根本的な解決になっていない部分があります。マイナーが収益を最大化しないテンプレートを使った場合に同じプールの別のマイナーは嫌がるであろうことや、そもそもの報酬の払い出し方法がカストディ型に近い場合はマイニングプールからの「独立」を果たせていないという問題などです。このことから、仮にStratum V2対応するプールがあっても通信の暗号化の部分だけなど部分的な対応に終わりがちです。
一応想定としては「もし自作したブロックテンプレートに基づくシェアをマイニングプールに受け付けてもらえなかった場合は他のマイニングプールに接続し、すべてだめだったらソロマイニングする」という仕様のようですが、この想定はプールが寡占化している現状ではあまり現実的ではないのかもしれません。(それでも現状よりはマシだと思いますが)
マイニングプールの報酬の払い出し方の違いについては過去記事をご覧ください。
OceanはStratum V2の欠点を改善できないか検討したのち、短期的には無理だと判断してDATUMを開発したと掲載したリリース文に記しています。
DATUMはいわば「リデザインされたStratum V2」
さて、このリリース文は早速DATUMがどのように個別のマイナーがブロックテンプレートを自作できるようにするかを説明してくれています。
まず、Stratum V2の場合とネットワーク自体の構成はあまり変わりません。「DATUM Gateway」と呼ばれる、マイナーが動かしてマイニングプールとASICの間を取り持つサーバーがあり、ブロックテンプレートを作るフルノードにも接続しています。これはStratum V2でいう「SV2 Proxy」に相当するものです。


ただしStratum V2の場合はマイナーがJob Declarator Clientを、プールがJob Declarator Serverを立ち上げる必要があります。これはカスタムのブロックテンプレートを申告(Client)・許可(Server)するものであり、許可が降りなかった場合に別のプールへの再接続(Client)をしたり、ブロックが見つかったときの配信(両方)なども担当します。このJob Declaration Protocol(英語―少し古い記事です)の複雑性をDATUM Gatewayに集約したのがDATUMの長所の1つかもしれません。
また、Stratum V2で導入されたセキュリティ関連や暗号化の機能はすべて踏襲しているようです。
最後に、Oceanの特徴である払い出しへのこだわりも健在で、大きなマイナーは自作したブロックテンプレートのCoinbase Outputに自分の分け前の払い出しを含めることでノンカストディアルなマイニングプールを実現しています。これはStratum V2の短所の1つを改善したといえるでしょう。
とはいえ、マイナーの視点からすると頻繁に払い出しを受けていればリスクを限定できるので、払い出しのカストディをどれくらい問題視すべきかは意見が分かれます。
トータルで言えばStratum V2がStratum V1の設計に基づくためにカスタムのブロックテンプレートを生成させるために少し複雑性を増した部分を、OceanのDATUMはセットアップしやすい形にしたことと、Coinbase Outputに分け前を含めるためのネゴシエーションのような部分をブロックテンプレートの「許可」に組み込むことでカストディのリスクを削減したといえるでしょう。
あくまでOcean側でCoinbase Outputの金額の検証が入り、分け前を超える金額をもらおうとするブロックテンプレートは排除されるはずなので、そこを指して「DINO(Decentralized In Name Only=名ばかりの分散性だ!)」と批判している人をTwitterでそこそこ見かけました。ただ、そこで不正があるとプールとして成り立たないため(また、不正があるブロックを許すわけにもいかないため)、言葉の用い方の問題かと思います。マイニングのDecentralizationは難しい問題ですね。
「真に分散化されたマイニングプール」として例に挙げられがちな2010年頃に存在したP2PoolというP2P型マイニングプールでは報酬の払い出しをすべてCoinbase Outputで行い、参加者がすべての報酬払い出し(現実的には自分の分け前)を検証してからそのテンプレートで採掘をしていました。残念ながらスケーラビリティ問題によるトランザクションサイズの限度や各参加者のCoinbase Outputを追加して検証してもらう間の通信の遅延などから、現代だとこのようなモデルの競争力は低そうに思います。
大半のマイナーは即座にDATUM・Oceanを選ばないだろうが…
マイニングプールのなかで異色なOceanですが、今回のDATUMの発表は人気上昇につながるのでしょうか?
現時点でOceanを選ぶ理由は収益のボラティリティと裏返しに得られる手数料の安さというメリットでしょう。そこに、Ordinals Inscriptionsやマイニングの分散性というイデオロギーに共感する一部のマイナーが乗っかっているかもしれません。
しかし、大部分のマイナーはそれほどイデオロギーにも興味はなく、ボラティリティを強くヘッジしたいと思っているようです。そのような層にカスタムのブロックテンプレート生成は敷居が高く、メリットも小さいため、DATUMの採用で短期的に利用者数が激増するイメージは湧きません。
以前に紹介したBitaxeを用いた家庭での超小規模ソロマイニングに代表される、小規模かつ分散化されたマイニング自体はトレンドとして存在していますが、こちらもOceanのプールはシェアが認められるDifficultyが比較的高いためあまり相性はよくありません。その反面、家庭マイニングは趣味性が高いためブロックテンプレートの生成自体には需要があるかもしれません。
即座にマイナーの多くがブロックテンプレート生成の分散化の必要性に目を覚ますような状況にはならないと思いますが、マイニングプールによる検閲や資金凍結などが発生するような状況が生まれたらDATUMやStratum V2は非常に価値のある技術になるため、特に大規模なマイナーは移行する必要があった際に移行できるように「避難訓練」をしておくべきでしょう。必要とされるその日まで、Oceanのようなプールが存続してくれることは重要です。
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