LN上でDLCに似た取引を実現する新たな方法
以前からこのコラムでも、ビットコインでオラクルを利用したスマートコントラクト機能を実現するDLCという手法に注目しています。DLCは全然わからないという方はぜひ以下の記事をご覧ください。
【2020/4/9】5分でわかるDiscreet Log Contracts
また、DLCがLN上で利用できるようになるにはまだしばらくかかると考えられます。(というか、満期まで中継を行う資金効率が悪いため、DLCを行う相手と直接チャネルを開くのが最適解になると考えています。) そこで、LN上でDLCのような体験を可能にする仕組みとして、"Hodl Contracts"というアイデアも紹介しました。
【2021/12/16】Hodl ContractsでDLCライクな体験を
https://coinkeninfo.com/hodl-contracts/
さて、今週はLN払いで記事を読むブログサイトでおなじみSpotlightの小川さんが、DLCに似た仕組みを使った金融サービス「DLC.soy」をテストネットで公開しました。今日はそれについて見ていこうと思います。
DLC、HODL CONTRACTSとの違い
まず、本来のDLCとの違いをまとめてみます。
まず一番重要な違いとして、DLC自体は現時点ではオンチェーンで行うものであり、Hodl ContractsやDLC.soyはライトニング上でDLCのような機能を(すべてのチャネルがDLCに対応する必要なしに)実現するというものです。
DLCではライトニングチャネルのように二者がマルチシグに入金しますが、その前に第三者のオラクルが結果に応じて発表する鍵を使ってアンロックできるように出金のトランザクションも全パターン用意します。これによって予めすべての結果に対応する結末が用意してあるので、二者間ではトラストレスに取引ができることになります。(オラクルへのトラストは必要。) また、オラクルは一方的に結果を公表するだけなので、参加者がいるか、いないのかすらも知りません。
一方でHodl ContractsやDLC.soyはライトニングを使うため、ライトニングで使用可能な機能でDLCを再現するための工夫が求められます。また、ライトニングの制約として長期間資金をロックするのが難しいため、短期的な賭けに限定されるでしょう。(※もし直接チャネルで相手と繋がっていれば、そのチャネル内で普通のDLCをやるのは技術的には可能だと思います。)
Hodl Contractsでは、オラクルもLNで参加します。両者とも掛け金をオラクルに仮送金(オラクルによる決済に必要な秘密情報は賭けの相手が保有)し、結果発表の代わりにオラクルが勝者を選択し、勝者の持つ秘密情報を使って決済できる送金をします。すると勝者の秘密情報がオラクルに渡り、敗者からオラクルへの送金も同時に決済されます。暗号学的に難しい仕組みのない、非常にシンプルな方法なのが特徴です。
しかしこのモデルではオラクルが賭けに絡むため共謀の恐れが大きく、オラクルの過去の発表歴も確認できないため信用に足るかの判断が難しいです。
一方で、DLC.soyはもう少し本流のDLCの仕組みを流用しています。DLC.soyはDLCオラクルが結果に応じて公開する鍵で暗号化されたデータをプリイメージとするインボイス(金額はOption Price)をその鍵を指すデータとともにユーザーに送付し、ユーザーはこれに対して支払いをします。DLC.soyはオラクルが結果発表するまで決済できないためこれはhodl invoiceとなります。
(これとは別にユーザーはhodl invoiceへの支払いと引き換えにDLC.soyからPremiumを支払ってもらいます。)
オラクルが結果を発表すると、DLC.soy側に有利な結果であればhodl invoiceが決済され、ユーザー側に有利な結果であればキャンセルで返金されます。
このモデルでは、オラクルの知らないところで賭けが行われている点がDLCに非常に似ています。しかしながら、DLC.soyが不正を行う方法自体は少し残されているので(Premiumの支払い拒否など)、完全にP2Pで適用できるモデルではないでしょう。
LN上の金融サービスの未来
DLC.soyはいわゆるバイナリーオプションであり、高尚な金融商品とは呼べないものかもしれませんが、LN上の金融サービスの一例といえます。このように参加者間の立場が少し不平等な状態も許容するのであれば、LN上で似たようなアプリケーションが色々と構築できます。完全にカストディアルなアプリケーションよりも、不正が証明できたり盗られうる資金が限られるといった面で優れるものです。
実際に開発が進められている例としては、人権団体のHRFとLNウォレットのStrikeが1BTCの報奨金を出している、ユーザーの残高がドルにペッグした("stable channels")ライトニングウォレットです。ドル建てのビットコイン価格に関してオラクルが必要なためこの報奨金を狙っている者はDLC界隈に多いですが、無理やりトラストレス性を求めるよりは上記のようにトラストに勾配のある(サービスプロバイダー型の)プロダクトのほうが使いやすいものになるのではないかと思います。
その大きな理由として、DLCやLN特有の制約があります。DLCは生成時に署名して保管するデータ量が膨大になりやすいという問題があり、LNはhodl invoiceを使いすぎるとネットワークの可用性に影響したり、invoiceを比較的短期に決済あるいはキャンセルして作り直す必要があるため長期の金融契約を実現しにくいという課題点が挙げられます。
もちろん、プロトコルとして公開して他社に簡単に乗り換えられるようにすることもユーザーのためになるとは思いますが、サービスプロバイダーとしてそのようなプロトコルを他者が実装しやすいように公開するインセンティブがあるかは疑問です。
そう考えると、LNの金融化はサービスプロバイダー各社がそれぞれ特殊なチャネルを使ってユーザーに金融サービスを提供するようになっていくのではないかと感じています。現状では、一部のLNウォレットが仮想的なチャネルを提供するなどに留まりますが。
とにかく、DLC.soyは応援していきたいですね。
ビットコインのオプション市場へのアクセスがお世辞にもいいとは言えないので、LNやDLCを使ったオプション屋は普通に需要がありそうです。
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