Defiは「交換」にあたるのか?
税金の話です。日本居住者に対する税制では、仮想通貨同士の交換に対しても課税対象(円建てで含み益があれば課税)としています。
このルールをDefiの世界に持ち込むと、めちゃくちゃにややこしいことが起こりそうです。
当然そうした声は、ユーザーの間でも上がっているわけですが、まだ税務署はそうしたことはさっぱり理解出来てない状態でしょうし、税理士も理解できないでしょう。
非常に微妙な状態になっているというわけです。
そこで、いくつかのDefiのケースに分けて、どのような解釈が可能なのかを、一般的な見地から検討してみます。
注)本内容は、税務アドバイスではなく、下記の通りに課税されるという意味ではありません。あくまで各ケースにおける「論点」を洗い出して、こういう可能性があるという話をしております。当然ながら実際の納税にあたっては専門家と相談のうえ適切におねがいします。
ケース1 Uniswap
「ETH-USDCのペアをユニスワップに提供した。このとき、LPトークンが手にはいった」
このケースは、ユニスワップに流動性提供(以下、LP提供または単にLPと言います)すること自体は、何かと交換しているとはいえないきがします。普通に考えた場合、あくまで預けている状態であって、引き出す時に金利が得られるというだけだからです。ですので、手に入るLPトークンは預かり証と解釈できます。
ただし、ユニスワップでは、スワップ手数料収入の一部も手に入りますので、その手数料として増えた分に関しては、利益として認識することになるでしょう。
一方、もっとエグく考えてみることもできます。ユニスワップの実態は、マーケットメークの一形態であるとかんがえられます。もともとこの手の仕組みをAMMといいますが、オートマチック・マーケット・メーカーの略ですし。
とすると、流動性を提供するということは、実際に売買の相方になる、マーケットメイクを行っていると解釈できる可能性があります。
となるとどうなるでしょうか。
単純な例をだします。ETH-USDCプールが1億円あって、一日の出来高が10億円あったとします。
そこに100万円分のETH-USDCを提供します。しかしながら、一日に10億円の出来高があるのですから、自分が拠出した分も10億円のうちの一部をマーケットメークにつかわれていると解釈するのが当然です。
拠出は100万円で、1億円の100分の1です。出来高に比例配分すると、1000万円ということになります。つまり、1000万円分の交換行為を行った(相手方になった)と解釈が可能です。
そのとき、ETHやUSDC(円ドル為替)が変動していれば、その分の利益がでることになりますし、もし、流動性提供しておらず手元にある含み益ETHがあるとすれば、そのETHの分の含み益もすべて吐き出すような感じになるかもしれません。
かなり強引な解釈のようにみえますが、行為の実態を見るという観点でかんがえると、これも有りかと思います。
では、単なる預かり証なのか、マーケットメイクをしていると考えられるのかは、Defiのコントラクトが何なのか?ということに依存するとおもいます。
Defiのコントラクト、自分が運営するんじゃなくて、コントラクトという自動機械にやってもらっているだけなんだということなんですが、ここで解釈は2つありますね。
自動といっても、自動プログラム売買のようなものは、プログラムで売買してようが、売買主はユーザーです。ユニスワップも自動売買ですが、その主は、やはりユーザーだということもありえます。
一方、プログラム売買ではなく、ファンドみたいなもので、運営者のいるようなファンドにお金をあずけて、その運営者が売買した結果の利益の配当をえるもの(一任勘定)だから、預かり証なんだということもいえます。しかし、この論法でいくと、Defiが非中央集権だということに矛盾しますし、一任勘定で預けているのであれば、ファンドとみることができます。とりわけ、Defiの場合は、プール制といって、集めたお金を他人のものとあわせて運用するため、ファンド的な性質が見え隠れします。
ファンドに拠出ということになると、拠出した時点で利確扱いというのは現法の時点でも明らかですので、LP提供したときに利確扱いとして、含み益があれば利益計上するということになりそうです。
ケース2 UNIトークン
「ユニスワップにLP提供した結果、UNIトークンが手に入った」
この場合ですが、基本的には、LP提供に比例してもらえるUNIトークンの付与は、付与時点の金額で全額課税されると解釈されると考えられます。マイニングと同じ扱いですので、これはほぼ間違いないでしょう。
ただし、UNIトークンは2020/9/30以前にユニスワップを利用したユーザーすべてに配られました。つまり、Binanceで取引が始まる以前に配られた分というのが存在します。この分に関してはフォークやエアドロップと同じ扱い、付与時点では「活発な市場取引がなく時価が存在しなかった」と解釈できます。つまりUNIの取得価格はゼロで、売却時に課税という論理が成り立ります。
他のDefiトークンの付与についてもすべて上記の論理が成立しそうです。
ケース3 Compound
「CompoundでETHを貸しつけて、利息に相当する手数料利益を得た」
この場合は、ケース1のユニスワップに似ていますが、運用の形態が「貸付」であるということです。
貸しつけて返してもらう分には、利確と考えるのは無理が有ります。ですので、CompoundeやAvveなどのレンディングプラットフォームに貸付をおこない、貸付証としてトークンが発行されるということ自体には、利確になる要素はなさそうです。
また、貸し付けたときと、返してもらったときの間に、貸付トークンの価格(ETH)が変動したとしても、その変動分を利益認識する必要もなさそうです。
しかし、同様の、運営主体の問題があります。単に貸付なら問題ないのですが、貸付ではなく貸付を主な運用戦略とするファンドへの拠出とみなされれば、利確扱いになります。AMM型よりもその可能性は低くなりそうですが、ファンド拠出だと言いはることもできなくないかもしれません。
一方、当然ながら、貸付の金利として貰える分と、インセンティブとしてもらえるCOMPやLENDなどのトークンの部分は課税対象になるかとおもいます。
ケース4 WBTCを利用した
「BTCをDefiで使うために、WBTCに変換した」
これは難しいですね。
課税だという意見と、課税でないという意見があるとしたら、どう論理を組み立てられるのかという観点で考えてみます。
注)WBTCというのは、Wrapped BTCの略で、BTCと同価格として取引されるステーブルコインです。価格担保は、100%のBTCを、BitGOというカストディ会社が保管しています。
- 課税されないという論理
WBTCも、BTCも等価なものであるとされているので、単にトークンの形式がかわったものだ、という素朴な意見です。感覚的には、同じ価値のものに変えているだけなのだから、ということで、課税でないであってほしいという希望がありますよね。
- 課税されるという論理
WBTCも、ビットコインに価値が連動するコインとはいえ、あくまで別のコインであるため、交換であると認識する。ドルを、USDTに変えるときやその反対も(為替変動分で含み益があれば)当然課税なのだから、同じような関係のBTC-WBTCも当然課税であると。なんかそう言われると納得いかないが、課税できてしまうような気もします。
USDTとUSDCは同じドルペグのステーブルコインですが、これを交換した場合はどうでしょうか?おそらく課税です。感覚的にも、「ステーブルコイン同士の交換とはいっても、別の発行主体なんだから、別トークンだよね」というのは納得してしまうのではないでしょうか。
なので、ステーブルコイン同士、またはステーブルコインへの変換などはすべて課税対象だということもできます。少なくともこじつけであっても税務署側がそういう主張をすること自体はできそうな気がします。
- 変換方法で、非課税も?
ここで、WBTCへの変換方法がひとつのポイントになるかもしれません。WBTCを市場で手に入れるのではなく、自分でMINT(生成)した場合はどうでしょうか?
WBTCを生成する方法ですが、WBTCの提携パートナーとなっている取引所(たとえばFTXなど)で、BTCを拠出することで、新しいWBTCを発行してもらい、それを受け取るということができます。
この場合ですが、BTCを、BitGO社に預けた預かり証としてのWBTCを受け取ったという解釈もできるかもしれません。コインではなく、これは預かり証にすぎないし、その預かり証も他人から買ったのではなく、自分であずけて貰ったものだから、コインの交換などというのは発生していないという論理です。これはこれで論理が通るとおもいます。
同様に、人気のBTCペグコインに、renBTCというのがあります。これはrenバーチャルマシンというノードが連携して管理しているアドレスにBTCを預けることで発行される分散型のペグコインです。
renBTCの発行や償却は、取引所などを通すことなく、ユーザー側で勝手に行うことができます(スマートコントラクトにより発行されたり・償却されます)。ですので、renBTCを自分で生成し、自分で償却するならコインの交換でないという理論も構成できそうです。
ケース5 DAIを利用した
「ETHを担保にして、DAIを発行した」
さて、問題はDAIです。
DAIというのは、1ドルにペグするという目標でつくられた資産ですが、担保はETHやBATほかいくつかのコインで構成されており、ドルそのものが担保になっているわけではありません。つまり、暗号通貨のバスケットを担保に、1ドル相当に価格が収斂するとおもわれる仮想通貨DAIを発行しています。
こういうタイプのステーブルコインは、実際のドルを担保にしたステーブルコインと性質がちがうことはお分かりと思います。
このタイプを「合成資産型ステーブルコイン」といいます。合成資産=Synthetic(シンセティック)資産といいます。
DAIのほかに、USDXや、sUSD、sBTCなどのいくつかのものがあります。
- 合成資産との交換
まず、この合成資産との交換はどうでしょうか。合成資産型のsBTCと、本物のBTCを交換した場合はどうなるのか? sBTCの担保はSNXという自社発行のコインです。合成資産が担保としているものが、BTCではないので、それと交換したら、やはり別のコインとの交換と捉えるのが普通かもしれません。sBTCを償却するとき、帰ってくるものはBTCではなくSNXというコインだからです。
「価値が同じだから非課税」論では、同じものをあずけて、同じものが帰ってくるものでないと成り立ちません。BTCを預けて発行し、償却したらBTCが帰ってくるならいいですが、sBTCの場合は、SNXを使ってsBTCを生成し、償却するときもSNXが帰ってきます。これでは、「価値が同じだから交換じゃない」という素朴な論理の前提が崩れてしまいます。ですので、BTCをsBTCに交換したときには、課税だとこじつけられる可能性はあります。
- ETHを拠出して、DAIを発行した場合はどうでしょうか?
これは非常に難しい。DAIとは一体何なのか?ということにつきます。
ETHを担保にして、DAIを発行しているわけですが、ETHを担保に供するという行為がなんにあたるのかという解釈につきます。
ひとつは、単に担保にしているだけで、DAIというのはその担保のフラグメントを利用しているだけだから、DAIを生成する行為は、交換行為ではないという解釈です。いまのところこれが有利になっている気がします。
一方でDAIの場合、拠出したトークンの預かり証とは別にDAIが発行されるわけですから、このDAIは預かり証とは独立であるとも考えられます。つまり、利確して利用しているのと一緒であると。その場合は、課税だと主張することもできます。
むずかしいですね。
ケース6 レイヤー2を利用した
「ビットコインを、サイドチェーンであるLiquidのLBTCに変換した」
「ETHを、ETH2に変換した」
「トークン規格を変えた」
これは流石に課税じゃないでしょ、と思うのですが、仮にこれを課税だというふうに突っ込んでくるとしたら、どういう論理が考えられるかをかいてみます。
まず最初のケースの、ビットコインを、サイドチェーンであるLiquidのLBTCに変換したというもの。まず、サイドチェーンといってもビットコインの公式のものではなくて、LiquidサイドチェーンというのはBlockstream社と取引所が運営している民間のチェーン(そういう言い方があるかわかりませんが、恣意的なチェーン)でしょ。というものです。
ビットコイン本体とは別の運営主体によってつくられているチェーンなんだから、そこのコインに変換するのは、たとえそれがペグ方式だろうが、非中央集権方式だろうが、担保だろうが、なんだろうがしらんけど(俺ら税務署は知りたくもない)、とにかく課税でしょ、という論理です。
ETHをETH2に変換した場合はどうでしょうか。ETH2はLiquidチェーンとは違い、イーサリアムの公式なソフトウェアの中での話であるところがだいぶ違います。ですので、同じETHであると考えるのが妥当で、これを交換だと言うには、税務署がとにかく理解できないものは、表面的にみてティッカーシンボルが違うんだから(ETHとETH2は取引所では別々に取り扱われる為)、交換だとする論理以外には思いつかないです。これは税務署にとっての素朴な論理ですね。ティッカーが違えば交換でしょというのは、税務署としては素朴に考えてそうとらえるのも無理がないかもしれません。
ハードフォークでアップデートされるコインというのは多数事例があります。分裂ではなく、バグfixや、機能アップデートのためのハードフォークを想定しています。その場合、厳密な技術的には、古いチェーンのコインは存在するものの二度とマイニングされないので移動もなにもできなくなり、一方HF後の新しいチェーンのコインがHF前とそっくりそのままの状態で当てられるということになります。
ここでも厳密に指摘したら、交換が発生しているともいえますが、さすがにこれを交換だから課税だというのはありませんし、現状のルールでもこの手のHFによるアップデートは課税対象ではないとハッキリしているとおもいます。
ですので、ETH2に関してはこれに当たる要素が大きいと思いますので、普通にかんがえれば、課税ではないはずなのですが、やはり取引所では別のトークンとしてリストされるだろうというところが、命運を分けそうであります。
最後はトークン規格を変えたです。
代表的なのはETHをラップして、WETHに変換することです。これは、ETHをERC20の規格に変更するというだけの処理です。さすがにこれは課税でないとおもいますが、トークン名称が違えば課税というゴリ押しの論理にならないことを祈るばかりです。
また、TetherのUSDTには、ERC20規格、ビットコインのOmuniプロトコルベース、TRONのTRC20ベース、Liquid-networkのトークンベースの4つのプラットフォームでの発行規格があります。これらの規格の間を変更・交換しても、さすがにこれは課税にはならないんじゃないかとおもいます。発行主体や、預かり方の変更がなく、たんに流通させるプラットフォームの技術が変わったからです。
以上、非常に長くなってしまいましたがこんなかんじです。
繰り返しますが、本記事は、課税・非課税のそれぞれの側になったつもりで、そうだとしたらこういう根拠が組み立てられるかもしれない、という観点で書いています。
あくまで、議論の参考にということで、この通りに課税されるとか、本文書で課税の可能性があると書いてあるからといって税務署の皆さんが本文書を根拠に課税してくるということではないということ(または逆)ということに留意ください。
まとめ
で、結局結論はなんなのか?
わからない。
そうなのです。
わかりません。
結局、税務というのは、常にグレーな部分が有り、最終的に訴訟になって、裁判所の判決をもって確定するということなのです。(なお、現時点で税務署がアナウンスしているガイドラインでさえも、法律に違反していると主張して訴訟を起こすことはできます。最後にきめるのはあくまで裁判所です。税務署はあくまで裁量でいったん課税と言うことはできますが、課税の根拠を最終的に判断するのは裁判所です)
ただ、最後は裁判所できまるといっても、税務署との諍いは、納税者にとって非常に重いものであるのは間違いないので、明確なガイドラインなどがはっきりしないなかで、やみくもに過去に遡って、なんでもすべて課税だという主張を税務署が連発するのは避けてほしいと思う所存であります。
一方、日本の税制度は、このままでは、新しい技術にまったく対応できず、混乱と、不公平を生みかねません。Defiでの税務の計算はあまりに煩雑で、実際に行えるとは思えず、その分の申告がなされないかもしれません(税収減)。また、あまりに懲罰的な高税率にくわえて、Defiでの意図しない課税リスクを考えると、日本居住者がDefiなりをまったく利用しなくなるかもしれません。すると、本来Defiの利用によって生み出された価値での課税機会を失います(税収減)。
ですので、税制の改正については、業界団体含めていろいろ提言をしていますが、つい先日OECD(G20)で仮想通貨課税の共通ルールが検討されるというニュースのなかでとりあげられていた、「仮想通貨同士の交換は非課税とし、Fiatに交換または、物品・サービスの購入時に課税」というルールでの法改正が望ましいと考えています。
以上です。
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