イーサリアム供給量問題と暗号通貨の文化の重要性
海外のツイッターでここ数日、「EthereumのEtherの正確な供給量が分からない問題」が話題に上がっています。(日本ではこれに触れている人やメディアはほとんどいない気がしますが)
これは、Pierre Rochardというビットコイン開発者が、「Ethereumの供給量、お前らどうやって調べてるんだよ?」と質問から始まり、CoinMarketCapやEtherscanなどの主要なデータサイトでもEtherの供給量が一致していないことが発覚。そしてそもそもそれらのサイトがどのようにEtherの供給量を測定しているかもブラックボックスで、イーサリアムには簡単に供給量を確認する為のオープンソースのスクリプト(コード)も存在しないことなどに対してビットコイナーから批判が巻き起こる、みたいな騒ぎでした。
そこにVitalikも参戦して、簡単に言えば「Etherの供給量は大体わかってるから問題ないだろう」と反応して、それに賛成、反対する双方がお互いを罵り合う、みたいな構図がここ数日続いています(そして実はまだこのドラマは完全に終わってないようです!)
ETHEREUMの供給量が分からないのは問題か?
さて、この一件、日本では全然注目されていないですし、イーサリアムコミュニティからはこれは一部のビットコイナーからの粗探しでしかない、という意見が大半です。
自分個人的な感想としては、確かにEtherの正確な供給量のコンセンサスがとれていない、というのは問題だとは思いますが、供給量を一発で調べるコマンドを実装してクライアントに追加すれば、この問題自体は解決するので、特にこれ自体は大事ではないと思います。
むしろこの件で浮き彫りになったのは、ビットコインとイーサリアムの明確な「文化」の違いで、むしろそちらの方が重要だと考えています。この件で言えば、供給量を調べる為のスクリプト自体を書くのはそこまで難易度は高くないはずで、今までそれを確認した人がいなかった、それを重要だと思っている人がほとんどいない、というのは技術力の違いというよりは、完全にカルチャーの問題でしょう。
クリプト世界における文化の重要性
普段我々は暗号通貨を考える上で技術や経済の話などをしたがりますし、それらが重要なのは確かに間違いないです。一方、クリプト世界におけるカルチャーというのは軽視されがちですが、ネットワークの生存確率や競争力を考える上で非常に重要な側面です。
例えば、企業文化は競争力の源泉として広く認識されており、競合との差別化やイノベーション促進などに不可欠な要素だと考えられます。あまり語られることは多く無いですが、暗号通貨においてもこれは同じで確固とした文化やアイデンティティを持っているネットワークはやはり強く、逆に言えばビットコインやイーサリアム以外でこのような強い文化を持っているコインはほとんどないですし、この二つのネットワークが大きくリードしているポイントと言えそうです。
多少バイアスはあると思いますが、自分自身が考えるビットコインコミュニティのカルチャーの特徴は、
ビットコイン
1.政府や企業などを出来るだけ信頼しない。自分で確認して、信頼を最小化する。
2.ハードマネーとしてのビットコインの重視(管理者不在、供給量が予測可能)
3.価値源泉が不確かなトークン発行やトークンの事前販売や恣意的な分配の忌避
4.セキュリティや合理性、機能性重視
5.権威や企業への反発、カウンターカルチャー
一方、対比としてのイーサリアムのカルチャーは
1.実用的な範囲で、開発者などへの多少の信頼の発生は許容
2.Move fast, break things(シリコンバレー的開発カルチャー)
3.価値の根源が不明確なトークン発行や事前販売を厭わない(イーサリアム自体がICOでスタートされている)
4.テクノロジー第一、新しいもの好き。UX重視。
5.企業や他のプロジェクトやブロックチェーンとの融和を重視
また今回の一連の騒動の後、ビットコインとイーサリアムの違いについて非常に簡潔に両者の違いを指摘したRyan Selkis(Messari CEO)のツイートがあるので紹介します。
「Bitcoin is asset-centric, and tech makes the asset work. Ethereum is tech-centric, and the asset makes the tech work」
「ビットコインはアセット(コイン)ありきで、テクノロジーでそれを実現する。イーサリアムはテクノロジーありきで、アセット(コイン)が技術を実現する」(意訳)
こう考えると、今回のSupplyGateでのビットコインコミュニティとイーサリアムコミュニティの反応の違いはむしろ納得でしょう。
ハードマネーを重視するビットコイン側からすれば、ハードマネーとして最も重要な「供給量」を誰もちゃんとチェックしていないというのは言語道断ですが、テクノロジーやアプリケーション重視のイーサリアム側からすれば、これはそこまで重要なことではなく、むしろビットコイン上で新しいアプリケーションの実装や実験が気軽に出来ない状態を批判する、というような状態になるわけです。文化の違いによって言い分は大分食い違っており、今回の供給量の話以外でもそもそも議論自体が上手く成り立たないことが多いです。
クリプト文化から考える今後への影響
最後にビットコインやイーサリアム、またその他のコインの文化が、今後どういう風にコイン間の競争や人の移動に影響を与えるかいくつか考察、予想してみます。開発や投資判断をする上でも文化というのは意識すべきファクターの一つですし、プロジェクトの成功確率を判断する上で役に立つと思います。
まずビットコインですが、ビットコインはセキュリティや堅実さを何より重視する文化が、逆にアプリケーション開発者の参加を阻害している面が長くあります。
Lightning Networkはアプリケーション層の開発を可能にするという期待もありますし、そういう動きは一部すでに出てきていますが、それでもイーサリアムなどと比較すると全体的にまだ保守的で、アプリケーションの数も多くはないです。文化が少しづつ変容し、Lightningのアプリケーションが大量に出てくるのには時間がかかる可能性が高いです。
一方、BlockstreamのLiquidはトークンプラットフォームとしても利用可能ですが、今のところトークンの利用は限定的ですし、外部開発者の巻き込みに苦戦している印象があります。これはビットコインの安易なトークン発行を忌避する文化の影響は少なからずあるはずです。
Liquidと相性が良いトークンの応用というのは、トークンの価値が明確なSecurity token(証券などのトークン化)や、Tetherなどのユースケースが明確なもの、チケットなど具体的なモノやサービスの権利のトークン化などになるのではないかと思います。イーサリアムのような多様なトークンプロジェクトが生まれて、現状の投機熱が先行しているDeFiトークンブームみたいなものはLiquidでは起きにくいでしょう。
また、ビットコインのサイドチェーンでイーサリアムと同様のスマートコントラクトの実現を目指すRSK(Rootstock)にビットコインコミュニティからほぼ注目が集まらないのは、文化の差が大きいからと自分は考えています。
一方、ビットコインの堅実でハードマネーを重視する文化は、特にここ最近シリアスな投資家や金融機関からの信頼を勝ち取ってきています。
ちょうど先日Microstrategyというアメリカのソフトウェア企業が、250億円相当のビットコインを購入する、というニュースがありました。その理由として、「世界中での受け入れ、ブランド認知、エコシステムの活発さ、ネットワーク構造、堅牢な設計、技術的ユーティリティ、コミュニティの精神がその他のアセットに秀でており、長期の価値の貯蔵庫としての動かぬ証拠と言える」という発言をしています。似たようなシリアスな投資家や企業のビットコインの採用は、今年から来年にかけてさらに増えてくるのではないかと思います。
一方、イーサリアムは技術やアイディア主導で常に新しいことをイケイケドンドンやる文化ですが、今までその前提としてあったのが(ビットコインと比較した時の)手数料の低さとスピードでした。
逆に言えばイーサリアムのアプリケーションや文化にとっては、全体のネットワークとアセットはあくまでアプリケーションの機能性や、ユーザー体験を実現させるためのツールの一つとして捉えられているわけですが、手数料の高騰というのは直接的にこれを棄損しかねません。
似たような事態は17年でビットコインも体験して一部のユーザーや開発者の流出というのは実際起きましたが、ビットコインの文化はイーサリアムとは違い、最終的にはビットコインにとってはあくまで堅牢であること、ハードマネーであることが重要であり、手数料高騰でもコミュニティの大部分はその意識は失ってはいませんでした。
ちょうど今日平均Gas Priceがついに200gweiを突破してUniswapなどの一般的コントラクトの実行に数千円程度の手数料がかかるという事態が起きていますが、この状況はイーサリアムのアプリケーションや新しい技術やプロジェクトの実験的文化の側面に大きな影を落とし始めており、問題は少しづつここから悪化していく可能性が高いと見ています。
ではどうするかというと、一部~多くの人たちはその他のブロックチェーンに移行するという話が自然と出てくると思います。候補先としてはPolkadot、Cosmos、EOS、TRONなど色々ありますが、この中ならイーサリアムのFounderの一人であるGavin Woodが主導するPolkadotが文化の面でもおそらく最も親和性が高く、イーサリアムの開発者の一部を奪っていく可能性が高いのでは、と自分は予想しています。
逆に大石さんと昨日少し話していたんですが、Cosmosの文化はどちらかといえばビットコインの宣伝下手のオタク気質?に近い、というような話もあり、技術的にはEthermintなどのイーサリアムのアプリケーションのコピーは出来ますが、文化的差異が障壁になりそこまでこれは盛り上がらない可能性もありえそうです。
EOSやTRONなどにも似たようなことがいえ、基本的には欧米の開発者中心のイーサリアムのコミュニティのDappsを、中華色の強いEOSやTRONでコピーしても開発者もユーザーもそこまで盛り上がらないのではないかと思います。
というわけでどうでしょうか?
全ての事象を文化の面から説明するのは少し乱暴ですが、逆に技術的には可能だからこうなる、こうあるべきだ、という視点が想定通り行くことがあまりないのも事実で、これは文化の影響によるところも多いと思います。暗号通貨と言えど結局開発をしたり、利用や投資をしているのは人間なので、文化を加味して考えると色々見えてくる部分もありますし、不毛な議論の食い違いなどを避ける為にも有用と思います。
※最後におまけ。上記はある程度中立の視点で書くようにしていますが、自分は明らかにビットコイン寄りの価値観を持っているので、その他のアルトコイン支持者が言っていること、例えばETH is moneyだ、とか、過剰な宣伝や煽り、安易な分散化という言葉の利用、などは基本的に嫌いです。またコインの価値のよりどころみたいな議論をする時も、その他のコインの支持者は無意識に信頼を前提としてトークンの価値を正当化していたり、開発者への権力集中などが問題視されることも少なく、話がかみ合わないのでしばらく不毛な議論は公ではしないようにしています。何も言わないから同意しているわけでは全然ありません。
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