ほんの一握りの人たちが大量所有するビットコインは公平な貨幣にはなり得ない?
「1%の『鯨』がビットコインの9割以上を所有する」
「ビットコインは格差を拡大する。」
主流メディアや二流クリプトメディアでよく見られる主張です。彼らの主張の根拠は「ビットコインの9割以上が上位1%のアドレスに集中している」というデータで、これを基に「富の分配」という視点でビットコインは重大な欠陥を抱えると結論づけています。
本コラムでは、11月2日付のCoin Metrisのニュースレター「Revisiting the Myth of Bitcoin Ownership Concentration」を参考に、ビットコインディストリビューションの最新状況を確認するとともに、メディアの主張の真偽を検証します。
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ビットコインはネットワークローンチ以来の全トランザクションを記録する台帳がインターネット上に公開されており、トランザクション履歴やアドレス残高は誰でも無料で自由に閲覧、分析できます。この利用可能なデータ量と透明性は、ビットコインと既存金融商品を隔てる大きな特徴の一つです。
公開データによると、発行済みの1,890万BTCのうち、99%が残高上位10%のアドレス、92%が上位1%のアドレスに集中しています。
メディアはこれをそのまま引用して「ビットコインの大半を初期投資家や超富裕層などごく一部の人たちが独占的に所有する」、「株などの既存金融商品と比べて分配が不公平」などと報じるわけです。
しかし、この数字を額面通りに受け取ると実情を見誤ります。なぜなら、残高が大きいアドレスには、顧客のためにビットコインを保管する取引所、信託、カストディアンなどのものが含まれているからです。こうした事業者は数千人、いや数百万人のビットコインを1つのアドレスで管理することは珍しいことではありません。
Coin Metricsが追跡している9取引所(Bitfinex, BitMex, Binance, Bitstamp, Bittrex, Gemini, Huobi, Kraken, Poloniex)だけでも、発行済みの8%に相当する140万BTCを保有します。日本の取引所やアメリカ最大のCoibaseが含まれていないことからも、実際に取引所が保有するアドレスにあるビットコインは、この数字よりもはるかに多いと見て間違いないでしょう。
取引所以外では、ETFや投資信託の運営会社も顧客投資家に代わってビットコインを保管しています。運用資産総額が最大のGBTCは発行済みの3.5%相当の64.7万BTCを保有します。
他にも、22.5万BTCがWBTCトークンとしてEthereumエコシステムで使われており、WBTC残高を持つEthereumアドレスは4万以上あります。WBTCトークンを1:1で裏付けるビットコインの保管アドレスが「鯨」のものと誤解されている可能性は否めません。
文末チャートAはGBTCとWBTCのビットコイン残高の推移です。昨年半ばからの急増はビットコインを保有せずにエクスポージャーを得るための商品に対する需要の強さの反映であり、ビットコイン投資家の裾野の広がりと解釈することもできます。

またビットコインエコシステムにも、LiquidのようなサイドチェーンやLightningネットワーク上で提供されるカストディアルサービスがあり、運営事業者が利用者のビットコインを保管しています。
以上から、残高の大きいアドレスには、顧客に代わってビットコインを保管する事業者のものも多く含まれていることが分かります。メディアはオンチェーンデータを分析することなく、そのまま引用しているだけなので、それを根拠とする主張や、そこから導く結論の信憑性は推して知るべしです。
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ディストリビューションの偏りはビットコイン特有の事象なのでしょうか?
米国株はビットコインと似たような状況にあるようです。文末チャートBによると FAANGの発行株式総数に占める金融機関上位10社の保有数の割合は30~50%です。これはGBTCと同じで、投資家は現物を保有する代わりに、これらの金融機関が運用する投資信託やETFなどを介してFAANG株へのエクスポージャーを得ます。

金融機関の他に会社の創業者やCEOなども大量の株式を保有します。これは会社と個人の利害を一致させることで最善の意思決定を促す効果があります。ビットコインも同じで、大口所有者はビットコインコア開発者を資金援助したり、ビットコイン普及を推進する教育に注力したりとビットコインの成功確率を上げるべく献身します。会社だけでなく、個人でも多くのビットコインを保有するMicroStrategy CEOのSaylor氏が良い例です。
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ビットコイン大口所有者で忘れてはならないのは、ビットコインに金銭的価値がない頃に大量にマイニングした人、いわゆるOGです。最も有名なOG、サトシ・ナカモトは100万BTC以上を保有すると言われています。サトシの分も含め、2012年以降に一度も動かされていないビットコインは230万BTCあり、発行済みの12%に相当します。2012年以降の値動きを考えると、これらの所有者は時間選好が極端に低いか、単に秘密鍵を紛失したかのどちらかで、おそらく後者が多数だと思います。
また、“bogus address”、“vanity address”と呼ばれる秘密鍵が不明のアドレスにロックされてアクセス不能なビットコインもあります。文末の表Cは有名なbogus addressとその残高です。3アドレスだけで2,200 BTCにもなります。

さらに、ウォレットソフトウェアのバグが原因で永遠に失われたコインもあります。例えば、マウントゴックスは2011年11月に対応する秘密鍵がない“empty”アドレスに2,609 BTCを送信してしまいました。今でこそ、ウォレットがemptyアドレスを生成することなどあり得ませんが、当時は世界最大の取引所のウォレットでさえもバギーだったのですね。
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長くなりましたが、まとめとしては、ビットコインディストリビューションはメディアが報じるほど極端ではないものの、偏りがあることは事実です。ただ、今後普及とともに改善することが見込まれます。現に残高0.01 BTC以上のアドレス数は今年初めの850万から現在は910万に増えています。残高別アドレス数の推移を示す文末のチャートDもこの傾向を裏付けます。

最後に。”BItcoin Fix This”というミームの通り、ビットコインは多様な社会問題の解となるポテンシャルを秘めています。しかし、格差問題は解決しません。ビットコインが実現するのは結果平等ではなく機会平等の世界です。紙幣印刷機に近い人が不当に利する現制度と異なり、ビットコインはマイニング、購入、報酬など入手方法は違っても全員に同じ条件、つまり市場価格を支払うことを強います。そして手に入れたビットコインの価値をインフレを介して誰かに奪われる心配もありません。サトシは金融ゲームのルールが一部の人たちの都合で勝手に変えられてしまう現行制度と決別するために、ビットコインにプルーフ・オブ・ワークを採用したのです。
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