アメリカ覇権の屋台骨、原油本位制ペトロダラーのほころび ③
本コラムは2021/08/13、2021/08/20付けコラムの続きです。
先週はビットコインのビの字もないコラムでがっかりさせてしまったかもしれませんが、今回はポスト・ペトロダラー世界で、ビットコインがどのような役割を担うのかも考察します。
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前述のように、システム発足から半世紀が経ち、社会経済環境の変化で機能不全に陥っているペトロダラーをめぐり、国際準備通貨発行益という莫大な利権を死守しようとするアメリカと、システム設計の欠陥を突いて、100年越しの野望を果たそうとする中国が攻防を繰り広げています。アメリカの凋落は明らかです。ただ、1970年代のアメリカのように突出した経済力と指導力を持ち、国際貿易の決済通貨需要を単独で満たせる国がないのも事実です。世界の多極化と経済力の分散化という流れの中、その流れに逆らうように、通貨制度が一国に全面依存したままなのは不自然なので、通貨制度の分散化もまた不可避ではないでしょうか。
では、具体的に、今後どのような変化が予測できるでしょう?
前回コラムで、エネルギー資源などコモディティの国際取引で、ユーロ、人民元、ルーブルなどの米ドル以外の決済比率が増えていることをご紹介しました。この傾向が続けば、各国中央銀行の準備金は、現在の米ドル偏重から、実際の国際決済ニーズに応じて、複数通貨を併せ持つ形態に徐々にシフトすると思われます。
また、ASEANやECOWASなど、特定地域で自由貿易圏の形成を目指す経済共同体では、参加国がバスケット通貨を作り、域内取引の決済に利用することも考えられます。(2019年にFacebookが導入を目指したものの、欧米諸国の猛反対で頓挫したLibraは、Facebook経済圏のバスケット通貨と捉えることができます。)欧州経済共同体が欧州共同体を経て、欧州連合に発展し、ユーロが誕生しました。ユーロはバスケット通貨ではなく、参加国の既存通貨を完全に置き換えました。しかし、現在の通貨を残したまま、バスケット通貨を新たに作り、主に国際取引の決済手段、中央銀行の準備金として利用することも可能です。メリットは、各国が金融政策の決定権を放棄せずに済むことです。このため、参加国の抵抗が少なく、実現性と実施スピードが上がると考えられます。
地域バスケット通貨を持つことで、参加各国の個別事情に起因する通貨価値の変動が国際貿易収支に与える影響を和らげたり、準備金の急激な棄損を回避する効果が期待できます。投資のポートフォリオ効果と同じです。しかし、この効果は一時的なものに過ぎません。1997年のアジア通貨危機や、現在、南米で深刻化するインフレなど、経済危機は近隣国でも同時に起こることが多く、近隣国の信用を寄せ集めたところで限界があります。
1971年にアメリカが米ドルの金兌換を停止して以降、法定通貨はただの紙切れとなったことを忘れてはいけません。通貨の信用問題を根本的に解決するには、価値問題に真正面から取り組むしかないのです。
そこで、アメリカがペトロダラーで行ったようなこと、つまり、世界的に希少性が認知されている天然資源に通貨をリンクさせる国が出てくるというシナリオが考えられます。ロシアが大国以外の国へのエネルギー資源輸出を自国通貨ルーブルで決済しているのは、このシナリオに該当します。あとは、金本位制への部分的、一時的回帰もあり得ます。部分的、一時的にとどまる理由は、自ら進んで通貨膨張という打ち出の小槌や、為替操作で貿易収支を操作する手段、すなわち、無価値な法定通貨の発行権限を放棄する政府などないからです。したがって、通貨危機に陥った時の非常措置として、一時的に金準備金を増やす程度だとは思います。
オランダの中央銀行は2019年に以下のように述べています。コロナを経た今、この発言の重みはさらに増しています。
株、債券、その他の証券、あらゆるものにリスクがある。何かあれば、価格は暴落する。一方の金は、平時、非常時を問わず価値を維持できる。中央銀行が歴史的に金を大量保有してきたのも、このためだ。金は究極の価値貯蔵手段であり、金融制度の信用の支柱でもある。経済金融システムが崩壊しても、金があれば再起動できる。十分な金準備を持つことで、中央銀行は国民や他国にバランスシートの健全性を示すことができ、通貨に対する信用も得られる。
インドの中央銀行は数年前に面白い試みを実施しました。国債を金建て、つまり、価格表示をグラムあたりの金価格で表示した国債を発行したのです。ルピーという通貨リスクを排除した結果、通常の国債よりも金利を低くでき、政府は資金調達コストを削減できました。国債を買う方も投資リスクを抑えられると同時に、金のエクスポージャーからの収益が期待できます。このような実験的試みは今後増えるかもしれません。
最後にビットコインについてです。
ビットコイナーの中には、”Bitcoin eats the world”(ビットコインが世界を飲み込む)的な”hyperbitcoinization”(ハイパービットコイン化)を信じる人は少なくないです。金本位制によって平和と繁栄と自由の世紀となった19世紀を、ビットコインが国際標準貨幣になることで再現できると考えているのです。私もそうなれば良いとは思っていますが、それは100年、200年先と考えています。
私たちが生きている間だと、ビットコインを準備金として保有する中央銀行が出てくることは十分に考えられます。ちなみに、9月7日にビットコインを法定通貨とする法律施行を控えたエルサルバドルは、現時点ではビットコインを準備金として持つ計画はないとしています(政府は1.5億ドル相当のビットコインを購入するものの、これは国民のビットコインとドルのシームレスな交換を担保するためのもので準備金ではないとのこと)。
アメリカからの経済制裁でドルを調達できないイランやベネズエラは、国内でマイニングしたビットコインを輸入品代金の支払いに使っています。公式には認めていないものの、実質的にビットコインを準備金のような形で保有しているのではないでしょうか。
トンガ王国では、貴族議員のFusitu’a氏が準備金としてのビットコイン保有を提案しています。しかし、中央銀行にあたる国立準備銀行は、準備金の要件を国際的な信用評価が高くリスクが低い金融商品とした上で、ビットコインは要件を満たしておらず、未だ検討を要すると述べています。
準備金としての採用に関しては、ゲーム理論的な要素があるので、1ヵ国目が出てくるまでには時間がかかるかもしれませんが、どこかが始めれば、オセロが一気にひっくり返るように進む可能性があります。そして、最初の1ヵ国はおそらく米中などの大国ではなく、現制度下でアメリカの暴力的とも言える金融政策に苦しめら続けた小国、途上国だと思います。
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以上、ペトロダラーシステムについて3回にわたり考察してみました。あまり公に議論されることがなく、陰謀論のような響きさえありますが、世界の今を考える上で、どんなインセンティブが働いているのかを知らなければ、真実は見えてこないと考えています。
以下はペトロダラーの歴史を30分で振り返る動画です。ビットコイナーであるRichard James氏の制作で、映像がかっこいいので、英語が分からなくても楽しめます。
https://www.petrodollarsfilm.com/
ペトロダラーについて、もっと詳しく知りたい方は、私が参考にした以下記事をおすすめします。
https://bitcoinmagazine.com/.../the-hidden-costs-of-the...
https://susanfsu.medium.com/think-btc-is-a-dirty-business...
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