先日、「アメリカで開催されたCES 2026というテクノロジー業界・家電製品業界で有名な展示会において、ビットコインマイニングできる給湯器がデモされている」という内容の投稿が日本のツイッターでバズっていました。

本稿の読者のみなさまは既にご存知かもしれませんが、実はマイニングの排熱活用はかなり昔から進んでいる分野であり、例えばカナダでは周辺地域の家庭用暖房や農家のハウス栽培に、アラブ首長国連邦では海水の淡水化に活用するプロジェクトが進行しています。

Bitcoin Mining Gets Greener: Canaan Recycles Heat for Farms
Canaan launches 3 MW Bitcoin mining pilot in Canada recycling waste heat for greenhouse farming as renewable energy reaches 52% of network.
How Bitcoin Improves Water Abundance In Water Scarce Nations
Bitcoin can even fix water shortages in water poor nations. Yes, really.

実際、日本ビットコイン産業のオフィスにもAvalon Mini 3というマイニング排熱を使ったヒーターが設置されています。「令和からのBTC相談所」チャンネルの動画で紹介されています。

今日はそんなマイニング排熱を活用した製品について紹介しつつ、果たして経済的合理性はあるのかを試算してみます。

  • マイニング排熱の大規模活用事例
  • 家庭用のマイニングヒーターも数多く存在
  • 再生可能エネルギーとマイニングの相性の良さ

マイニング排熱の大規模活用事例

マイニングは大量の専用チップ(ASIC)に計算を行わせるため、多くの排熱を生みます。マイニング機材を見たことがある方は冷却ファンの存在感が印章に残っているかもしれません。同時に、このファンが回転する騒音も凄まじいものです。

日本で売電開始前の再生可能エネルギーを使ったマイニングを行っているアジャイルエナジーX社のサイトの取材動画です。

この排熱は厄介で、ASICを十分に冷却できなければ機材の寿命や性能にも影響してしまうため、多くの場合建屋のファンによって屋外へと放出されます。しかし、熱自体にも価値があることに注目し、マイニングの排熱を大規模に活用している事例もあります。

例えば冒頭で紹介したように、海水の淡水化プラントや農業用ハウスの熱源としての利用です。下の動画はオランダでチューリップの栽培にビットコインマイニングの排熱を使っている事例のものです。チューリップバブルに例えられることがあるのでユーモラスな取り組みでもあります。

ニューヨークの温浴施設では、アメリカで自宅のプールをマイニングの排熱で温水プールにした人がいることを知って、計算力2000TH/sほどのマイニング機材を購入し、施設の水温管理に活用しているそうです。これは設備投資した当初なら年間で1.5~2 BTCほど採掘できる規模でした。もちろん、施設の熱源すべてをマイニング機器に交換したわけではありませんが、光熱費も大きくは変わらなかったそうです。

2000TH/sというと、以前に紹介したBitaxe Supraなら3000台、冒頭で紹介した動画に出てくるAvalon Mini 3なら50台に相当します。しかも導入したのは2022年頃なので、当時の性能で言えばかなり大きいハッシュレートでした。

Bitaxeについては過去記事をどうぞ。

ホビーマイニングの最先端?BitAxeシリーズが面白い
皆さんは「ホビーマイニング」と聞いてどんな光景を想像しますか? 一昔前であれば家にグラフィックボード数台を用意してアルトコインをマイニングしている人がいましたが、最近でも古めのASIC(Bitmain Antminer S9など数世代前のもの)を買って冬場にヒーター代わりに稼働しているビットコイナーの姿をときどき見ます。 ただ、日本だとS9を1台稼働させるのも難しいかもしれません。まず、消費電力が1500Wほどあるため、24時間稼働させるには家の電気容量がそこそこ大きい必要があります。 例えば私が以前暮らしていた単身者向けアパートだと電気容量は20Aだったため、S9を稼働させると他にほとんど家電製品を使えないことになります。今の家は30Aなのでもう少し余裕がありますが、エアコンなどと合わせるとかなり厳しいです。 さらに騒音の問題があります。大型のASICはかなり発熱するため、冷却のために高速回転するファンが付属しています。これが非常にうるさいため、家の狭い日本では置き場所に困ります。(海外だとガレージや地下室、庭の小屋などに置かれがちなイメージです。)生活スペースに置くとしても

これらの施設は熱源としてビットコインマイニングを使う判断をしたわけですが、これは熱効率に注目すると必ずしも最善の選択肢ではありません。例えばヒートポンプが使えたり、安価な化石燃料が手に入る(電気以外の選択肢がある)などの条件があればそちらのほうがトータルで見てもコストが低い可能性だってあります。

しかし、マイニングの排熱活用によって得られるメリットもあります:

・事業活動を通してビットコインを積み立てることができる
(電気代のキャッシュバックをもらうような形でビットコインが得られる)

・マイニングの分散化に貢献し、ビットコインを強化できる
(創業者・経営者のやりがい、極端な話だとビットコインの安全保障につながる)

・ビットコイナー向けのマーケティングになり知名度が得られる
(ニュースに取り上げられ来客が増える、積極的に選ばれる施設になる)

マイニング以外でのビットコインの事業活用と同じく、広範な効果が期待できます。

家庭用のマイニングヒーターも数多く存在

もっとスケールを落として、800WのAvalon Mini 3のように個人宅に置けるようなプロダクトも多数存在します。型落ちのASICを買って、消音用の箱に入れて自宅で運用している人もいます。

LiteSound BoxというASIC消音用の箱の図解
ASIC miner silencer modification kit | Zeus Mining
Professional ASIC miner silencer kit, reducing noise while ensuring heat dissipation, suitable for Antminer whatsminer avalonminer and other full range of miners.

消音用のキットを販売しているサイトの例

​特に日本では家庭用電力の料金がかなり高め(30円/kWh前後)なので、最新のマシンを使っていても初期投資はおろか電気代の回収すらできませんが、趣味の言い訳としては冬に多少の暖がとれます。(逆に夏は稼働させられないでしょう)

例えばAvalon Mini 3を例に取ると…

1ヶ月の電気代:800W×24時間×1ヶ月×30円/kWh = 17,280円
1ヶ月の採掘BTC:約43,000 sats(0.00043000 BTC)=6,490円

ただし、仮に同じ性能の電気ヒーターを24時間つけっぱなしにしてもよいと考えていたら、その分の電気代が浮いたという見方もできます。

エアコンの電気効率はヒートポンプによって400%前後といわれるので、実質的に電熱線(100%)であるAvalon Mini 3と同等の暖房効果を得ようと思うとエアコンの消費電力200Wに相当するといえます。

Avalon Mini 3の暖房効果に相当するエアコン200Wの電気代:4,320円

したがって実質的にAvalon Mini 3の赤字は月に6,470円といえるでしょう。

また、同じく実質的に電熱線であるセラミックファンヒーターを24時間稼働させている人はいないと思いますが、もしいたら熱量あたりの電気代はAvalon Mini 3と同じになると予想されるので、追加負担なしで月に0.00043 BTCが丸ごともらえる計算になります。

もちろん、マイニング機材のほうが初期投資としては高くついてしまうことと、暖房器具としての設計の違いから、専用の暖房器具のほうが体感として暖かい可能性はありますが…。

再生可能エネルギーとマイニングの相性の良さ

再生可能エネルギーとマイニングの相性の良さはかねてから言われていることです。

ご存じない方のために説明すると、再生可能エネルギーの多くは自然現象によるもので、発電量が激しく上下します。再エネの比率が高まるほど発電量のコントロールは難しくなってしまいますが、電力系統に過剰な電気を供給しても供給が不足しても停電が起こってしまいます。

そこで、常に余剰な電力を発電しておいて、マイニングで柔軟に余剰分を消費すれば、本来売れなかった電気でビットコインという形で収入が得られる、というモデルが提案され、実際に世界中で稼働しています。

※より抽象的にいえば、再エネでなくても「貯蔵できない余剰エネルギーが存在する」同じ図式が成り立ちます。この話は以下の3つの過去記事でおさらいしていただけます。

マイニングとエネルギー問題
こんにちは。AndGoのハードウェア担当の片山です。 実は僕は本職ではエネルギー分野に関する研究者をやっているということもあり,本日はマイニングとエネルギーについてお話していきたいと思います。 マイニングについて復習 まずマイニングの復習からしていきたいと思います。ビットコインのトランザクションは約1MBごとにブロックとしてまとめられます。さらにブロックに「ある値」を付け加えたものからハッシュ値というものを計算します。このときハッシュ値がある特定の値以下になるようにしなければいけません。ハッシュ値は付け加えた「ある値」によって不規則に変化するので,「ある値」を無作為に選んで,適切なハッシュ値が出るまで,何度もトライアルアンドエラーを繰り返す必要があります。これがマイニングで行われている計算です。(手動でやってみたい方向けに注釈*に方法を記しておきます。) この無駄な計算を全力で行うことがまさに Proof of Work でブロックチェーンの正当性を担保する作業です。 マイニングに必要なエネルギーを計算してみる 皆さんマイニングに必要なエネルギーってどのくらいか見積もって
ストランデッドガス田とマイニング
ビットコインのマイニングの話をする上で、電力源の検討は外せません。ASICが消費する電力を安く入手するためには、エネルギーの需給が崩れている土地・環境を見つける必要があります。そしてその環境は大規模な設備投資が難しい僻地や、土地の限られた施設内にあることも多いでしょう。 今回の記事は、“Ohmm”というコンテナ型のマイニングファームを製造・販売するUpstream Data社の取り組みと、彼らが有望な電力源の1つとしているストランデッドガス田の収益化が可能か見ていきます。 ストランデッドガス田とは 天然ガスは液体である石油と比べて保管・輸送にコストがかかるため、採算が取れないガス田は多く存在し、推定で地球上の天然ガスの埋蔵量の1/3は「ストランデッドガス田」と呼ばれる、現在の需要では開発が現実的でない場所に埋蔵されていると言われます。 天然ガスの輸送は主にパイプラインか、冷却・加圧する液化プラントと液化天然ガス専用のタンカーの組み合わせで行われており、採算を取るにあたって「消費地からの距離」が非常に大きな要素となります。例えば近距離であればパイプラインにつないで直接発電所などに
産業用電力の余剰分を使ったマイニングは採算が取れるのか?
本稿でも何度か取り上げているように、世界ではエネルギー系企業においてビットコインマイニングの導入が盛んになってきました。代表的なものとして、石油を採掘する過程で産出するフレアガスを発電に利用してマイニングするケースや、発電所にASICを配置することで電力供給量を簡単に調整するケースなどがあります。共通点は余剰エネルギーの収益化です。 マイナーがやっていることも、発電側ではなく消費側で行われる点を除いて同一であるといえます。そこで気になったのが、マイニングではない事業を行っている工場において電気契約上の「余剰電力」があった場合、それを使ってマイニングを行って収益を期待できるのかです。 今日は工場が余った産業用電力でマイニングができそうか試算してみましょう。 マイナーの電気契約 マイナーは多くの場合、週7日24時間安定して電気を使うので電力会社からすると扱いが簡単な顧客です。電力供給側に必要なインフラ等の見通しが立てやすいことや、季節的な電力余剰の消費などが期待できることからマイナーは割引された電気料金で契約していることが多いです。 また最近では、需要逼迫時に電気会社側からの節

マイニングによる余剰エネルギーの消費は電力需要の応答という側面が注目されがちで、実際に上場しているビットコインマイニング企業などを見ても売上の大半が「節電に応じた報酬」となっていたりしますが、もしマイニング機材からの排熱を活用できればこのモデルはさらに収益性が高まるでしょう。

ただし、電力需要に応じて電源を切ることがあるので、農業用ハウスのようなナマモノを扱う活用方法は向いていないかもしれません。「不定期にオンオフされるマイニング機器の排熱」の活用方法を思いつくことができれば新しいビジネスモデルの発見につながるかもしれません。

まとめ

・ヒートポンプには電気効率で劣るが、単純な電気ヒーターと比べればマイニング機材は同等に暖房効果があり、経済性の面でメリットがある。ただし、初期投資は高い。

・農業用ハウス、温浴施設、淡水化プラントなど、熱を必要とする業態との相性がとてもよい。

・再生可能エネルギーの欠点を補うマイニング事業の新たな収益源となる可能性も秘めている。