こんばんは。Yield Farmingブームの影響で相変わらず業界はDefiの話題で持ち切りですが、これらはほとんどがイーサリアム上の話です。実際、ビットコイン上でDefiを構築しよう、という話には文化的な抵抗以外にも、技術的な限界があると認識している方も多いのではないでしょうか。

今日はビットコイン上のスクリプトや、現在利用可能な形で存在する仕組みを使って、「ビットコインのDefi」としてどれくらいのものが実現可能なのか、最近どういうものが利用されているのか見ていきます。

今日はビットコイン自体がDefiだ、ライトニングもDefiだ、というような話ではなく、一般的に”Defi”として認識されるようなものに限って考えます。
ビットコインスクリプト

ビットコインのブロックチェーン上でスマートコントラクトのようなものを実現するには、ビットコインスクリプトと呼ばれる言語でコントラクトの内容を記述します。安全性重視のため機能が限られており、実際に利用されているのは公開鍵やハッシュ値の比較がメインとなります。

また、スマートコントラクト自体も、マルチシグ(送金に一定数の鍵が必要)やタイムロック(送金に一定時間の経過が必要)が主です。ライトニングチャネルのように利害が対立する主体によるものであれば”Defi”と呼べるかもしれませんが、利害が一致する主体が単にマルチシグやタイムロックを使っただけではDefiとは言えないでしょう。

最近、ビットコインリサーチャーのJeremy Rubinが「Capitulation Contract(投げ売りコントラクト)」というスマートコントラクトを発表しました手数料を払えば途中解約できる定期預金のようなこのコントラクトの概要は以下です:

1.二者間のコントラクトである
2.「定期預金する側」は、一定額のビットコインを自分だけではW週間取り出せないマルチシグアドレスに預ける代わりに、その期間の終わりにSサトシの利息を加えた分を引き出すことができる
3.「定期預金を預かる側」は、利息として支払う可能性のあるSサトシをマルチシグアドレスに預ける代わりに、もし定期預金した側が満期を待たずに途中解約したい場合(値動きに怖気づいて売りたくなったなど)、途中解約に応じる代わりに手数料を貰い受けることができる

これによって、一定期間ビットコインを手放さない対価として金利を得る側と、金利を払ってでも相手が途中解約して手数料を払う可能性に賭ける側の間で"Defi"が成立する、というものです。いわゆるマネーレゴはできないにせよ、権利と金利が対になる、紛れもない分散金融です

実際にこのコントラクトで意味のある金利がつくかはわかりませんが、けっこう面白いアイデアなのではないでしょうか。トランザクションを予約するOP_CHECKTEMPLATEVERIFY(旧OP_SECURETHEBAG)の発案なども有名なJeremy Rubin氏はビットコイン開発者の中でも独創的な方だと思います。

ところで、イーサリアムのスクリプト言語であるSolidityほど複雑ではありませんが、ビットコインスクリプトもよほど慣れていないと十分に難しいです。スクリプトにミスがあると大変なので、書きやすさや安全性を向上するためにMiniscriptやSapioのような、ビットコインスクリプトをより人間に扱いやすくした言語が開発されています。
DLCS

Discreet Log Contracts (DLCs)はライトニングチャネルのような2-of-2マルチシグアドレスを用いて二者間で場合分けのあるコントラクトを実行する方法です。オラクルから提供されるデータ(例えば気温やビットコイン価格)を元に二者間の賭けが決済されます。賭けがあった事実は当事者のみが知っており、オラクルすらも知ることはありません。

オラクルとは結果の判断に使うデータを提供する役割を果たす主体のことです。オラクル社とは無関係です。

最近ツイッターのタイムラインに、アメリカ大統領選挙の結果についてDLCを使った賭けをする人たちがいました。かたやSuredbitsの創業者でDLCの開発に深く関わっているクリス・スチュワート、かたやBTCPay Serverのニコラ・ドリエという非常に技術力のある二人なのでトラブル対応もスムーズということでしょうが、価値あるメインネットのBTCを使って実行する段階まで来ていることがわかります。

彼らの賭けは単純にトランプ派が0.4BTC、バイデン派が0.6BTC拠出して、勝った大統領候補が1BTCを総取りする典型的な予測市場ですが、トラストレスにオフチェーンで行われること、そしてビットコイン建てで行えることがポイントになっています。(後者は世間的にはニッチな需要だと思いますが、ニコラはややこしいことをせずにビットコインに賭けたままトランプに賭けたいとのことでした)
ちなみにDLCの仕組みを使えば、予想をドル建てでビットコイン決済することも可能です。ただし、ビットコインドルのレートの精度を高めるほど保管しなければならないデータ量は増大します。

DLCはライトニングチャネルと非常に似た構造であるため、近いうちにLapps(ライトニングアプリ)に導入されたりウォレットが対応したりすると考えられています。感覚的には1年後には最初の例が出てくるかもしれません。これもビットコイン上の”Defi”にとって大きな一歩となりそうです。

ちなみに、DLCではありませんが、HodlHodlというノンカストディアル取引所にも予測市場があり、取引所を含めた2-of-3マルチシグアドレスによってノンカストディアルな賭け事をすることができます。(こういうのも一般的には”Defi”とは呼ばないかもしれませんが…)
おわりに

さて、今日はビットコイン上で現実的に実現できる”Defi"を見てみましたが、予想より色々なことができると感じられたでしょうか。逆に、そんなもんかと感じた方もいらっしゃるかもしれません。現実問題として、先週も紹介した考え方ですが、限られたブロックチェーン上のスペースの使い方は価値が高く手数料の競争に晒されるため、最も経済的合理性がある一種の使い方に収斂していくという考え方があり、それを元に考えると複雑なスマートコントラクトはオフチェーンで保管され、オフチェーンで決済されるようになると考えるのが自然です。
ブロックチェーンは高額送金と、大量の送金をまとめたレイヤー2の決済に使われると考えるのが自然ですし、その認識がビットコイナーの間では一般的です。一方で、DLCのようなオフチェーンの"Defi"のポテンシャルは大きく、スケーラビリティの問題もないため今後拡大していく領域だと思います。そこにおいても、どれくらい盛り上がるかは未知数ですが、個人的にはステーブルコインの人気を考えるとライトニングのようなレイヤー2でビットコイン建てのステーブルコインが発明されるのも時間の問題かな、と想像します。

そこにEasy Moneyがないので資金が集まりにくく、開発ペースはゆっくりですが、着実に進んでいるのがビットコイン上の"Defi"の現実でした。