水曜日の私のコラムでは技術に関する記事を出していましたが、今回より少しテーマを変え、「暗号通貨と世界の今」という観点で時事的なコラムをお送りします。

今回はカザフスタンについて、ソ連からの独立以降の歴史や地理などを踏まえながら、今後のマイニング動向を深掘りして考察します。

筆者は世界の地理・歴史に関して興味がありまして、シルクロードの国々について趣味で調べていたこともありました。また、2022年はカザフスタンにとって動乱の始まりでした。今は少し落ち着いているとはおもいますが、ここで振り返ってみようという感じです。よろしくお願いいたします。

マイニングにおいては次の2点が重要だと思います。

1. 電力の価格、供給安定性

2. 政治的安定性、仮想通貨関係の政策方針

今回は1.について特にまとめようと思います。

カザフスタンとは

カザフスタンという国について、あまり馴染みもない方がいるかもしれません。今回のコラムに大いに関係しますので、まずは国の概略について説明します。

カザフスタンは人口が1900万人で、うち68%がカザフ語を話すカザフ系の人々が住んでいます。このカザフ人は、北部の草原に住んでいた遊牧民の子孫といわれています。見た目はとても日本人に似ているので、日本人がカザフスタンを歩いていると外国人と思われないかもしれません。

1850年代にロシア帝国に支配されるようになり、ロシア人農民が住むようになりました。現在も

カザフスタンで19%はロシア系の人であり、今でも特に北部のロシアと接しているエリアに多く住んでいます。(最近話題になっているウクライナでもドネツィク、ルハンスクといった東部州はロシア系が多いので、そういう点は似ていますね。)

いわゆるシルクロードは、一般に砂漠の中のオアシス都市を指すことが多いです。そのような都市はカザフスタンの南部や、南部に接している隣国のキルギス・ウズベキスタン・トルクメニスタンにありました。そのような関係で、現在でもカザフスタンの南部で経済活動が盛んで、アルマトイという街が最大の経済都市になります。

首都は、ヌルスルタンという街で1997年にアルマトイから移転しました。ヌルスルタンは以前アスタナという名前でした。遷都した際に初代大統領のヌルスルタン・ナザルバエフ氏の名前からつけられたようです。

カザフスタン経済について

カザフスタンは石油・天然ガス・石炭などの資源を輸出することによって、経済発展をしていきました。このような点は、ロシア経済に似ていると思います。2008年頃に、カザフスタンは1人あたりGDPが1万ドル以上になり、いわゆる中所得国の壁を越えました。しかし、2013年頃に原油価格が下がると、おおよそ連動して一人当たりのGDPも戻ってしまい、現在は、また1万ドル以下になってしまいました。中進国の罠を回避するには、資源に依存しない経済が今後必要とされています。

もともとは、ソビエト連邦でしたので、ロシアの影響が大きいとは思います。しかし、独立後に開発された北カスピ海の油田開発プロジェクト、例えばテンギス油田やカシャガン油田の開発には、欧米や東アジアの企業がかかわっています。米エネルギー会社「シェプロン」、「エクソンモービル」、露「ルクオイル」、伊「Agip」、仏「TotalEnergies」、米「ExxonMobil」、英蘭「RoyalDutchShell」、中「中国石油天然気集団」、日「国際石油開発帝石株式会社(現 INPEX)」など、かなり色々な国がかかわっています。

さらに、中国の影響も大きくなりつつあります。2011年3月、中国浙江省の義烏市からドイツのデュイスブルクまでの国際定期貨物列車「中欧班列」が運航開始しました。この路線はカザフスタン国内を通過しています。2013年9月、習近平国家主席はカザフスタンを訪問した際、ナザルバエフ大学で講演し、「シルクロード経済ベルト」構想を提唱しました。これはのちに「一帯一路」構想につながるものです。

ここまで見ればわかるように、中央アジアの要衝として政治的・経済的にもかなり重要度が高いことがわかります。それにより、隣国の大国であるロシアや中国とのかかわりが強く、一方で、欧米や日本にも結びつきがあるという、バランス型の外交をしているように感じます。自国でも国営会社による資源管理をきちんとしようとしています。

2021年夏ころのカザフスタン電力事情

2021年に、中国人民銀行が中国国内での暗号資産禁止令(決済や取引情報の提供など関連サービスを全面的に禁止)を発表しました。当時の中国は世界のマイニング拠点であり、これにより多くのマイニング業者が中国からカザフスタンへと移動したことはよく知られています。このあたりの事情を丁寧に振り返ってまとめます。

以下のデータは、下リンク先にあるものを引用しています。さらに元はKEGOC(国営の電力グリッド運営会社)からの発表です。

(ロシア語サイト)http://ranking.kz/.../v-rk-rezko-podskochilo-potreblenie...

まず、カザフスタンの電源構成についてですが、2021年のデータによると、88.5%が火力発電で、8.3%が水力発電、3.2%が再生可能エネルギーです。

他の記事などで調べると石炭などの安価な火力発電を利用しているそうです。私は詳しくないのですが、石炭にも質の良いもの悪いものがあるらしく、良いものは輸出に回すようです。したがって国内では公害も発生します。また、カザフスタンにはいくつか国際河川があり、水力発電もあります。

これらの電力のうち、余剰の電力を隣国のウズベキスタンとキルギスに輸出しているようです。元々、カザフスタンの発電・供給システムは、ソビエト時代に作られたもので、中央アジア全体に対して計画整備されたものだそうで、カザフスタン一国のために作られていたわけではないとのことです。大きく分けて、カザフスタン北部(ヌルスルタンより北あたり)・西部(カスピ海周辺)・南部(アルマトイ中心にウズベキスタンに近い地域)と分けたとき、北部は余剰ありで、西部南部は不足気味になります。そして南部エリアは、ウズベキスタンとキルギスに接続されています。そしてこれらの需要は、主に冬頃に需要が高まります。

カザフスタンの発電施設は老朽化という問題を抱えています。多くはソビエト時代のものを改修して利用しており、常に整備が行われています。例えば、シルダリヤ川にある水力発電所(Shrdarinskaya Hydro Power Plant)は、1960年代に作られた古いダム発電所です。この発電所はウズベキスタンのタシケントやサマルカンドといった主要都市に近く、もし止まれば影響がでます。

発電所だけでなく、送電システムにも問題があります。それは、送電距離が長すぎて送電損失が起きているということです。これらもかなり昔からわかっていることで、技術的にはありえない距離だそうで、当然、電力供給を不安定化させる要因です。

また、ロシアとウクライナの問題も絡んできます。2021年2月に石炭在庫不足のため、ウクライナ国内で大規模停電が起きていました。

2021年2月の記事 https://coal.jogmec.go.jp/info/docs/210218_3-5.html

ウクライナはエネルギー資源に乏しく、石油天然ガス石炭といった資源をロシアやベラルーシから輸入していました。また、国内のドンバス地方(ドネツィク、ルハンスク)で採掘された石炭が、なぜかベラルーシやロシア経由で輸入されている状況でした。ちなみに、この時点ではロシア産の石炭石油などをウクライナに輸出する場合、ロシア政府の許可が必要としていました(2019年4月 鉱物資源禁輸措置)。今から見ると、この時からプーチン大統領は戦争を考えていたのかと疑ってしまいます。

それで、これらの地域からの輸入に依存するのはまずいと思ったのか、ウクライナは、ポーランドやカザフスタンから石炭を輸入するようになりました。その結果、カザフスタン国内の石炭は、不足ぎみだったとも言われています。同時に、石炭価格が高騰しており、これにより石炭が輸出にどんどんまわされていました。その後は2021年11月頃に、ロシアはカザフスタンから石炭をロシア経由でウクライナに輸送することを禁止し、ロシア国内の市場に回すようにしているとの情報もあります。

停電、らくだ、わら

そして、翌2022年1月25日の午前11時ごろ、カザフスタン南部とウズベキスタン・キルギスのほぼ全域で大規模な停電が発生しました。完全復旧は1月26日ごろまでかかったようです。その後、アメリカへ業者が移転していくということになります。(ビットコイナー反省会、途中でテキサスのマイニング事情が解説されています

https://www.youtube.com/watch?v=oD3B4qm2HTg )

カザフスタン政府は、マイニングによる電力需要の急激な高まりが原因だとしていますが、果たしてそれだけでしょうか。確かに「The straw that broke the camel’s back.」という諺のように、マイニングの急増によってトドメを指してしまったようです。しかし、時系列を追って調べていくと、石炭の価格高騰・在庫不足、発電送電設備老朽化が要因として十分考えられ、複雑な事情がみえます。実際に似たような状況でウクライナでは停電が起きていました。そして次回のテーマでもあるのですが、停電の直前にカザフスタン国内の非常事態が発生し国内も混乱していました。通常の解釈とは異なるかもしれませんが、私見として述べさせて頂くと、マイニング業者だけに停電の責任を押し付けるのはフェアではないように感じます。