前回【2022/3/2 記事】に引き続き、カザフスタンのマイニング動向を深掘りして考察します。前回は電力不足などのエネルギーに注目しましたが、今回はマイニング規制やインターネット遮断など政策面での背景を考察します。

前回も少し触れていましたが、カザフスタンは周辺にロシアや中国といった大国が存在し、それらの影響を大きく受けています。他にもヨーロッパへの資源輸出など西側の石油メジャーなどにも関係を持っています。いわゆるバランス外交のようにそれぞれの国との友好関係を結びつつ、どれか一つだけの影響を受けないことで独立を保とうとするというように見えます。このような国は他にもあると思います。その中でもカザフスタンは非常に慎重にバランスを取ろうとするタイプのように見えます。一つの政策だけでロシア寄りだとか中国寄りだとかといった見方はできません。なので、時系列で何が起こったかをまとめていき、最終的に「インターネット遮断」という暴挙に出たのかを考えます。

初代大統領ナザルバエフと習近平

ソビエトの崩壊というのは、1990年から1991年にかけて少しずつ構成国家が独立していくことを言います。最初に独立したのはリトアニアでした。そして、最後に独立したのはカザフスタンです(1991年12月)。色々手続きもあったのかもしれませんが、最後というのはとても慎重な感じですね。その際、カザフスタン初代大統領に就任したのがヌルスルタン・ナザルバエフです。ナザルバエフ氏は、ソビエト共産党中央委員会の委員でもあった政治家で、ソ連の副大統領にもなる可能性もあったと言われるほどの実力者です。その後27年以上も大統領を務めていました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/カザフスタンの大統領

彼の下で、資源輸出を中心にカザフスタン経済は成長しました。独立直後の頃はロシアに配慮をしているようです。例えば、バイコヌール宇宙基地という施設がカザフスタン内にあります。宇宙飛行士や前澤友作氏などがISS(国際宇宙ステーション)に滞在するためにロケットが発射するところです。この基地は独立後もロシアが権利を持ち続けることになっていて、ナザルバエフ氏が許可しました。

2000年台中頃から中国の経済発展に伴って、政治的な影響も少しずつ増えてきているようです。2007年にカリム・マシモフ氏が首相就任しました。マシモフ氏はウイグル人で、武漢大学や北京語言大学に留学経験がある親中派などと言われることもあります。2011年3月には中欧班列と呼ばれる定期便が正式営業開始しました。2013年9月7日に習近平国家主席が、ナザルバエフ大学における演説で「シルクロード経済ベルト」構築を提案しました。中国としては一帯一路構想を実現するために中央アジアで大きな影響を持つカザフスタンは重要だと考えています。また、カザフスタンにとってもロシアによる影響とバランスをとりつつ、資源エネルギーに依存しない経済へ転換も目指していく上で、中国は重要です。さて、このような中国の影響を、ロシアはどう考えるでしょうか。プーチン大統領はウクライナに対するNATOの影響力を否定しますが、中国に対してはどうなのでしょうか。私見ですが、プーチン氏はカザフスタンの政治にロシアは影響を与え続けたいという意識が強くあると思います。

第2代トカエフ大統領とプーチン大統領

2019年にはナザルバエフ大統領は80歳になるのもあり、次世代の大統領への移行が行われました。2019年3月20日に2代目大統領にカシムジョマルト・トカエフ氏が就任しました。その後、トカエフ氏の側近とナザルバエフ氏の側近が対立しているとの報道があり、カザフスタン内の政治権力闘争があるとの指摘がありました。ナザルバエフ氏は大統領を辞任したものの、国家安全保障会議の終身議長であり、国家指導者としての憲法上の地位を維持していました。そういう意味ではトカエフ氏に権力が完全移行していたわけではありませんでした。

2021年はカザフスタンにとってパンデミックとマイニングの年でした。カザフスタン政府は、ロシアからロシア製ワクチン「スプートニクV」の提供を受け、2月に医療関係者・教師、軍・警察関係者対象に接種を開始しました。後に国産のワクチンを開発し集団接種で利用していましたが、ワクチンも外交の一つなんだろうと思います。

このような状況で、大規模デモが発生することになります。

2022年1月2日、価格自由化政策の影響で液化石油ガスの上限価格が撤廃され、燃料費値上がりしたことに対して、一部の国民が反対し、抗議デモが西部地域より始まりました。その後各地へ拡大していきます。

1月4日、トカエフ大統領は内閣総辞職を命じ、燃料費を元に戻すと表明。しかし、デモは鎮静化せず。南部最大都市アルマトイで警察隊との大規模衝突が発生しました。

この辺りから、違和感を感じます。そもそも価格上限撤廃されれば国民が怒るのは当然です。わからないはずはありません。これにより得をするのは、石油会社関係だけではないでしょうか。さらに、燃料費を戻すと表明したのに怒りがおさまらないというのは、そもそも政治に不満があるということではないでしょうか。旧ナザルバエフ大統領時代には親族や側近が石油利権で利益を得ていたそうです。価格上限撤廃についても、ナザルバエフの娘がトカエフ大統領に要求していたとの記事もありました。

同1月4日、インターネット管制が始まることになります。SNSを統制したかったのが理由だと思いますが、それによりマイニングハッシュレートに影響が出たことはすでにご存知の通りです。

ここから怒涛の勢いでナザルバエフ大統領及びその一派が排除され、ロシアの特殊部隊がカザフスタンに入ってきます。

1/5 ナザルバエフ氏(前大統領)が安全保障会議の議長を解任される

1/5 国内全域に非常事態宣言発令

1/5 ロシア主導の軍事同盟の集団安全保障条約機構(CSTO)に、抗議行動の鎮圧に向けた支援を要請。

1/6 燃料価格の上限設定を半年間復活させると発表。しかし抗議行動は収まらず。

1/6 アルマトイにある大統領公邸に火がつけられる。また、アルマトイ空港がデモ参加者に占領されていたが、軍が鎮圧。

1/6 CSTOは、集団的平和維持軍を派遣したと発表。ロシアの空挺師団がカザフスタンに展開

1/7 トカエフ大統領は、治安部隊に「無警告の発砲」を許可したと発表1/8 情報機関の国家保安委員会が、ナザルバエフ氏の側近、カリム・マシモフ前委員長を国家反逆罪で拘束したと発表

1/9 米国ブリンケン国務長官は、トカエフ大統領が警告なしの発砲を治安部隊に許可したことを批判

1/10  トカエフ大統領は、EUのミシェル大統領との電話協議で、国内の騒乱が「周到に準備された組織的なテロ攻撃」であると指摘し、アフガニスタンや中東などからの戦闘員が参加していたと説明

1/19 CSTOの部隊が撤退完了

1/19 非常事態宣言解除。経済活動正常化へ。

このように見てみると、やはり国内政治権力闘争という側面が強いです。トカエフ氏にとってみれば、ロシアの力を使って自分の政治基盤を安定化させることができました。ここまでみると価格上限撤廃もわざとではないかと疑ってしまいます。

一方、プーチン氏にとってみれば、カザフスタンにおけるロシアの影響力を拡大し、中国軍の介入前に処置をすることができました。しかしその後、ロシアのウクライナ侵攻に対して、トカエフ氏は距離を置いています。カザフスタンの政治にロシアの過激な外交が脅威に思われているかもしれません。

このようなものにマイニング業者だけでなく一般国民が巻き込まれています。ナザルバエフ氏は「年金生活者になった」といっています。これで政治は安定化すると考えるのは楽観的でしょうか。今後はネット遮断という事態にならないように願っています。