ビットコインのハッシュレートが爆上がりしています。一年の3/4が過ぎてしまいましたが、すでに年初比で+50%という成長を見せており、相場の低迷とは裏腹にマイニング業界はまだまだ余力がありそうです。

半減期による供給量の減少と相場の変動により、これまでマイニング業界は拡大しつつも数年ごとに不況が訪れ競争力の低い事業者が撤退するというサイクルを経験してきました。しかし、マイニング事業への理解が深まり、リスク管理やこの「不況」をチャンスとみる参加者が増加したためか、ビットコイン相場が低迷していてもマイニング事業への投資は減速していないようです。

この長期的視点の普及とアメリカでのマイニング企業の相次ぐ上場などといった資金調達面以外でもここ数年のマイニング業界の大きなトレンドがあります。それは「腐っていたエネルギー源」の追求です。有名どころでは収益化が難しかった石油採掘の副産物としての天然ガスや、時間帯により発電量に余剰が生まれやすい自然エネルギーなどですね。

この文脈で「本当に腐っているエネルギー源」を活用しようという取り組みが出てきたので紹介します。埋立処分場から発生するメタンガスです。

いきなり余談で恐縮ですが、埋立処分場×ビットコインといえばかつて8,000BTCの入ったウォレットを誤ってノートPCごと捨ててしまった男性が埋立処分場を捜索しようとしている話は有名ですね。

下水道や埋立地の「資源」

微生物が有機物を分解する際に酸素の少ない嫌気環境であればメタンガスが生成されます。動物の糞などを発酵させ、発生したガスを燃焼するバイオガス発電というものが存在します。(バイオマス発電の一種でガスを発生させるものの総称)

この発電方法は資源となる有機物を集める大変さがネックであるため、もとからし尿が集まる下水処理場内の施設となっていたり、逆に農場や食品工場で糞尿や生ごみを「地産地消」する小規模な発電に利用されています。前者の例として豊橋市バイオマス利活用センター(出力1,000kW)、後者の例としてくずまき高原牧場畜ふんバイオマスシステム(出力37kW)があるようです。

バイオマス発電|再エネとは|なっとく!再生可能エネルギー

このように発酵してメタンガスを生ずる有機物はエネルギー資源となり得ます。そして下水道局、農場や食品工場はもちろんのこと、埋立処分場でも発生し「ランドフィルガス」と呼ばれています。

毛色が違いますが、生ごみなどを償却するごみ焼却施設においても発電(ごみ発電)が行われており、毎日数百トンのごみを焼却するようなところは炉が大きいので出力も1万kW級のものが多数あります。ただし、ごみには水分が非常に多く含まれるため焼却時に多量の重油を燃料として利用しており、生ごみが資源というよりは焼却時に発生する熱を回収しているだけという見方のほうが正確そうです。

https://www.nies.go.jp/kanko/news/15/15-1/15-1-09.html

また、ごみ発電について普及の障壁となっているのは売電価格の低さという文献がありました。5円/kWhで売るくらいならマイニングできなくもなさそうですが、初期投資や運用方法などを考えると勝手が悪いのは間違いなさそうです。

日本の埋立処分場

実際に埋立処分場に立ち入ったことがある方は少ないかと思います。自分も近くから見たことはあっても、実際に降り立ったことはありません。

首都圏で最大の埋立処分場である中央防波堤埋立処分場は1970年代から利用されており、これからも残り50年ほど利用される見込みの大規模な埋立地です。焼却されたゴミや粗大ごみ、産業廃棄物が埋め立てられています。埋立地なので、将来的には東京湾に浮かぶ他の人工島と同様、倉庫や港として利用されます。

生ごみを直接捨てているわけではないにしても、どうしても生ごみは紛れ込むのでそれに起因するメタンガスが地中で発生します。メタンガスは有毒で爆発の恐れもあるため、将来的に埋立地を活用することを考えると地中から抜いてしまいたい、それならついでに発電に利用して現場で使おうという発想で「ガス有効利用施設」が昭和末期に作られました。

この施設の発電量は最大275kWと、前述の豊橋市バイオマス利活用センターと比べても小さいです。このため、すべてオンサイトで利用されており、売電はしていないようです。

中央防波堤埋立処分場でのバイオガス発電システムの概要と各部分についての詳細な説明を東京都環境局がウェブサイトで公開しているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

ガス有効利用施設|東京都環境局
ちなみに中央防波堤埋立処分場は大田区と江東区が帰属を争っている日本国内の係争地としても地理界隈では有名ですね。

Vespene Energyはぶっちゃけどうなのか

今回の記事のきっかけになったのは、8月に埋立地からメタンガスを回収してビットコインマイニングする!という発表をして話題になったVespene Energyというスタートアップです。シードラウンドで6億円ほど調達したそうです。

しかし、上述したとおり、少なくとも日本では下水や埋立地で発生するガスからの発電がすでに比較的普及しており、新規性はあまりないという印象を受けました。アメリカではどうなのでしょうか?

米国環境省のウェブサイトにLandfill Gasの影響と活用状況についてのページがあり、そこには米国の埋立処分場のうち538箇所でガス有効利用プロジェクトが存在し、その他に470箇所の有望な埋立処分場が存在すると書いてあったのである程度一般的な設備のようです。有望ではない埋立処分場の数は書いてありませんが、それほどたくさんあるものなのでしょうか…?門外漢でわかりません。

Basic Information about Landfill Gas | US EPA
Learn about methane emissions from landfills, how landfill gas is collected and treated, and the types of landfill gas energy projects.

これらのプロジェクトの68%が最終的に集めたガスを利用して発電をしており、それ以外は集めたガスを焼却に使ったり、精製して天然ガス代替品として車両の燃料にしているようです。

やはりごみ処理施設は輸送の都合上ある程度人口がある地域の周辺に存在することが多いため、現地の電力需要がそれなりに存在し、ビットコイン採掘より売電のほうが利益がでる場合が多そうな予感がします。個人的には、小規模な埋立処分場のみを対象にした相当ニッチな事業になるのではないかと感じます。

カーボンネガティブではないが…

また、バイオガスに限らず、フレアガスなどに関しても「カーボンネガティブだ」という発言をたまに見ますが、これは厳密には間違いでしょう。少なくとも、排出されるガスがメタンガスなどから二酸化炭素に変わるだけであって、元素量は減少していません。

一方で、温室効果は確かに大きく削減されます。質量あたりの温室効果を表すGWP (地球温暖化係数)という概念があり、メタンはCO2の25倍、一酸化二窒素は310倍という大きな影響があるとされています。したがって、これらのガスの大気への放出を防ぐことができるのなら、最終的に排出される炭素量が同じだったとしても温室効果の削減ができます。

もちろん、マイニング以外に電力の用途が考えられる場所であれば、現地消費や売電という形の方が経済合理的な可能性が高いと考えられますが、電力需要のない僻地の大規模な埋立処分場などといったケースにおいては採算性の向上につながる可能性があるものかもしれません。

Vespene Energyが事業として期待できるかには疑問符がつくことには変わりありませんが、電力需要のない土地に大量の有機物が廃棄されているというレアケースにおいては地球温暖化対策にもなる、ニッチなソリューションなのではないでしょうか。(炭素排出権取引などと絡んでいきそうですね)