11月はライトニングユーザーにとって出来事が盛りだくさんの1ヶ月でした。Zapの祭典・Nostrasiaが東京で開催され、エルサルバドルではもはや恒例となったビットコインカンファレンスがあり、BRC-20の流行でオンチェーン手数料が急騰しました。これらの出来事については最近の記事でも触れています。

月の後半で印象的だったのはライトニング上での広告スパムの急増です。特にWallet of Satoshiユーザーは着金するたびにスマホに通知が来ていたので記憶に残っている方も多いでしょう。(現在は対策済みでスパムの可能性が高い送金については基本的に通知は来ません)

ライトニングを使った広告の仕組みは実は数年前から存在するコンセプトで、これまでにもいくつかのプロダクトや仕組みが入れ替わってきています。今日はライトニングを使ったP2P広告の課題について考えていきましょう。

・ユーザーに直接届けるか掲示するか

・固有ユーザーを認識することが難しいという問題

・オーディエンスと広告モデルの利益相反が危険かもしれない?

ユーザーに直接届けるか掲示するか

一口にライトニング広告と言っても、大きく分けて2種類のモデルのものが存在しています。1つはユーザーに直接メッセージや画像を少量のsatsとともに届けるモデル、もう1つはバナー広告など情報を掲示する料金をライトニング払いするものです。

今回話題となったLightning Addressを利用した大量一斉送金は前者のモデルに当てはまります。やり方は簡単で、Satogramというアプリを使えば誰でも広告を一斉送信してWallet of Satoshiユーザーの送金履歴画面を下記画像のようにできてしまいます。(もちろんWallet of Satoshiユーザーでなくても届きます。)

Wallet of SatoshiでLightning Addressを取得しているとこんな状況に

ちなみにLightning Addressを用意していなくてもSatogramサイト上でノード公開鍵を登録すれば以後届くようです。

実はこのモデルの元祖となっているのはLNURLやNostrの生みの親として有名なfiatjafが運営していたテレグラムボット「Lntxbot」に搭載されていたsats4adsという機能です。非常に画期的な機能だったのでSpotlightに投稿した下の記事で紹介しています:

LntxbotをBluewalletで使う
【追記2023/02/24】Lntxbotはサービス提供を終了しました。また、Bluewalletも

sats4adsの場合は各ユーザーが広告を受け取ってもよい「しきい値(文字単価)」を設定できたため、配信者側はコストが見通しにくいという問題はありましたが閲覧者側は料金設定を工夫するインセンティブがありました。(低く設定しすぎるとその金額しか得られないため)

残念ながらLntxbotはサービス終了してしまいましたが。。

バナー広告のように掲示するモデルも、これまたfiatjafが考案したEtleneumというサービス(これも既に終了)を利用してSpotlightのトップページに時間単位で広告を出稿できるという機能がありました。

Spotlightトップページの広告出稿機能の残骸

厳密に広告ではありませんが、初期のライトニングアプリの1つであったsatoshis.placeもピクセル単位で料金を払って書き換えられるという意味では似たようなものかもしれません。(なんと3年前に載せたものがまだ視認できます!)

Satoshi’s Place
A Bitcoin Lightning Network powered online multiplayer game inspired by Reddit Place and the million dollar homepage.

特にユーザーが設定した文字単価で直接ユーザーに広告を届ける機能はライトニングとの親和性が高いように感じるので、これからの発展に期待したいです。

固有ユーザーを認識することが難しいという問題

これはデジタル広告自体が直面する問題ですが、広告主はできれば不正な閲覧者(ボットなど)に対してお金を払いたくありません。動画の閲覧数を水増ししたり、使う気のないユーザーをポイ活目的で登録させるようなことは広告主の意図に反して料金を発生させてしまいます。広告主の唯一の対抗手段は払い出しのタイミングを遅らせたり、厳しい条件を設定することで採算が取れるよう仕組むことです。(一定額の利用を条件にするなど)

ライトニング払いで直接ユーザーに広告を届ける場合はこのような対策は原理的に取ることができません。Lightning Addressやノードの公開鍵などはほぼゼロコストで乱造できてしまいます。エアドロップ業界におけるシビル攻撃問題 (偽のアカウントを乱造して大量のトークン獲得を目指す)と全く同じ構造があるのです。

したがって長期的にはP2P広告はワークしないか、何らかの方法でデジタルIDと紐づいたり (Proof of Personhoodと呼ばれるやつですね)、オープンなネットワーク上ではなくクローズドなサイト内で、払い出しに条件をつけて実施されるようになっていくような予感がします。

もちろん、小規模で牧歌的なサイトであればかつてのSpotlightのように時間・日・週単位でのバナー広告出稿自体は細々と行われていくかもしれません。

オーディエンスと広告モデルの利益相反が危険かもしれない?

より根本的な課題はライトニングユーザーという非常に小さく偏ったマーケットにおける広告需要です。懸念点をはっきりと言えば、広告主の大半が詐欺になってしまう可能性が小さくありません。

実際、CoinMarketCapのような仮想通貨系のサイトに表示される広告はほぼ100%が詐欺でした。(2020年のBinanceによる買収で広告モデルから脱却したようです。) ライトニングユーザーという特殊な層に対して広告を打ちたい事業者は「ライトニングアプリ・ウォレット」か「フィッシングサイトや詐欺」の2つになってしまう予感がしていて、後者のほうが収益性が高ければ広告予算も大きいのではないかと思います。

広告内容を手動でフィルタリングするにも市場が小さければ費用対効果は悪く、また「広告内容はなんでもいいからsatsをくれ」というユーザーの声も予想されるので簡単に無法地帯化していくのではないでしょうか。

ライトニングによって広告モデルから脱却し、少額課金による持続可能なサービス提供を可能にすると謳うValue for ValueやL402といったプロトコルとは違い、ライトニングによるP2P広告はユーザーの認証や危険な広告のフィルタリングとセットで初めて満足に機能するように思います。

L402:有料コンテンツやAPIの認証におけるスタンダードを目指す野心的なプロトコル
概要 ・L402 (旧LSATs)はウェブ上で有料のリソースへのアクセス認証をライトニング払いで入手できるトークンで行うための規格である。 ・ユーザー情報の登録やクレジットカード決済の必要なしに有料リソースに対して少額従量課金やサブスクリプションのような決済方法を提供する。例えば有料APIの提供時にユーザー情報や支払い情報を管理することなくステートレスにアクセスを制御できる。 ・L402/LSATsを提唱したLightning Labs自身が提供するLightning Loop・Lightning Poolサービスにすでに利用されているが、規格化によって他のサービスでの利用やLnd以外のノード実装で利用できるインターフェースが用意されやすくなる。 ・L402という名称はこれまで一般的に使われてこなかったHTTPレスポンスコード402 PAYMENT REQUIREDに由来する。 Lightning Labsが提案しているL402という認証プロトコルとAIエージェントの相性についての話題が盛り上がっています。私はAIについては詳しくないのでその相性の話は割愛しますが、広い話をす