ライトニングの資金効率向上を促すLightning Pool
先日、Lightning Labs社がチャネルを張ってもらいたいノードとチャネルを張って収入を得たいノードをつなぐLightning Poolというサービスのアルファ版を発表しました。チャネルを提供する側は一定期間チャネルを維持する対価として金利収入を得るので、Lightning Poolはビットコインを運用する方法としての側面があります。このため、DefiをもじってLiFi(Lightning Finance)のアプリケーションだと持ち上げている人もいます。より本質的には、必要とされているところに確実にライトニング上の流動性が行き渡るように促すLightning Poolについて、どのようにしてライトニングネットワークを効率化するのか、そしてそのサイドチェーンのような仕組みについて解説します。時間がない方は、まとめだけでも読んで下さい。
ビットコインの時間的価値とライトニング
2018年にNik Bhatia氏が書いた"The Time Value of Bitcoin"という記事において、ライトニングチャネルの運用は資金の拘束を意味するため、その機会費用とセキュリティリスク、期待収益率などからビットコインの参照金利を算出できるようになるのではないかという内容が記されました。ライトニングチャネルからビットコイン自体の金利が計算できるという発想が、今回の議題のLightning Poolの仕組みに密接に関わっています。
LIGHTNING POOLとは
Lightning Poolとは冒頭でも紹介した通り、チャネルを張ってもらいたいライトニングノードが、他のライトニングノードにお金を払ってチャネルを張ってもらうためのサービスです。ライトニングネットワークでは資金を受け取るためにはInbound Liquidityが必要で、基本的には相手方にチャネルを開いてもらうか自分でチャネルを開いて他所に送金する必要があります。
ライトニングチャネルは二者間の「ツケ帳」ですが、基本的に初期状態ではチャネルを開いた側にしか残高がないので受け取ることができません。Inbound Liquidityとは受取可能額のことで、相手方の残高のことを言います。
例えば現在もBitrefillのThorなど、Inbound Liquidityが必要なユーザーがお金を払ってチャネルを張ってもらうサービスはいくつかありますが、Lightning Poolはノンカストディアルな形で「誰でも手数料を対価としてInbound Liquidityを提供する立場になれる」サービスとして開発されました。既存サービスにとっては脅威ですね。Lightning Poolでは一定期間のチャネル維持の対価として、チャネルを張ってもらいたい側の入札とチャネルを提供する側の入札の双方をマッチングすることで、両者にとって希望した手数料の範囲内でサービスの享受と提供が行われます。この双方向のオークションは毎ブロック行われ、そのブロックでマッチングされた全てのチャネル開設がまとめてブロックチェーン上に記録されます。特にシュノア署名がアクティベートされるとチャネル開設の手数料削減に繋がると考えられます。Lightning Poolのなによりの効用は、チャネルに対する手数料の高低によってライトニングネットワークのどこに資金が必要とされているかが可視化され、そこに優先的にネットワーク上の流動性が供給されるようになるため、ライトニングネットワーク全体の資金効率の向上に繋がることです。また、ライトニングノード運営者がより確実に利率を得られるため、ライトニングへのビットコインの供給も増加するかもしれません。
ノンカストディアルな仕組み
ここまでで説明した目的や大まかな仕組みまでは非常にシンプルでした。例えば中央集権型のマーケットプレイスを作成することで、トラストレスでもノンカストディアルでもないものであれば同じような目的を果たすものは作れます。実際、これまでInbound Liquidityが必要なユーザーはBitrefillなどで購入するか、TwitterやTelegramのようなSNSやMicrolancerのような掲示板サイトを通して個別に募集していました。これらのソリューションと比較して、Lightning Poolは多くの取引を中継する(=たくさんの中継手数料を生む)チャネルを発見する上で効率的なほかに、あくまでLightning Labsが運営するサービスですがノンカストディアルでピアツーピアな仕組みにこだわっています。Lightning Poolを使いたいユーザーはまずLightning Labsとの2-of-2マルチシグアドレスに入金することでLightning Poolのアカウントを作成します。それ以降はLightning Labsが毎ブロック主催する封印入札方式のオークションでユーザー間でマッチングを進行します。オークションや入札者・提供者のデータのやり取りには"Shadowchain"と呼ばれる、ビットコインのブロック生成に合わせてLightning Labsがブロックを生成するサイドチェーンのようなものを使用しています。ShadowchainはLightning Poolの参加者のみが共有し検証するデータなので、ライトニングネットワークやRGBと同様、Lightning PoolはClient Side Validationを利用していると言えます。このあたりの仕組みが複雑ですが、大まかな理解にとってそれほど重要ではありません。
おさらい:Client Side Validationとは、ブロックチェーンのように不特定多数に対してデータを公開し検証してもらうのではなく、取引の当事者のみがデータを検証する方式で、当然ながらスケーラビリティとコスト面でのメリットがあります。
これによって、チャネルの借り主・貸主ともにオークションの正常な実行を検証することができます。より細かい情報はテクニカルホワイトペーパーをご参照下さい。少し長くかなりコンピューターサイエンス寄りですが、テーマごとの各章は数ページずつにまとまっています。
まとめと所感
Lightning Poolは、Inbound Liquidityの調達を容易にし、誰でもライトニングチャネルを提供して対価を受け取ることができるようにするLightning Labsが運営するマーケットプレイスです。
ライトニングチャネルの資金配分に関して現在より効率的な市場ができることによって、ライトニングの資金効率の向上をもたらすでしょう。流動性の配分を決めるオークション自体はLightning Labsが生成する”Shadowchain”上で行われ、流動性を買いたい側の入札額と提供したい側の入札額の間でマッチングが行われます。入札自体は封印入札方式ですが、両側の参加者はオークションの結果が検証可能で、サービス自体もGreen Walletと同じ方式でノンカストディアルです。
ただし、オークションのバックエンドはLightning Labsが運営するクローズドソースなサーバーです。Lightning Poolの利用にオンチェーンでの入金によるアカウント作成が必要なことなど、ライトニング払いで決済できるBitrefillのThorのようなチャネル開設サービスや、最初からInbound Liquidityのあるプライベートチャネルやホステッドチャネルを提供してくれるウォレットと比べて高コストな可能性も感じますが、ノンカストディアル、ピアツーピアにこだわるビットコイナーらしい設計のサービスだと思いました。また、シュノア署名がアクティベートされるとLightning Poolを通してまとめられたチャネル開設のコスト削減に繋がるので、コストの懸念はある程度軽減されるかもしれません。利率に関しては、参入障壁が下がるにつれて低くなると考えられます。
ツイッターに"Lightning Pool Orders"というボットが誕生しましたが、現在は年率換算で5%~10%程度のコストで約定しているようです。ライトニングノードの運用に関するベストプラクティスが確立されていくと、ここからさらに半分以下の水準になってもおかしくないかもしれません。また、現在は2016ブロック、つまり2週間単位での契約のみ可能なため、実際の利率はより低くなります。Lightning Poolに関連して、中央集権型のInbound Liquidityマーケットプレイスの登場にも期待したいです。この用途に特化したマーケットプレイスは他には知りませんし、Lightning Poolが描く将来像のようにプログラマブルに悪質なノードを排除したりすることは難しいでしょうが、複雑なLightning Poolと比べて"Quick and dirty"なソリューションも求められている気がします。
特にレピュテーションのあるノード(信用されている事業者のノードなど)は透明性のある中央集権型のプラットフォームを通してのほうが高い利率が得られる可能性もあるのではないでしょうか。その場合、Lightning Poolを利用するチャネル提供者の構成がどうなるかが気になるところです。いずれにせよ、中央集権型のInbound Liquidityマーケットプレイスすらまともに存在しない以上、Lightning Poolはライトニングネットワークの成熟に貢献する、歓迎されるべきサービスです。
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