怒涛の5月の振り返りと教訓
4月中旬に最高値更新した高揚感を引き継いで始まった5月ですが、後半に51%と史上6番目の下落幅となる調整後、4万ドル前後で停滞中。このまま月末を迎えると、単月下落率が史上最大となる可能性もあり、価格動向だけでも波乱に満ちた月でした。調整の契機となったElon Musk騒動は先週のコラムでカバーしたので、今回はそれ以降の転換点となった2イベント(下図①)を考察します。

- 中国によるビットコイン取り締まり強化
- Ray Dalio氏によるビットコイン保有事実の開示
1. 中国の取り締まり強化、今回の本気度強気相場になると必ず息を吹き返す定番FUDですが、今回は取り締まり対象として取引だけでなく、初めてマイニングが名指しされたことで、従来より深刻と見る向きもあります。以下、これを受け現地のマイナーと投資家がどう動いたか、オンチェーンデータから探ってみましょう。

図②はマイナーによるビットコイン送金額が今月中旬に急上昇し、2020年3月のフラッシュクラッシュに次ぐ大きさだったことを示します。タイミングから、中国マイナーが国外移転や一時休業に備えてビットコインを売却して当座の経費を賄うために法定通貨に換えた可能性が浮上します。もしそうなら、5/19のレバレッジ取引強制清算の嵐を誘発し、最終的に32億ドルもの清算に至った惨事は中国マイナーによる大量売却がトリガーと考えられます。

図③は4月中旬の中国の炭鉱事故後、順調に回復していたハッシュレートが5月中旬に急低下し、その後も低迷を続けていることを示します。中国マイナーが警戒心から、または移転準備に向けて一時操業停止しているのかもしれません。

図④は取引所へのビットコインのネット流入量を示すチャートです。注目すべきは世界最大の取引所Binance(グリーン)へのネット流入が加速していた時、逆にHuobi(オレンジ)からは大量流出が起きていた点です。中国を拠点とするHuobiへの当局の介入や出庫制限を恐れた顧客が個人ウォレットに引き出した可能性があります。ロイターが5/24付けで以下を報じており、上記推測を一部裏付けています。https://www.reuters.com/.../crypto-miners-halt-china.../
- マイニングプールBTC.TOPが中国撤退、北米事業に注力
- HashCowが一時休業、ASIC新規購入と事業拡張計画を白紙に
- Huobiがマイニング停止とともに、取引所の新規口座開設を停止
状況はまだ流動的で結論を出すのは時期尚早ですが、今回の件は市場反応とは逆に長期的にはポジティブ材料だと捉えています。長年、投資家の間ではビットコインの中国関連リスクとして以下が認識されていました。
- 中国政府による禁止令
- マイニングの中国集中
中国が実際に禁止に踏み切れば、1のリスクは自然消滅します。今回、中国が本気なら短期的に市場不安定化は避けられませんが、長期的には不確実性の排除によるメリットの方が大きいと思います。2については、今回初めてマイニングが標的になったことで、マイナーは規制リスクヘッジとして廃業、事業縮小、国外移転を検討し始めるでしょう。これはハッシュレートの地理的分散を進め、中国がビットコインに多大な影響力を持つという杞憂を解消します。また、エネルギー構成で石炭比率が高い中国でのマイニングシェアが下がれば、マイニング全体の環境負荷も低下します。中国は一旦方針を出しても市場、業界、海外、国民などの反応を見ながら修正する慣習があるという話も聞きますし、同時期に香港で新たなビットコイン取引規制案が示されるなど戦略的とも取れる動きもあり、今後も一筋縄では行かないと思います。ビットコインを長期投資と考えているなら、こうした報道への過剰反応に翻弄されず、大局を見極めて冷静な対処を心がけたいところです。2. 懐疑派だったRay Dalio氏がビットコインを購入Elon Tweetから始まり、中国FUDが拍車をかけた調整の潮目を変えた一因がこれです。5/24に公開されたConsensus by CoinDesk 2021のインタビューで、Dalio氏が自ら明かしました。これを受け、32,000ドルを割っていた価格が上昇に転じ、5/26には5日ぶりに一時40,000ドルを回復しました。Dalio氏発言の注目ポイントは2点。
ビットコインの価値貯蔵機能への需要の高まり
ドルが1971年に基軸通貨となって以降、最大の切り下げ危機に直面する中、中国が次の基軸通貨の座を狙うなどペトロダラー制度終焉の予兆顕在化が背景- ビットコインの最大リスクは成功
債券からビットコインへの資金移動に歯止めがきかなくなれば、政府は制度維持のためにビットコイン殺しに本腰を入れる
1については、5/11にCNBCに出演したStanley Druckenmiller氏も同様の危機感を以下のように語っており、機関投資家の間では共通認識となりつつあるのかもしれません。「アメリカはルビコンを渡ってしまった。Fedに残された選択肢は債務のマネタイズしかない。これは恐ろしい結果を伴う。15年以内にドルが準備通貨の地位を失う可能性は高い。」2については、これまでも外堀を埋めるように政治家、中央銀行、金融機関、経済学者、環境活動家、メディアがプロパガンダのような的外れな批判を繰り返してきました。先週はとうとうローマ法王まで参戦、今週は年初から続くロンドンの地下鉄・バスを媒体とした「ビットコインを買う時が来た」という広告キャンペーンが当局の命令で中止に追い込まれるに至り、組織的攻撃の可能性を言及する人が増えました。デジタルゴールドとして金市場を侵食するのと、債券市場からの資金流入では政府に与えるインパクトの大きさが違います。政府が今のうちに危機の芽を摘もうとするのも当然です。ただ、政府による禁止も長年の定番FUDです。単一障害点となる中央管理体を持たず、国境のないデジタル世界で完結するビットコインを完全停止するには、全世界の政府が一丸となって行動する必要があります。
しかし、アメリカと北朝鮮、イランなどが手を結ぶとは考えにくく、実現性はほぼゼロです。各国での取引所規制強化、売買や保有の違法化は普及を遅らせる効果はありますが、闇市場の活性化と国外への資産逃避を招くだけというのがナイジェリアやインドなど前例の教訓です。最後に、ビットコイナーとしては、外からの攻撃だけでなく、内部分裂、自滅リスクも想定しておくべきです。ビットコインの成功はステークホルダーの増加と多様化を意味し、意見対立からの内部抗争に発展することは十分考えられます。5/25に発覚した北米マイニング協議会発足をめぐる応酬は、この予告編といったところでしょう。以上、怒涛の5月の振り返りでした。
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