頻繁なBlockstream Satelliteへの言及などから気づいていらっしゃる方も多いかもしれませんが、最近私は宇宙に強い関心があります。なので、ビットコインと宇宙が交わる話には目がありません。

さて、ここ1ヶ月ほどの間にもイーロン・マスクがドージコインを月に送ると発言したり、BitMEXがビットコインを月に送ると宣言したりしていますが、私が一番おもしろいなと思ったのは「月面反射通信」という仕組みを利用してビットコイントランザクションを電波に乗せて月に送った事例です。今回はこの事例を含め、アマチュア無線とビットコインについて触れてみようと思います。

ビットコインのソースコードやブロックチェーンなどをダウンロードできるBlockstream Satellite受信機のセットアップに関してSpotlightに投稿した記事はこちらから無料で読むことができますので、ぜひご一読ください。
https://spotlight.soy/detail?article_id=590td8ctp
https://spotlight.soy/detail?article_id=derh9elr1

SATOSHI.RADIO.BR

Satoshi.radio.brはビットコインが好きなブラジルのアマチュア無線愛好家たちによるプロジェクトで、「世界中のアマチュア無線家が参加してビットコイントランザクションを受信・配信する」という趣旨のものです。

具体的には、参加者はアマチュア無線を聞くソフトウェアを常駐させ、所定のフォーマットで配信された署名済みビットコイントランザクションを検知すると、それをビットコインネットワークに配信します。

このようにしてトランザクションを配信すると、送金する主体が直接インターネットに接続せず匿名でトランザクションを配信することができるため、プライバシー面でメリットがあると考えられます。

メリットがあるものの、実質的にはビットコインとアマチュア無線の両方に興味のある人達による趣味のプロジェクトと思われます。

月面反射通信 (EME)

さて、冒頭で述べたように、アマチュア無線における月面反射通信 (Earth-Moon-Earth)というテクニックを利用して、ブラジル国内の数百km離れた都市間でビットコイントランザクションの受け渡しが行われました。

私もアマチュア無線に関しては詳しくないので、月面反射通信について調べてみました。

そもそも無線通信は周波数や時間帯によって地球上空の電離層と呼ばれる部分に反射されますが、短波・中波・長波と電波の周波数によって反射のされ方が異なり、到達できる距離が異なります。電波が地球と電離層との間を反射することによって地球の裏側とも通信できることがあるのが面白いです。

また、超短波~マイクロ波という高周波数の電波は電離層を突き抜けるので、人工衛星や宇宙ステーションとの通信に用いられます。したがって、月面反射通信もこれを用いて行います。

月面反射通信は地球上で超短波が発信された後、それが月から反射されてきたものを受信することで完成しますが、地球と月の往復距離が大きく、月は動いており、電波の反射効率も良くないため、月面反射通信を行うには大出力の基地局、受信には大きなアンテナが必要なようです。かなり本格的な設備が必要なため、直接触れることはあまり現実的ではありません。

以上のことから、Satoshi.radio.brの月面反射通信による実験が本当に行われたか懐疑的なアマチュア無線士もいます。

余談ですが、1969年のアポロ11号月面歩行時のテレビ生中継(!)はオーストラリアにある直径64mのパラボラアンテナを擁するパークス天文台で受信されたそうです。直径64mというと武道館のアリーナの直径より大きいです。

アマチュア無線でビットコインを送った事例

月面反射通信は難易度が高くユースケースの少ないギミックのようなもので、実際に直接やってみることが非常に難しそうなことがわかりました。もはやアマチュア無線と呼んでよいのかすら疑問です。(月にビットコインを~というギミックにはピッタリですが)

しかし、ビットコイン×アマチュア無線という組み合わせは意外と古いのです。

記憶に新しい中では、2019年にカナダ・トロントでCoinkiteという会社をやっているRodolfo Novak (NVK)氏が、大陸をほぼ横断してサンフランシスコにいるElaine Ou氏にライトニングのインボイスをアマチュア無線で送信しました。これは取得や運用、移動が現実的な機材で行われ、インターネット以外の経路でビットコインを使う方法を模索している一つの例として貴重です。

https://twitter.com/nvk/status/1101548727460741120

実際にElaine Ou氏はWiredのインタビューに対して、2016年から中国のインターネット検閲(金盾)を迂回するのにアマチュア無線を使ってビットコイントランザクションをやり取りすることを考えていたことを説明しています。

https://www.wired.com/story/cypherpunks-bitcoin-ham-radio/

今ではBlockstream Satelliteでブロックチェーンをダウンロードし、無線で署名したトランザクション配信することで、現地のインターネットに依存しないビットコイン利用が実現できるということが実証されています。

ちなみにNVK氏のCoinkite社はハードウェアウォレットのColdCardやOpendimeなどを製造販売している会社です。ひょっとすると本コラムでもAndGoの片山さんにいつか取り上げてもらえるかもしれません。(勝手に期待)

アマチュア無線界隈からの批判

アマチュア無線の世界にはたくさんの制限があります。例えば事業性のある通信を行ったり、暗号化された通信を行うことは禁止されています。satoshi.radio.brがビットコイントランザクションを配信したことでたくさんの批判を寄せられたそうですが、彼らの言い分を一応記載しておきます。

・PSBTを配信する際にモールス符号にはしたが、ビットコインのプロトコルを用いれば誰でも読み取ることができるデータであるため、暗号化ではない (復号に鍵を必要としない)

・お金をもらって行ったわけではなく、広告などでもないため、ビットコイントランザクションの配信は事業性のある通信ではない

そもそもアマチュア無線のルールが人間が会話することのみを想定して作られているようで、その用途なら確かにデータが流れてくるのは問題になります。しかし伝統的な使い方から逸脱したエキサイティングなことをすると叩かれる雰囲気は悲しくなりますね。

もしこれを読んだ方がご自身で試される場合、他のアマチュア無線士に説教されることを覚悟する必要がありそうです。

おわりに (余談)

アマチュア無線には昔から少し興味がありますが、全く勉強したことがありません。災害時などに強いアマチュア無線は、単一障害点のないP2Pネットワークである点や専門技能が必要な点、より効率的な通信手段がダメになった際のバックアップとして機能している点などがビットコインに似ていると思います。発信者に決まりごとが多いのは嫌ですが、それでもいつか試してみたいです。