医療データの分散型管理とブロックチェーン
2022年もあと僅かとなってきました。
今年を振り返れば、戦争・インフレ・疫病など過激な一年でした。もうこれ以上大変なことは無いだろう、と思いながら来年を楽しく迎えたいです。
今回は医療データを民主化するというテーマです。特に最近は電子カルテなどのデータをブロックチェーン上に記帳するというアイデアがだされています。これまでの医療データは、病院や保健所・研究機関などの一部が管理するようなものになっていると思います。これらのデータの中央集権的管理に不満をもつ人も少なくないです。分散的に管理するメリットについて、今一度考えてみようというテーマです。
大阪府の大阪急性期・総合医療センターでは、ランサムウェアによって基幹システムが停止して、電子カルテが使用できなくなりました。この結果復旧するまで、1か月以上の間、診療ができなくなりました。今回あらためてわかったことは、医療機関はサイバー攻撃の対策が十分に行われていないということです。
厚労省の調査によれば、およそ半数の病院はセキュリティ対策予算が年間500万円未満であるといわれています。また、医師や看護師などは理工系学部と比べて、養成課程における情報技術関連の授業が非常に少ないです。さらに、病院内をクローズなネットワークにすることに対する過度な信仰があるようです。現在の行政の指導では、病院内にいる全ての人に対してリテラシーを高める方策を行うようにすること、また、バックアップを適切に行えるようにすることを推奨しています。
ただ、現在は病院に対するサイバー攻撃は非常に多く、対応するのはやはり大変であるように感じます。むしろ、ブロックチェーン上でデータを分散管理するほうが耐性があるように思えますし、事後の早期復旧ができたと筆者は思います。
もう一つ別のメリットとして、データの改ざんを防ぐということに関しても、ブロックチェーンの優位性が生かせる可能性があります。特に臨床試験などのデータについては、なんらかの改ざんの疑われる事例があるようです。日本に限らずどの国でも多かれ少なかれ、改ざんはあります。中国の国家食品薬品監督管理総局の調査によれば、2015年の1622件の新薬申請のうち80%以上の1308件に不正があったことが確認されました。製薬業界は巨額のお金が動くものであるので、生々しい話ですが、改ざんのインセンティブが働いてしまうということがあります。それを防げれば安全な新薬開発・保健活動ができるということですね。
しかしながら一方で、医療データを一般に活用できるようにすることには、医療関係者の抵抗があるように筆者は考えます。先述のデータ改ざんだけでなく、医療データを意図的に誤った解析を行うなどして、あたかも科学的に正しい素振りを見せながら、誤った情報を流す人もいます。医療従事者の目線からすると、このような問題は看過できないようです。SNSではデマの医療情報が大量に出ています。例えばつい最近も中国ではcovidに効くという情報が拡散して、レモンスライスが大量に売れているようです。中国は「清零(ゼロコロナ政策)」の終了、いわゆる「放解」によって、感染拡大が続き、不安な人々が多くいます。このような状況ではデマが起きやすいです。医療には情報の非対称性があり、一般の人が専門知識もなく、正しい情報だけを選ぶことは極めて難しいです。結果として、何が正しいのかわからないまま、一般人は騙されてしまいます。
とはいえ、筆者の感覚としては、医療データであっても一般に活用できるようにして、オープンに活用されるべきだと考えていますし、その方向が正しいと思います。一部の人間だけが特権的にデータを利用するというのは問題が大きいと思います。民主主義社会において情報の公開はとても重要なことです。デマや偽の保健情報対策としては、一人ひとりがリテラシーを高めていくことが大切です。
さらに別の活用法として、業務効率化のためのブロックチェーンの利用があります。
日本の医療サービスは日本国民のほとんどがアクセスできるようになっています。全世界では適切な医療サービスを受けられない人もいますので、日本は恵まれています。医療従事者の方々をはじめ、大変な努力の結果だと思います。しかし一方で、日本はサービス業の効率性・労働生産性が低いことが指摘されており、医療サービスも同様に問題を抱えています。
下のグラフは、医師数の推移を示したものです。

一見すると米国が圧倒的に医師数が多いようにみえます。しかし、日本は人口がおよそ1億3千万人、米国が3億3千万人ということから考えると、人口当たりの医師数はあまり差があるとはいえません。ドイツは日本より人口が少ないのにも関わらず、医師数が多いです。高齢化率などを考えると日本の医師数はそれほど多くないように見えます。
さらに、病床数100ベッドあたりの医師数も調べてみました。

日本は下位でした。日本は人口あたりの病床数が非常に多いからです。これはよく言われていることです。日本は、入院期間が非常に長く、他国と比べて病院に滞在する日数が多くなっていることが指摘されています。患者に寄り添うきめ細やかな医療というのは理想的ではありますが、結局は労働集約的になってしまい効率性が下がるように見えます。このような労働集約的な産業は他にもありますが、これらの産業では単純な機械化・IoT利用などでは効率化できにくい側面もあります。今後は人間にかわるロボットの活用など様々な可能性があり、技術革新が期待されます。
現在においてもすでにDX的なさまざまな業務改善・効率化が行われています。例えば、電子カルテも1999年ごろ法律で認められてから利用が拡大し、現在の導入率は70%程度といわれています。さまざまなデータの転記業務というのがあるのですが、電子カルテのメリットとして、病院内での統合的取り扱いによって、転記業務を省力化できるということがあります。
しかし、これはあくまで一つの機関内の話で、病院をまたがるようなことはできません。筆者は病院間連携が効率性を高める一つのカギになるのではないかと考えています。
例えば、現在の病院は複数の診療科や年代や急性期慢性期などの治療が混在して行われています。ある程度同種の患者を扱うことができれば、効率性が高まるとおもいます。例えば、ある程度同じ介助レベルの方がそろっていれば、機械設備も導入しやすかったり、介護士看護師が効率的に作業できるということです。
そのためには治療の段階が変わってくるごとに転院するなどが必要になると思います。このようなことは長期入院や介護施設などでまず始まっていくのではないかと筆者は予想しています。このような頻繁な転院が実現するためには、ブロックチェーンの活用によって、どこでもカルテデータなどにアクセスできるということが重要になるとおもいます。
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