数ヶ月前から定期的にマイニング関連の情報をまとめてウォッチしているTwitterアカウントの@mononautical氏によると、現在のハッシュレートの47%を扱う計9つのマイニングプールが採掘報酬を同一のカストディアンに直接預けていることがわかったそうです。

マイニングの分散性はビットコインのセキュリティ上不可欠なものですが、MEVの発生による収益の偏りなどによって(主に大きなプールの規模の経済によって)損なわれてしまう可能性が常に警戒されています。

そんな中で多くのマイニングプールが採掘報酬を直接カストディアンに入金していることがどれくらいの問題なのか考えてみます。

・なぜ共通のカストディアン利用が発覚したのか?

・ビットコインマイニングにとって脅威なのか?

なぜ共通のカストディアン利用が発覚したのか?

今回の事実がなぜわかったかというと、ツイートに添付されている画像の通り9つのプールの採掘報酬(ブロック内の最初のトランザクションをCoinbaseトランザクションといい、新規発行と手数料を合わせた採掘報酬がマイナーが指定したアドレスに払い出される出力をCoinbase Outputという)が1つのトランザクションでまとめられているためです。

ビットコイントランザクションにはCommon Input Ownership Heuristicという分析手法があり、これによると1つのトランザクション内の入力はすべて同一主体にコントロールされていることが多いです。(理論上は複数人がそれぞれ入力を持ち寄ることもできますが、署名のためにデータをやりとりするのが煩雑で滅多に使われることはありません。)つまり、これらのCoinbase Outputは異なるプールに採掘されたにもかかわらず、実際には同一主体がコントロールするアドレスで保管されていたわけです。

ちなみにこのカストディアンはCoboだそうです。取引所としてカストディアンをやっているBinanceなどとは異なり、専業のカストディアンです。ブロックチェーンエクスプローラーによってはMEXCという取引所がタグ付けされていたりしますが、立場的にはMEXCもCoboを利用しているのでしょうか。

より根本的になぜこのような情報を見ている人がいるかというと、オンチェーンのデータ分析によってマイニングプールの参加者についても情報が得られるためと考えられます。

マイニングプールが採掘した報酬は一旦すべてが1つのCoinbase Outputに保管されるわけですが、そこから個別のマイナーへと報酬を支払うことになります。その資金の流れをたどることで個別のマイナーが採掘報酬を売っているか売っていないか、個別のマイナーがどの程度の数いるかなどを推測することができます。このようなブロックチェーンデータ解析は昔から犯罪資金の流れを追うことやトレードに役立てられてきましたが、業界や競合の分析にも役立つことがわかります。

ビットコインマイニングにとって脅威なのか?

本題ですが、マイナーの採掘報酬の5割近くが1社のカストディアンに任されている現状はどれくらい危険なのでしょうか?マイニングと5割という数字を聞くと51%攻撃が連想されますが…?

実際のところ、影響はそれほど大きくないと考えられます。その理由は以下の3つです:

1.報酬の払い出しを人質に取って特定のトランザクションの検閲はできるが、マイニングプールの離反を招く一時的な影響力である

マイナーの採掘報酬がカストディアンの手中にあるということは、カストディアンの一存でそれを払い出さないこともできるということです。例えば、ブロックの内容(特定のトランザクション)に異議がある場合などが想定されます。このような力関係はマイナーとマイニングプールの間にも存在します。

例えばマイニングの検閲耐性を改善すると謳われるStratum V2という次世代通信プロトコルがあり、これを使えばマイナーが(プールが指定したものではなく)独自のブロックテンプレートを対象にマイニングできるようになるのですが、これに対する1つの批判が「マイニングプールが報酬の払い出しを制限できるので実質的には許可制である、したがって検閲耐性は改善しない」というものがあります。

Stratum V2は本当にマイニングプールの検閲耐性を改善するのか?
マイニングの話題になると、少なくともここ数年は規制や検閲という部分に関する関心が高まっている実感があります。マイナーがマイニングプールに接続する現状ではプール側が検閲を行えるのではないか、いくつかの大手マイニングプールが検閲を行うと実質的にネットワーク全体が検閲をしているのと同じ状況にならないか、といった疑問です。 ビットコインの検閲耐性はマイニングプール間、マイナー間の競争によってこれまで守られてきました。経済合理性を欠く検閲行為は検閲をしないマイナーへの報酬増加に繋がり、マイナーは検閲を行わないプールへと移動することが予想できます。これ自体はかなり強力な理屈で、ビットコインにおけるProof of Workのイノベーションの1つです。 他方、マイニングプールが大きな影響力を持っていることを認識し、その影響力の根源であるブロックテンプレートの作成を個別のマイナーも行えるようにしようという発想もあります。時折話題に上がるStratum V2プロトコルにそのような機能が盛り込まれています。 果たしてStratum V2プロトコルはマイニングプールの影響力を押さえることができるのか、

この指摘については実際にその通りだと思いますし、今回のマイニングプールとCoboの関係についても同じことが言えるでしょう。

ただし、マイナーが自由にマイニングプールから離脱して別のプールへと移れるように、マイニングプールがCoboを利用しなければならない理由はないので、資金を凍結されるようなことがあればそれから1日以内にほとんどのマイニングプールがCoboを離れる可能性は高いでしょう。

2.カストディアンは数多く存在し、問題が起こればスイッチングコストもそれほど大きくない

仮にカストディアンのスイッチングコストが高ければある程度の囲い込みが見込め、マイナーも多少の不便を受け入れたり要求を飲む可能性はあるでしょう。

しかし、Coinbase Outputのアドレスは一発で変えられる上に、他にも多数のカストディアンが世の中には存在し、またプール自身でセルフカストディするという手段も取れます。これではCobo側の力が弱すぎてマイナーの離反を防げません。

3.51%攻撃でできることは限られている上に長期的に続けなければ勝算が小さい

最後に、51%攻撃はあくまで「47%」という数字から連想される問題であって現実的な脅威ではない点で締めくくらせていただきます。

51%攻撃でできることは検閲(特定のトランザクション、または通常のトランザクションを一切含まないチェーンだけを伸ばす)およびそれに伴う自己資金の二重支払いにとどまります。ハッシュレートあたりの収益は一部のトランザクションを排除する分、むしろ通常のマイニングより低くなります。

Coboのように過去の採掘報酬を人質にマイナーに影響力を振るえる立場であればその範囲内でハッシュレートを自作した分岐チェーンに向けるよう説得することはできるかもしれません。しかし、上記で解説したスイッチングコストの低さなどから1日以内にはCoboへの資金流入は止まり、交渉力が頭打ちとなる可能性が高いです。その後もビットコインの新規発行やトランザクション手数料は継続するため、正規のチェーンで採掘するほうが収入が見込め、Cobo社は長期的に51%攻撃を実現するような立場で居続けることはできません。

また、51%攻撃という名前がついていますが、ハッシュレートに占める51%をある程度大きく上回らなければ長期的にうまくいく前に大損して終わる確率も小さくありません。

このように、表面的にはマイナーの多くが報酬を1社のカストディアンに一旦入金されているという状況はそのカストディアンの影響力を強くしてしまいそうですが、カストディアンというもの自体のスイッチングコストが低いためあまり大きな問題ではないというのが私の見立てです。異なる意見があればぜひコメントしてください。