先月Blockware Solutionsというアメリカのマイニング企業が、マイナーのビットコイン価格変動への対応と、それが中長期のビットコイン価格形成に与える影響やパターンについて解説する記事を公開していました。こちらの記事は普段あまり語られることのないマイナーの意思決定や競争環境について説明しつつ、具体的な想定やシミュレーションをしているもので非常に面白かったです。言われてみれば確かに、ということなのですが、自分も一部マイナーの動向について正確に理解してなかった部分もありました。

元記事↓(余裕のある人は是非本文確認推奨)

Bitcoin Halving — Blockware Solutions
Impact of the 2020 Halving on the Bitcoin Industry

特に、先日のコロナショックによるビットコインの急激な価格下落や1か月ほどで半減期の到達を控えている中、

・ビットコインは価格の急速な下落に対して本当に生き残れるのか?

・半減期後のマイナーの収益が急速に悪化して問題はないのか?

などの疑問を持っている人も多いと思います。今回はそれについて考えてみます。

ビットコインマイナーによる売り圧

まず基本的な話ですが、マイナーはビットコインの価格形成にとって非常に重要なプレイヤーです。

今の採掘レート(10分で7.5BTC)で一日に1800BTC、一月で54,000BTC(今の市場価格で350億円相当/月)が新規に採掘され、マイナーの手に渡ります。マイナーは電力代や施設、人件費などの支払いの為にこれらのビットコインを売って現金に換える必要があり、これが構造的に市場でのビットコインの大きな売り圧となっています。同時にマイナーは数年単位で長期にビットコインにコミットする必要があり(マイニング機器の投資回収と電力や施設の契約サイクル)、多くのマイナーは将来的なBTCの価格上昇を期待し、手に入れたビットコインの少なくとも一部はビットコインのまま保有しているようです。ここら辺の売り圧の話はビットコイン研究所でも連載してくれている佐々木さんも度々説明していますね。

ビットコイン価格はマイニングの損益分岐点で本当に形成されるのか?

さて、「マイナーによる売り圧」以外にマイナーとビットコイン価格でよく言われることが、「マイニング損益分岐点と価格サポート説」です。

例えば平均的マイナーの損益分岐点が5000ドルだとして、ビットコインの市場価格が5000ドルに近づいてきたとします。このラインを下回ると多くのマイナーが赤字になってしまい営業停止、更なる価格下落やハッシュレートの連鎖が起きかねない、ということで、マイナーやトレーダーはこの損益分岐価格ラインを意識し、出来るだけこのラインを割らないようにする、というものです。まあ色々細かい説のバリエーションは他にもあるでしょうが、概ねこんなところでしょう。要は、マイニングの平均的損益分岐点がビットコイン価格の一つの下限適正価格であり、価格が短期的にそのラインを割ってもそのラインがサポートになって価格は適正値以上まで回復するだろう、というわけです。

ただしマイナーの実際の行動を観測すると上記のような思考モデルは正確ではないようです。

各マイナーの電気代や設備費、人件費などのオペレーション費用が毎月固定だったとします。短期的な投機や市場での混乱(コロナ相場など)でビットコインの価格が下がり始めると、マイナーは固定費を支払う為に手に入れたビットコインの現金化の割合を引き上げる必要が生じます。それが市場でのビットコインの追加の売りプレッシャーになり、売りプレッシャーの連鎖、ビットコイン価格の下落が加速します。

この時ビットコイン価格がマイナーの損益分岐点を下回ってくると、マイナーはオペレーションを維持するためにマイニングで入手した全てのコイン+手持ちの保険用のコインを現金化する必要が起き、この状態がしばらく続くと効率の悪い「弱いマイナー」からどんどん閉鎖を余儀なくされます。なので価格下落時には損益分岐点がサポートになるというよりは、むしろ平均的マイナーの損益分岐点付近で急速に価格下落のプレッシャーが増し、そのラインより下のラインでマイナーの淘汰選別が進行していく、というのがより正しい分析のようです。

マイナーの淘汰が次の上昇相場のファンダメンタルズを作る

なので3月のような急速な価格下落があった場合、弱いマイナーから次第にどんどん廃業、離脱していき、最新のASICを使ったり電気代の低い地域の強いマイナーのみが生き残ります。一時的に承認時間の遅延、競合マイナーの離脱などはあるかもしれないですが、約2週間に一度のハッシュレートの難易度調整が起きると生き残ったマイナーの収益性は大きく改善し、強いマイナーはそこで大きな収益を得られるようになります。赤字で掘り続けていた非効率なマイナーに渡っていたビットコインが、生き残った効率的なマイナーに再分配される形です。

さて、競合が淘汰され生き残ったマイナーは、その状態では非常に高い収益性を実現し、採掘したビットコインの大部分は現金化せずにそのまま保有しておく余力が出てきます。つまり非効率なマイナーの閉鎖は実は、市場でのビットコインの売り圧の軽減につながるわけです。

つまり、一度平均損益分岐点以下までビットコイン価格が下がり始めると、マイナーのBTC売り圧は加速し多くのマイナーを廃業に追い込みますが、数週間~数か月後にその選別が完了し難易度が調整されると、そこのラインがサポートとなり、売り圧が比較的弱い強気の相場のサイクルが始まる準備が完了する、ということです。3月のように急速にビットコイン価格が下落し始めたとしても、今の効率的なマイナーの損益分岐点なども考慮するとまだ特に心配をするレベルではなく、むしろ今マイナーの選別と新しい上昇相場への足固めの準備が行われていると好意的に見ることも出来ます(添付画像参照)

半減期前後でビットコイン価格が低いままで大丈夫なのか?

さて、上記のマイナーの行動や思考原理ベースに考えると半減期前後に起こりそうなこともより明確に想定出来るようになると思います。

大体現時点での価格帯6000ドルでビットコインが半減期を迎えたとします。そうするとオペレーションコストは固定のまま、マイニング報酬は単純に半分になってしまうので、多くのマイナーは赤字状態になります。ただし、彼らはすぐにマイニングを辞めるのではなく、実際は施設や電気代の契約形態を考慮すると、数週間~数か月は赤字状態でもマイニングを続ける可能性が高いです。彼らは採掘したビットコインは基本的に全て売りに出すことになるので、しばらく大きな売り圧力が継続し、ビットコイン価格はしばらく低迷を続けるかもしれません。ただし最終的にそれらのマイナーが退場し始めると、最終的に生き残ったマイナーの収益性は改善し、売り圧も解消され、前述の通り次の大きな市場の盛り上がりのセットアップが完成する、ということになります。

確かに前回の16年の半減期の時も半減期到達後1~2か月くらいはBTC価格は低迷しましたが、そこから年末に向けて大きく価格を上げ始めて17年の大相場に突入していきました。これは裏でのマイナーの行動原理と経験ベースの話も一致している気がします。

ただし、最終的にビットコイン価格が中長期で上昇していくかどうかは市場での買い需要次第です。現在コロナ危機により金融緩和や金利引き下げがさらに進行し、Fiatへの信認が揺らぐ、という需要サイドのシナリオが今年後半~来年に来るとして、それと半減期によるマイナーの選別と売り圧減少という供給サイドのシナリオが合致すればまたビットコインの大きな相場への準備が着実に始まってると見えるかもしれません。少なくとも自分は今回の記事を読みながら半減期後の見通しが個人的にはさらに強気になりました。