ここ最近マイニングプールによる検閲が熱いトピックとなっています。9-10月にかけて業界3番手のマイニングプールであるF2PoolがOFAC規制に基づき制裁対象となっているアドレスからのトランザクションを意図的に含めていなかったことをリサーチャーの0xB10C氏が検知し公表しました。

Bitcoin’s Anti-Censorship Ethos Surfaces After Mining Pool F2Pool Acknowledges ‘Filter’
After a blockchain sleuth reported that the Bitcoin mining pool may have censored a transaction from an address blacklisted by U.S. authorities, critics responded, and so did the project’s co-founder.
0xB10C氏はminingpool.observerという検閲検知ソフトを公開しています。

また11月末にはLuke Dash Jr.氏が主導するマイニングプール"Ocean"がサービス開始をしましたが、これがOrdinals / BRC20などのトランザクションを検閲しているということが今まさに議論を巻き起こしています。(Oceanは彼がかつで運営していた"Eligius"というプールのリニューアルという扱いになっています)

マイニングプールが検閲を行う理由や、マイニングプールによる検閲の影響力、そして長期的にこのような検閲行為が増えていくのかについて今日はおさらいしようと思います。ビットコインが検閲耐性を実現する非常にシンプルな仕組みは忘れがちですがとても美しいものだと感じます。

・ビットコインの検閲耐性の根源

・マイニングプールが検閲を行う理由とは

・マイニングプールに検閲されたトランザクションはどうなる?

・規制耐性と検閲の長期的な持続可能性

ビットコインの検閲耐性の根源

ビットコインにはなぜ検閲耐性があると言われるのでしょうか?分散しているから、公開鍵暗号技術を採用しているから、誰でもノードを動かせるから、など色々な説明を聞くことがあると思いますが、どれも重要でありながら漠然としています。

最短で説明すると「手数料で検閲耐性が買えるから」ということになります。

ビットコインの送金手数料はマイナーに対する支払いで、多くのユーザーにとっては「自分のトランザクションを優先してもらうための手数料」という認識です。しかし、この「優先してもらう」という部分こそが検閲耐性を実現するのです。

仮にとあるマイナー・マイニングプールが自分のトランザクションを検閲したとしても、手数料を目当てに他のマイナーやプールが採掘してくれる。あるいはマイニングは競争が熾烈なため、手数料をたくさん積まれたら検閲をやめないと不利になってしまう。また、Proof of Workは匿名で参加できるため、社会的圧力などの外部要因が働きにくいという点も経済的合理性による判断を促進します。

すなわち、トランザクション手数料は個別のマイナーやプールと交渉する手段であり、匿名のマイナーにとっては最大の判断基準なのです。

マイニングプールが検閲を行う理由とは

Proof of Workによるマイニング自体が経済的合理性に基づいてシステムの健全性(検閲耐性や2重支払い耐性)を担保する仕組みであるため、マイニングプールの行動もすべて経済的合理性という視点が重要になります。今回話題となっている検閲行為に関しては経済的合理性に基づくものと基づかないものがあるのでそれぞれの例を挙げて考えてみましょう。

経済的合理性に基づくもの:経済制裁への自主的な対応

経済的合理性に基づくものとしてはOFAC規制の自主的な遵守が挙げられます。トランザクションを検閲するときにはより低い手数料率のトランザクションを入れることになるので一見経済的合理性がないように見えますが、制裁回避を助けたとして罰則を食らうリスクも考慮すると必ずしもそうではありません。

自主規制しようか迷うようなトランザクションは数少なく、また1つのトランザクションを置換することによる収益の低下は現状では非常に小さいことが多いです。例えばサイズ1KvB、30 sat/vbyteのトランザクションを27 sat/vbyteのもので置き換えても収益の低下はわずか3,000 satsで、ブロック全体の報酬に対する減少率は0.001%にも達しません。それに対して当局を怒らせるリスクのほうが非常に大きいので自主規制する経済合理性があります。

言い換えるとリスク回避的なマイニングプール(規制リスクが大きいマイニングプール)であるほど自主的にOFAC規制の対象となっているアドレスから送金するトランザクションを検閲するインセンティブがあるといえるでしょう。また逆に送金手数料が1 BTCなどでブロック全体の手数料に対して大きな金額あればリスクより収入を高く評価するプールも増えるでしょう。上に書いた通り、元々ビットコインの検閲耐性とは「手数料を十分払えば匿名の誰かが採掘してくれる」という性質のものです。

ちなみに0xB10C氏の記事はこちらです。どのようにF2Poolがトランザクションを検閲していると判断したかの根拠が書いてあり勉強になるため、興味のある方はぜひ読んでみてください。

経済的合理性に基づかないもの:OP_Returnの締め付け

さて、より時事ネタとして熱いのはOceanというマイニングプールが「Ordinalsを検閲している」と言われていることです。より厳密にはOrdinalsのみならず42バイトを超えるOP_Returnデータを含むトランザクションをすべて検閲しているのですが、その理由は使用しているビットコインノード実装Bitcoin Knots (Luke Dash Jr氏が作った実装)にあります。スモールブロック派の中でも突出してブロックサイズの縮小さえ主張するLuke氏の思想を反映してそういう仕様なのです。

BRC-20系は現在の手数料高騰の一番の原因となっているドル箱トランザクションなので本来ならば経済的合理性に厳しいマイナーが集まりませんが、最初の数ブロックはOceanにマイナーを集めるための「ボーナス」が追加で払い出されるため多少のハッシュレートが集まっています。(ボーナスはジャック・ドーシー等の投資家が拠出) その後は方針転換しなければよほどの理由がない限りマイナーは離れていってしまうでしょう。

とはいえ、1週間以上稼働していて見つかったブロックは2つという現状から観測できるとおり、ほとんどハッシュレートを得られていない(推定0.1-0.2%)ので検閲と呼ぶのも大げさなレベルではあるのですが。

余談

Ordinals/BRC-20に対する検閲ばかりが話題になっていますが、Ocean自体はノンカストディアル・KYCフリーである・将来的にはブロックテンプレートを公開する・報酬の適正さが検証可能など大手のマイニングプールにはない魅力がいくつもあり成功してほしいと感じています。仮に大手のマイニングプールが悪行を行うなどした際にはOrdinalsを検閲したままでも一部のマイナーの受け皿となる可能性はありますが、より多くのマイナーにノンカストディアル・KYCフリーのマイニングプールに移ってもらうためにもLuke Dash Jrの思想に基づく経済的に非合理な制限はやめてほしいものです。

マイニングプールに検閲されたトランザクションはどうなる?

さて、仮に合わせてハッシュレートの51%を超えるマイニングプールがあなたのトランザクションを採掘したくないと決めたとしたらどうなるのでしょうか?

少なくとも各ノードのメモリプールから消えるわけではないので、やはり十分な送金手数料さえ払っていればどこかの誰かが採掘してくれます。極端な話、仮にトップ3のマイニングプールがハッシュレートの99%を占めるような状況だと、その3箇所の合意が取れれば特定のトランザクションを99%のブロックから排除することはできても、残り1%のブロックからは排除できません。

したがってマイニングプールに検閲されても十分な手数料さえ支払っていれば比較的アウトローな価値観をもつマイナーが採掘してくれる可能性が高いです。(アウトローという言葉を選びましたが、トランザクションの内容やマイナーの地域によっては違法とさえ限りません)

重要なのはマイニングプールの多様性とハッシュレートの流動性

ただし上記の状況においてトップ3のマイニングプールが連名で「このトランザクションを採掘したら次のブロックをつなげないからやめろ」という圧力を残りのマイナーにかけることは可能かもしれません。これにはその3社が完全に連携しており(実質的に1つの主体と見なせる)、かつハッシュレートの圧倒的多数派であるという前提条件が伴います。

例えばハッシュレートの70%程度を占めているプールが連名で同じ圧力をかけても、30%×30%=9%というそれなりの確率で次の2ブロックは連続で他のマイニングプールが採掘してしまいます。もしハッシュレートが一定であれば長期的には70%連盟の紡ぐチェーンが長くなりますが(=51%攻撃)、仮にハッシュレートが最長チェーンへと流動してしまうと連盟側のマイナーはリソースの無駄遣いをして損してしまう可能性もあります。

まず連盟を組ませないという意味では確かにマイニングプールの寡占は好ましくない状況ですが、ハッシュレートがマイニングプールを切り替えやすくすること(つまりハッシュレートの流動性改善)はそれと同じくらい重要です。

またもや余談ですが、その意味ではマイニングプールの競争で生まれてきている囲い込み戦略(特製ファームウェアの提供など)はビットコインの検閲耐性にとってリスク要因だと感じます。

規制耐性と検閲の長期的な持続可能性

​前半でも触れた通り、マイニングは経済的合理性に支えられた検閲耐性を実現する仕組みです。したがって、経済的に非合理な検閲は長期的にはマイナーの収益に影響し、検閲をしないマイナーを利することになります。これもビットコインの検閲耐性の美しい点だと私は感じます。

OFAC規制の遵守に関しては対象となるトランザクションが非常に少なく、別のトランザクションで代替するコストが低いうちはこのまま自主的に守るマイニングプールが多数派となっていくでしょう。アメリカ当局が非常に恐ろしいからです。しかし、OP_Returnの制限の厳格化によって得られるべき収益を得られないマイニングプールは淘汰されてしまうでしょうし、OFAC規制対象のアドレスからのトランザクションを採掘するマイナーもいなくなることはないでしょう。

ビットコインの検閲耐性が失われた!と騒いでいる人がいたら、ぜひ「元々こういう性質のものだよ、長期的にも保たれる仕組みだよ」とそっと教えてあげてください。