去る11/1からの三日間、東京&香港でNostrカンファレンスが開かれました。加藤さんからもレポート出ていますが、私はスピーカー(日本語)やボランティア(ほとんど何もしなかったですが笑)にも名を連ねていたので、舞台裏のような話も交えて書いてみます。主には7月下旬から自身のセッション内容の調整を契機にカンファレンスに関わり始めていたのですが、あっという間に当日になりそして怒涛のごとく終わり、生涯に渡る思い出深いものとなりました。

当日の雰囲気はこちらの動画をご覧ください。マグロやカラオケだけでなく、日本語セッションが開かれていることに対する驚きも登場します。後にも触れますがコア・スタッフは世界各地のビットコインカンファレンスを回っている人たちでしたが、開催国の現地語でのセッションが行われるのは他では見られないケースでした。

入り口の看板
スピーカー陣のNFCピンバッジ。スマートフォンで触れるとNostrアカウントページが立ち上がる
今回のイベントの象徴となったマグロ
二番目の象徴となったジャック・ドーシー&エドワード・スノーデンのセッション

Nostrの本質

The simplest open protocol that is able to create a censorship-resistant global "social" network once and for all.
It doesn't rely on any trusted central server, hence it is resilient; it is based on cryptographic keys and signatures, so it is tamperproof; it does not rely on P2P techniques, and therefore it works.

Githubリポジトリの序文より

Nostrは、Bitcoinとよく似たネットワークです。暗号鍵を中心に個人の資産を確立しつつ、単一障害点を廃して、検閲耐性と回復性に重点を置いたオープンでグローバルなネットワークを形成するという点において。

しかし、Nostrは対象としているものがBitcoinと異なります。Bitcoinがお金の自由("people money")だとしたら、Nostrは言論の自由("free speech")となるでしょう。企業の利益追求によるフィルターバブルに対する透明性の確保と広告モデルを見直し、政治的な都合によるアカウント凍結や投稿削除を廃して、人々のデジタル・ウェルビーイングを実現したソーシャルネットワークを構築することが目標となっています。

この目指すべき像については、冒頭のNostrasiaのハイライトを撮影した人が数ヶ月前にリリースしている短編動画がよく伝えています。ジャック・ドーシーを始め、そのドーシーとTwitter以前からの盟友であるラブル、damusクライアントを開発したウィルなど、Nostrasiaでスピーカーに立った人たちも出演しています。

登壇の経緯

さて、そんなNostrに対して日本では少々毛色の異なった広がり方になっています。Bitcoinでも似たような話があると思いますが、Nostrが掲げる言論の自由といったイデオロギー的なものは避けられ、APIやサーバを好きにできて自由に遊べる新しい"Chat Toy"といった趣きが主となり支持されています。クライアントやリレーサーバだけでなくさまざまなボットやツールが日本人の手によって作られていますし、一気に人が増えた1月頃から言われていることですが、日本人の利用者数や投稿数はNostrネットワークを開発している英語圏の人たちを驚かせてきました。

この現象は「オープンネットワーク」という点からもとても好ましく、Twitterのようなものを再現することや、ソーシャルメディアの利用ケースを考えることよりも、パーミッションレスのアプリの開放的なエコシステムを作るという、Nostrの理想像の一面を具現化しています。Nostrasiaでのジャック・ドーシーのセッションでもところどころで語られていたことですし、OpenSatsやNostr創始者のfiatjafなどから日本の開発者たちにグラントも贈与され、こうしたムーブメントへの援護が行われています。

とはいえ、ビットコイナーが中心の英語圏とのギャップは大きく、また、Nostrの思想に蓋がされている状態では表面の上っ面を引っ掻いているだけの、もっと言ってしまえば消費者市場で終わるだけのいつもの日本のインターネッツだよなあという、Nostrの利用者たちからしたら甚だ余計なお世話な問題意識を個人的に抱いていました。そこで、Nostrasiaへの登壇調整が始まったときに他の日本人の登壇者の顔ぶれを見て、甚だ余計なお世話ながら一人くらいはイデオロギーを真正面から話すようなセッションをやるかと手を挙げたという経緯でした。率直なところでは、ジャック・ドーシー(とその後に決まったスノーデン)が来るからこそできるまたとない機会だという思いも内に秘めていました。

練木さんの人脈により、日本人/日本在住者の中でもイデオロギーが強いAll Japanのビットコインマキシマリストが集結したセッションが実現できました。個人的にはこのようなイベントに出るとは思いもしなかった方もご紹介いただき内心驚いたりもしていたのですが笑、進行の都合で時間がカットされ後半に予定していたプライバシーの話などができなかったことは残念ながら、おかげさまで「他の日本語クリプトイベントでは話されない」ようなことを四人四葉でできたと思っています。この場を借りて改めて御礼申し上げます。

当該セッションの壇上風景

内容に関しては、なんだかんだ短い時間の中でいきなり深い話をしても消化不良で終わるよねということで、今回はラビットホールの入り口を紹介する程度という軌道修正を図りながら、当日になりました。(動画はこちら)しかしそれでもやはり拒絶反応みたいなものもありましたが、この辺は長年日本居住およびジャパンインターネッツにいる身としては予想通り、どちらかといえば認知のきっかけになれば十分と思っていたので、Bitcoinの話をだいぶ目にするようになったことを持ってセッションとしては成功だったと思っています。会場でも何人かとBitcoinについていろいろ質問されたり話し合う機会がありましたが、海外勢がほぼビットコイナーばかりの中で各種交流が行われ、これまで断絶気味だった日本語圏と英語圏のNostrユーザーの交わりがずいぶんと進んだのではないでしょうか。

ジャックの本気と書いてマジと読む

今回のNostrasiaは内実としてはビットコインカンファレンスの派生系だった上に、直前にインドネシアのバリ島でビットコインカンファレンスが開催されていたという連続線もあり、会期中は著名なビットコイナーたちが続々と東京に集結していました。

中でも、ジャック・ドーシーは誰もが思うトップ級の有名人なわけですが、初日に会場に入りまず驚いたことはステージ近くの壁際とはいえ普通に会場の観客側に座っている上に、ずっと熱心にセッションに耳を傾け続けている光景でした。さらには、合間でのツーショットの写真撮影依頼もすべてのリクエストに応え続けているようでした。初日こそ猛者だけが突撃していた感じでしたが、二日目のスケジュール終了後にはあまりに誰もができるということで長蛇の列ができたのですが、おそらく最後の一人まで応じ続けていたはずです。

前項で引用したスノーデンとのセッション中に語られたTwitter時代まで遡った日本ユーザーへの感謝の気持ちも伝わってくるものがありましたが、日本語のセッションが全日程で設けられていたことも、Nostrの利用動向だけでなくジャックの個人的な意向もあったのではないかと憶測します。

彼は直前のインドネシアも登壇予定でしたがSquare部門の現場トップに復帰したという話もあるゆえかBlock社の仕事の都合でキャンセルになっていました。翌週の来日も危ぶむ声がありましたが、蓋を開けてみれば3日間フル参加の上に、後日はFintech協会のイベントや会食もこなしているなど鬼神の如き稼働だったようです。一時期はヒマラヤ山脈に籠るなど現世から隠遁したような雰囲気もありましたが、NostrやBitcoinを中心としたオープン・インターネット・プロトコルに賭ける情熱(&日本市場への意気込み?)を行動でもって示してきたさまに感銘を受けました。

"Unconference"

冒頭で触れたように、スタッフのコアチームは世界各地のビットコインカンファレンスを手伝っている面々でした。この数ヶ月チャットでやり取りしていたスタッフの一人と会場で初めて会ったときに、7月に参加したLightningSummit@bitcoinparkでもスタッフをやっていた人だったので、あなただったのかと思わず驚きの声を挙げてしまった場面もありました。

日本人の間では運営を危ぶむ声もずっとあり、実際私もレスポンスの遅さや芯が強くてフィロソフィーは力強い言葉で語られるのだが具体的な調整ごとは丸投げになるビジョナリー型の責任者に不安を覚えていた時期もあったのですが苦笑、蓋を開けてみれば要人は手厚くフォローしガッツリ離さず、ロジスティクスや音響設備などのツボも押さえており、流石に手慣れているなあという感想でした。

特に印象的だったのは、"Unconference"のコンセプトに沿ったイベントの建て付け方です。前回のコスタリカ開催のNostrica同様にジャック・ドーシーが費用のすべてを持っていたこともあるでしょうが、企業出展ブースとか報道プレスの招待とかタイアップによるインフルエンサーマーケティングなどのような通常のカンファレンスの動き方がほぼほぼゼロでした。Nostrasiaでもなにかと話題に出た分散SNSのBlueskyが4月に銀座で行ったミートアップにも参加していたのですが、あちらはWeb2.0時代からのアルファブロガーに声をかけタイアップ記事なども出ていたように、ずいぶんと様相が違うものでした。

日本人の間では集客を心配する声もありましたが意に介さず、オープンイベントで誰でも参加できる一方で、参加者は全員数ページにわたる登録フォームから申し込む必要があり例外はないという感じでした。結果的にはリモート登壇者も数名いましたが、数ヶ月前の時点ではNGで全員会場に来て交流する"in person"しか認めないと繰り返し言われたことも印象深いです。私のセッションでもかなり交渉を続けてようやくリモート登壇が実現した次第でした。一方で、会場では"Unconference"の定義通りに、ジャック・ドーシー以下ほとんど登壇者とスタッフと観客の垣根がなく渾然一体となっていました。

これは3月のLightningcon Vietnamでも傾向ありましたし7月のLightningSummit@bitcoinparkで同様の形態を体験しているので、偶然ではなく共有されているカンファレンスに対する方針がありそうです。アメリカのBitcoin界隈でNY発のソクラテス型セミナーが流行っているのも同じ流れの気がします。とかくビットコイナーにはデジタル・デトックスや肉食などの自然回帰のライフスタイルを実践しているものも多く、またウォール・ストリート型の既存金融やシリコンバレー型のビジネス手法へのアンチテーゼも大きいため、"Unconference"というコンセプトに一貫したフィロソフィーを感じます。

スタッフのリーダーであるMCシェーンは山に住んでいるようで、東京からの帰還後は暖炉や広大な山の風景や山小屋のような家でアコースティックギターを弾いている風景が日々Nostrに投稿されています。

Short Text Note by mcshane (npub16vr…p2va)
good to be home. seasons changed in the mountains while I was gone 🥶 https://i.nostr.build/2Az8.jpg

ナッシュビルで初めて体験して魂を揺さぶられましたが、個人的にとても好きなスタイルです。