フランス・ACINQ社が提供するPhoenix Walletはその使いやすさと先進的な機能によりノンカストディアル型のライトニングウォレットで一番手といえるポジションを確立しています。他のLSP型のライトニングウォレットとも一線を画す独自機能などにより、マーケットシェア以外に技術的な意味でも首位を独走しています。

そんな彼らはモバイルアプリだけでなく、開発者向けに他のソフトウェアに組み込める「Phoenixd」というクライアントも提供しています。今日はこれがどのような用途に向いているか考えてみましょう。

・ACINQが提供するPhoenix WalletはLSP型ライトニングウォレットの雄

・Phoenix Walletの機能を他のソフトウェアに組み込めるように提供されているものがPhoenixd

・Phoenixdを使ってライトニング対応するメリットとデメリット

ACINQが提供するPhoenix WalletはLSP型ライトニングウォレットの雄

ライトニングのユーザーの大半がWallet of Satoshiに代表されるカストディ型のウォレットを使っていることはもはや常識となっています。Bitcoin Tokyo 2024のライトニングの課題に関するセッションでも触れましたが、ライトニング↔オンチェーンのスワップを提供するBoltzのユーザー(つまり、比較的リテラシーの高いユーザー)の間でも2/3ほどがカストディ型のウォレットを使っているようです。

Boltzの「オンチェーン→ライトニング」スワップのユーザーのうち63%がカストディ型ウォレットを使用している

残りの1/3も、自身のノードを持つユーザーと、LSP型のライトニングウォレットを使っているユーザーに分かれます。このLSP型の中で一番人気なのがPhoenixで、海外のカンファレンスなどにいっても参加者の多くが選ぶライトニングウォレットとなっています。

ユーザー数に関して公開されている情報は見当たりませんが、Google Playのページには5~10万ダウンロードと表示されており、他にiOSとAPK版が存在するため、実際のユーザー数はアクティブ率を30%と見積もっても5万人ほどはいるのではないでしょうか。また、投下資本の面においても、ACINQノードはLNのルーティングノードのうちパブリックチャネルのキャパシティにおいて最大規模のものであり(現在は653 BTCでokxに次いで2位)、さらにPhoenix WalletユーザーとACINQの間のチャネルはUnannounced Channelであるためこの数字には反映されていないことから実際にはライトニング上で非常に大きな存在感を示していると言えるでしょう。

残念ながら今年の5月にアメリカからは撤退してしまいましたが、今もグローバルに勢いがあります。

Phoenix Walletの機能を他のソフトウェアに組み込めるように提供されているものがPhoenixd

そんなPhoenix Walletですが、アプリ版のウォレット以外にPhoenixdというソフトウェアを提供しています。他のソフトウェアに組み込めるライトニングウォレットです。

https://phoenix.acinq.co/server

中身はヘッドレスなPhoenix Walletという印象で、ウォレットの操作に必要なAPIがすべて用意されています。これを使うと、要するに非常に軽量なライトニングウォレットを他のソフトウェア、例えばアプリケーションのバックエンドに組み込んで、ライトニング関連機能をACINQのLSPに任せてしまえます。流動性のマネジメントなども込なので、ライトニングノードの管理面でのめんどくささをすべてアウトソーシングできるわけです。

もちろんACINQにもメリットはあり、Phoenix Walletと同様に送金時に送金額の0.4% + 4 sat、受取時にはチャネル開設や流動性追加が必要な場合にのみ1% + オンチェーン手数料という利用手数料がかかります。ライトニングノードの維持自体のコストと比較すると、送金額が小規模なノードはPhoenixdで置き換えてお釣りがくるくらいです。

もちろん、家で余ったPCなどを使ってライトニングノードを運用する分には電気代程度ですが、それでも月に数百円にはなるでしょう。月に数万円もライトニングで送受金していない場合は手間の面を省いてもPhoenixdに軍配が上がります!

個人的にはBTCPay Serverのような店舗決済やオンライン決済に対応するソリューションのバックエンドにPhoenixdが使えるとセットアップも維持も楽チンでInbound Capacity(LNでの受取可能額)のマネジメントも不要になるため、そういう使い方ができるといいなと思います。

残念ながらBTCPay Serverは専用のビットコインノードを立てる使い方以外は非常にハードルが高く、お手軽さが損なわれていますが…。(手順自体は簡単でも、例えばクラウド上に立てる場合は費用が大きくなってしまう)

筆者もBTCPay Serverを使ってオンラインストアを最近立ち上げましたが、ビットコインノードの同期以外は時間もかからず非常に簡単だったので、Phoenixdだけをバックエンドに採用できればより手軽なのですが。。。

Phoenixdを使ってライトニング対応するメリットとデメリット

では最後にPhoenixdのメリットとデメリットを整理します。

メリット

・ライトニングノードの維持、流動性管理を考えなくてよい。

ライトニングノードに時間をかけていられない小規模なチーム、ライトニング自体にそれほど詳しくない開発者にとっては非常に便利です。特に、世の中の人の大半は後者に当てはまるため、それでも簡単にライトニング決済を受け付けられることは魅力的です。大企業より中小企業や個人にメリットが大きいでしょう。

・軽量なため、アプリにも同梱できる。

サーバーに載っているアプリケーションだけでなく、理論的にはユーザー側のアプリケーションに同梱することもできます。昔、ライトニングを使って賞金が配られるゲームを作るのに使えるUnity用プラグインがありました。(Donner Labが開発したDonner Unityです)

これはユーザー側のアプリケーション上でライトニングノードを動作させるものでしたが、Lndベースで割と重たかった印象があります。Phoenixdは良くも悪くもLndほどの汎用性はないため、非常に軽量になっています。

・​ノンカストディアル

カストディ型とは異なり、GOXリスクが小さい。(ACINQに非常に依存してはいますが)

デメリット

・検閲耐性は妥協がある

ライトニングの仕組み上、Phoenixユーザーからの送金先などはACINQ側にはわかりませんが、Phoenixの仕組み上送金が必ず最初にACINQを経由するため、ACINQがその気になればすべての送金を失敗させられる可能性があります。また、ユーザーが受け取る送金も最後にACINQを経由するため、受け取る送金をことごとく失敗させられるリスクがあります。ただ、ノンカストディアルなのですでに受け取った資金を奪われるリスクはありません。

・規制リスク

Phoenix Walletがアメリカから撤退したように、ACINQが規制リスクにどのように対応するか見通しにくいため、利用者の国などによってはサービス提供を停止されるリスクがあります。上の検閲リスクと合わせて、余力があるときにPhoenixdが使えなくなった場合のバックアッププランを用意しておくべきかと思われます。

・多量の送金をさばくとコストが大きくなってくる

総合的なコストを送受金額の0.5~1%の間のどこかと見積もると、クレカ決済などよりは遥かに安いですが、自分でライトニングノードを運用してルーティングノードから自発的にチャネルを開いてもらうよりは費用がかかるでしょう。例えば月間で数億円相当の送受金を行うような規模になってくると、ACINQに支払っている手数料だけでライトニングノードの管理用の人材が雇えてしまいます。(人件費を考えずにクラウド代だけの話であれば、月間100~200万円くらいからそうなってきます)

まとめ

・Phoenix Walletのヘッドレス版であるPhoenixdはライトニングノードの管理に手が回らない、あるいは知見がないアプリケーション開発者にとって手軽にLN対応する非常にいい手段

・コストは送金額の0.5~1%かかってしまうが、これが許容できるなら上はありあまるメリットと考えられる

・ただし、検閲リスク、規制リスクが高い事業の場合はPhoenixdが使えなくなった場合の移行プランを用意しておくくらいの注意深さは必要かもしれない