選挙は民主主義の根幹であるにもかかわらず、現在の日本では投票率が低下しています。国民全体の政治参加意識を高めるためにはどうすればよいのかという議論とともに、現在の選挙制度や民主主義の仕組み自体を変革する必要があるとの意見があります。今回のコラムでは、Web3.0の活用した民主主義やDAOを利用した政党などにどのような可能性があるのか、あるいは、問題があるのかについて考えてみようと思います。

政治家の役割はいずれ無くなるという指摘が最近注目されてはいますが、国政レベルでいきなり分散型の意思決定になる可能性は極めて低いと思います。最初の段階としてあるとすれば政党内での意思決定、例えば党首選や政策優先順位などの決定に党員の意見反映という形でのデジタル投票的な使われ方が多くなりそうだと予想します。これは本質的にはDAOとは違うかもしれませんが、DAOそのものが否定されているというわけではないと思います。昔から国民投票のような直接民主主義は常に議論されていると思います。問題はそこではないのかなと思います。

まず、現在の日本の選挙制度についておさらいしましょう。2012年11月現在、衆議院議員定数は465、参議院は248です。両院それぞれの政党別議員数を表に示しました。例えば国会で総理大臣を選ぶとき、これらの議員の投票によって行われます。衆議院と参議院で異なる結果になったときは、衆議院の結果が優先されます。国民代表である議員が法律を作り、総理大臣を選ぶということですので、間接民主制といわれます。教科書的にはそのように説明されると思いますが、実際はちょっと違います。

注)政党ではない政治会派なども含んでいます。

これまでの歴史上、自民党が与党で第1党であることがほとんどであり、事実上は自民党の総裁が総理大臣に選出されることになります。そして、その自民党総裁選では党員による投票が行われています。事実上、一部の国民による直接的な投票が行われているようにみえます。

この党員党友による投票には制約があります。図にあるように、国会議員票と党員党友票が同じ数になるように分配されることになります。それで過半数の得た候補者が選ばれます。もし、過半数を得られなかった場合には、上位2名による決選投票となります。決選投票では、党所属国会議員と都道府県連代表票(地方票)47票で決まります。この仕組みでわかるように、国会議員が全員候補者Aに投票すれば、党員党友票が別の候補者Bに投票しても過半数がとれず、直接民主的な意見反映がされないことになります。

2021年自民党総裁選の仕組み(自民党HPより抜粋)。同年の総裁選は1回目で決まらず、岸田文雄氏と河野太郎氏で決選投票が行われ、議員票を多く獲得した岸田氏が総裁に選出された。

なぜこのような制約があるのかについて色々な考え方があるとは思いますが、もう一つ別の制約を見てみましょう。それは、投票する党員の要件です。まず、入党資格は3つありますが、さらに「総裁選挙の前2年継続して党費を納めた党員」していなければ投票資格がないことになります。一般党員は年額4,000円ですので、それほど高いハードルでは無いように見えます。気になるのは入党資格の3つ目です。「他の政党の党籍を持たない方」という条件があります。

要するに全く違う政治思想を持つ人が、偽って党員資格を持ち、総裁選で投票することがあるのではないかということです。しかし、KYCである程度の本人確認などができたとしても、個人の政治信条といった心理を特定するのは難しいです。

2022年日本維新の会代表選では一般党員と国会議員などの特別党員のいずれの投票も1人1票としていましたが、このような投票方法は珍しいと思います。立憲民主党では自民党と似ていて、党員の投票はドント方式で分配し、全体の4分の1程度になるようにされています。日本共産党は、中央委員会総会という場で幹部委員長を選出するようですが、公選で決まるわけではありません。公明党は1964年の結党以来2名以上の立候補がなく、無投票での党首選出が続いていますので事実上は非公選に近いのかと思います。したがって、ほとんどの政党では党員(非議員非職員のメンバーなど)に対しては、党首・代表選における投票権に制限を設けるというのが一般的になっています。

上で述べた問題は、DAOによって中央集権的なリーダーの存在が無い組織運営がなされる場合においても生じるのではないのかと筆者は考えています。例えば、DAOの目的に反対するような外部者がガバナンストークンを取得することができると、設計が崩壊するのではないかということです。マンションの住民での話し合いなどでは、住民を特定できるので本人確認をすれば外部者が入ってくることを防げると思います。一方で、不特定多数の中から参加者を募るような場合は不安です。

政治の例ではないですが、わかりやすくサッカーチームの意思決定を考えましょう。あるクラブで試合チケットの席種の数量配分について意思決定しようと思います。この際、ガバナンストークンに応じた投票が行われるとしましょう。もし、トークンを持つ人の中に敵対するクラブのサポーターが多数入っていたとします。これらによる敵対的投票によって、ホーム側の座席を高い値段の席種ばかりにすることやビジター席を大量に増やすなどの妨害工作が出来るかもしれません。サッカーの話ではよいですが、国政レベルになると憲法改正問題、年金など社会保障、消費税率、選択夫婦別姓など影響力の大きい話題も多く、問題の規模が違うように感じます。

コントラクトなどを上手く設計して、DAOの目的に沿った人のみにガバナンストークンが渡るようにすれば理想的ではあります。例えば過去2年間程度、組織に貢献した人に対してトークンを渡すなどです。しかし、トークンを市場で簡単に売買・交換が可能となってしまうと危険性が高まるように感じます。意思決定の参加者は不特定の状態であり続けるとすれば、トークン以外での投票制限を設ける必要があるかと思います。