ハッシュレートのオプション取引を提供予定のPOWSWAP
今週の記事はビットコインコア開発者であるJeremy Rubinが11月9日に発表した、トラストレスにビットコインのハッシュレートに関するデリバティブを取引できるPOWSWAPというプロジェクトと、その将来的な可能性について書きます。POWSWAP自体は生まれたてのプロジェクトで、開発段階(pre-Alpha)ですが、ウェブサイトへのリンクを貼っておきます。
https://powswap.com/
ちなみに、Jeremy RubinといえばScaling Bitcoinでも発表があったOP_SECURETHEBAGの提案者です。(最後に小ネタを追記します)
POWSWAPについて
まだ詳しい情報がない公式発表の受け売りになりますが、POWSWAPはスマートコントラクトを活用してノンカストディでトラストレスなハッシュレートデリバティブの取引プラットフォームで、マイナーにはハッシュレートの低下に対するヘッジ、HODLerには金利収入、マーケットメイカーには流動性供給の対価としての利益が得られるものだそうです。既にビットコイン上で動くPOWSWAPは自動的にハッシュレートの変動を検知し、状況に応じて決済を行うことができる、と書いてあります。また、オフチェーンで更新できるため、条件を高頻度に更新することができるそうです。POWSWAPは注文を掲示板に並べて取り次ぐ代わりに小さなコミッションを得る、とあります。(詳細はわかりません)一文で言えばスマートコントラクトによる完全トラストレスなハッシュレートデリバティブのDEX、という感じでしょうか。
オラクル問題とは無縁
オンチェーンのデリバティブ取引を実現する仮想通貨やプロトコルはいくつかありますが、オラクル問題といって「決済時に参照すべきデータの提供元(=オラクル)」をどうするかに苦戦しています。例えば他のユーザーに報酬を払って確認してもらう、間違った報告は罰するなどの方法を取るプロジェクトが多いです。(LINEが8月に閉鎖した4CASTもそうでしたね。)
しかしながら、特に大きな金額が動く取引に関してはオラクルの設定が甘いと攻撃ベクトルとなってしまいます。例えば、来年11月のビットコイン価格が1万ドルで行使できるコールオプションがあったとして、「どこの取引所を参照するか、決済時の価格をどう計算するか」などを決める必要がありますが、オプション取引の金額と条件次第では価格操作が合理的になってしまう場合があります。また、長期のデリバティブであれば、取引所の勢力図や取引の形態が大きく変わっている可能性など、外部要因による影響を考慮しなければいけません。この点でPOWSWAPが面白いのは、ハッシュレートの推定はビットコイン上で完結する性質のものなのでオラクルに頼る必要がないことでしょうか。ただし、ハッシュレートの推定方法をどう決めるのかはわかりません。(採掘難易度と一定期間に生成されるブロック数から逆算するのですが、この一定期間をどれくらい取るかによって確率的に極端な値を取ることがあります。このよくブレる推計値をさらに移動平均するのでしょうか。)
マイニング業界に期待される影響
マイニング事業はいくつかの変数(ビットコイン価格、難易度/ハッシュレート、固定費など)で成り立っていますが、現在主流のリスクヘッジはビットコインの先物を売ることで採掘予定のビットコインの価格下落リスクを抑えるという物が一番主流です。(いわゆる原価割れへの対策)
しかし、それだけでは抱えているASIC自体の価値を回収できるかというリスクに対するヘッジとしては不十分かもしれません。例えばハッシュレートが急上昇してASICが予想より早く陳腐化してしまった場合、キャッシュフローの悪化や資産価値の減少により事業自体が成り立たなくなるリスクがあります。そこで、「ハッシュレートの急上昇」に対するリスクヘッジとして、現在よりかなり高い位置でのコールオプションを買うなどといった戦略が考えられます。しかし、カナゴールドさんもツイートしていた通り、広く知らているハッシュレートと価格の相関があるので、ハッシュレートデリバティブを活用した具体的なヘッジ方法はある程度複雑なものとなります。例えば、ハッシュレートの下落は価格下落によるものが多いので(そもそも採算割れによる操業停止を表している)、プットオプションを買って価格下落のヘッジとして使うことも考えられるかもしれません。実際、価格下落による操業停止も日々陳腐化していくASICの価値回収にとってはマイナスの影響があります。
このあたりはこれから研究されていく分野と言えます。
おわりに
POWSWAPは実際に使用されるまで多少時間がかかると思われますが、ハッシュレートに対するヘッジ手段を提供するオプションとして面白い提案だと思います。既存のオプション市場で似たような商品が上場した場合、トラストレス性にどれくらい魅力を感じられるかがPOWSWAP自体の命運が分かれるところかもしれません。個人的に一点心配なのは、ハッシュレートデリバティブが大きくなりすぎるとハッシュレートの恣意的な操作によって価格操作を狙う大手マイニング企業などが出てくる可能性です。これはブロック生成にも影響し、ネットワーク全体に影響が出ることなので非常に好ましくありません。ハッシュレートのデリバティブ市場が誕生したとき、それがどのように発展していくかとても楽しみです。
追記:OP_SECURETHEBAGについての小ネタですが、こちらのオペコードの名前が謎に感じた人も多いと思います。機能がそのまま名前になったような他のオペコードと比べて異色なこのオペコードは、名言(迷言)を多く残すことで有名なアメリカのDJであるDJ Khaledがよく使う"Secure the bag(欲しい物を確保する)"という表現をそのまま使っています。用例としては、今なにか手を打っておくことでお金や恋愛対象、転職先など「将来の利益(欲しい物)」を確保するときに使うようです。
Jeremy Rubin氏は、Lil Uzi Vertというラッパーの曲"Secure the Bag"の一節"I secure the bag, then I go get it (欲しい物を確保して、後で取りに行く)"という歌詞がOP_SECURETHEBAGの動作(複雑なトランザクションをとりあえず予約して、手数料が低いときに展開する)をピッタリ説明していることから、こう名付けたそうです。(出典: Jeremy Rubin氏のツイッター)
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