マイニングの分散性に関してよく懸念されるのはマイニングプールの寡占化ですが、もっと上流の部分だとマイニングに使われる機材であるASICの生産は中国・Bitmain社がマーケットの8割を占めているという状況です。もちろんASICの生産も普通に商売として行うのが(ビットコインを攻撃するよりも)儲かるのですが、逆に言えば政府の圧力などで生産設備を徴用されるリスクもあるということになります。

また、Bitmainは多くのマイニングプールとも関係が深く、そちらの問題も悪化させてしまう可能性があります。

8月にBlock社がついに発表した米国製マイニング機材であるProtoは業界標準となっているBitmainの機材とどう差別化するのでしょうか?今日はProto以前の新興ASICメーカーの戦略やProtoの戦略について取り上げていきます。

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Proto is decentralizing bitcoin mining by increasing access to tools for builders. We believe this is the best way to create a stronger, more resilient network.

・Bitmainの独走状態においても、MicroBTなど他社が頑張っていた

・Protoはデータセンターに学んで「収益性」に対する新しいアプローチを提案

・周辺のソフトウェアもOSSで提供し、運用面の改善にコミット

Bitmainの独走状態においても、MicroBTなど他社は頑張ってきた

冒頭で述べたように、世界のビットコインマイニング用ASICのシェアで言えばBitmainが圧倒的で、例えばBitaxeに搭載されているASICもBitmain製のものです。非常に一般的なため、二次流通や修理なども盛んにされており、収益性の計算でもベンチマークとされる機材になっています。

もちろん、他の会社がその座を狙っていないわけではありません。MicroBT社のWhatsminerシリーズは全体的にBitmainのAntminerシリーズと比べて高価ですが信頼性が高いとよく言われています。信頼性は場合によってはホスティングプロバイダーが課す保守料金(故障対応の手間賃)にも関わってくるので、ライフサイクル全体を通したコストでは競争できる場合もあるのかもしれません。

Bitcoin And Crypto ASIC Miner Profitability
Weekly updates on the prices, and profitability of Bitcoin and Crypto Miner models, sourced from thousands of datapoints across the ASIC Miner brokers

ASICの性能一覧。Antminer(Bitmain)のリリースサイクルが圧倒的に早いことがわかる

Blockstream社も2021年にASIC時代初期の製造業者だったSpondoolies社を買収し、現在独自開発しているASICについて別会社にスピンアウトし追加の資金調達を行うとしています。ASICは過酷な環境で動作することも多く、故障率が比較的高いことに目をつけて信頼性の高いASIC(=ダウンタイムや保守コストが少なく済む)を提供することが狙いだと言われています。

このように、巨大なASIC業界におけるBitmainの牙城を崩そうと各社頑張っていますが、現状では足元にも及んでいません。

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Bitmainの長所の1つとして、ASICのリースをはじめとするマイナー向けの様々な金融サービスを提供しており、これが導入面での大きなアドバンテージとなっている面もあります。

Protoはデータセンターに学んで「収益性」に対する新しいアプローチを提案

今回Block社が発表したProtoの一番の特徴はそのモジュラーな構造や高密度な設計にあります。

Block社によると、世界中にあるデータセンターは過去何十年にもわたり大量のサーバーをどうやって効率よく運用するかという課題に取り組んできていた一方で、マイニングASIC業界は主に電気効率の側面にフォーカスしすぎて機材自体の形を工夫し足りないそうです。そこで、Protoではライフサイクルにおける総コスト効率を改善すべくモジュラー設計によりダウンタイムやアップグレードコストを削減したり、機材の密度を向上させたとしています。

確かに既存のASICは3~5年経って世代交代の時期が来たら使い捨て前提だったり、故障時に取り外したり分解修理する作業のことまでは考えた設計になっていなかったように思います。工具を使ったりラックから機材を下ろすことなく古くなったASICが載るハッシュボードや電源モジュールを単体で差し替えたりできるだけでアップグレードや運用のコストは大きく削減できるでしょう。機材の密度が50%向上したというのもラックスペースが節約できます。初期コストが多少高くても、長期的に回収が見込めるという理解でよいと思います。

ただし、マイナーの視点で言えばこれは数世代にわたってProtoが競争力のあるASICを生産できることに賭けるということでもあります。モジュール交換がコスト削減の前提である以上、もし次の世代にProtoが競争力のあるASICを生産できなければマイナーは(コスト削減による回収を見込んで初期投資した)Protoのモジュールをすべて損切りすべきか難しい決断を迫られます。

どれくらいのマイナーがこの提案に応じるかは気になるところです。現時点では米国内のCore Scientificのデータセンターにロールアウトしているようです。

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詳しくありませんが、米国に所在するマイナーが購入したり、米国のマイニング用データセンターで運用される場合は関税関連の影響も多少の追い風にはなるかもしれません。

周辺のソフトウェアもOSSで提供し、運用面の改善にコミット

ソフトウェア面でも、Protoは同時にFleetという管理ソフトウェアを無料のOSSとして提供しています。

既存のマイニング施設は様々なソフトウェアやウェブベースのツールを組み合わせて機材の監視や運用に利用していてとても前時代的なので現代に合った1つのツールとして統合したものがProto FleetだとProtoの設計主任者であるBrian Stegall氏はBitcoin Magazineに語っています。

マイニングプールの分散性問題の銀の弾丸ではありませんが、Protoは他にメリットの多いStratum V2にも標準で対応しているなど、ソフトウェア面でもとても今風なマイニング機材だと言えます。

Stratum V2は本当にマイニングプールの検閲耐性を改善するのか?
マイニングの話題になると、少なくともここ数年は規制や検閲という部分に関する関心が高まっている実感があります。マイナーがマイニングプールに接続する現状ではプール側が検閲を行えるのではないか、いくつかの大手マイニングプールが検閲を行うと実質的にネットワーク全体が検閲をしているのと同じ状況にならないか、といった疑問です。 ビットコインの検閲耐性はマイニングプール間、マイナー間の競争によってこれまで守られてきました。経済合理性を欠く検閲行為は検閲をしないマイナーへの報酬増加に繋がり、マイナーは検閲を行わないプールへと移動することが予想できます。これ自体はかなり強力な理屈で、ビットコインにおけるProof of Workのイノベーションの1つです。 他方、マイニングプールが大きな影響力を持っていることを認識し、その影響力の根源であるブロックテンプレートの作成を個別のマイナーも行えるようにしようという発想もあります。時折話題に上がるStratum V2プロトコルにそのような機能が盛り込まれています。 果たしてStratum V2プロトコルはマイニングプールの影響力を押さえることができるのか、

Stratum V2については過去記事をご覧ください。

まとめ

・Protoは「データセンターで」「数世代にわたって運用した時に」アップグレードコストや保守コストの削減を期待できるモジュラーな構成と効率的な空間利用を実現した、競争力のある米国製ASIC

・マイナーの視点で見ると、メリットを享受するにはProto製品に未来にわたってコミットしないといけないのが一番のネックか

・周辺のソフトウェアも現代化しており、マイニング産業の成熟を進めるプレイヤーになるかもしれない

個人的にはProtoのデザインの良さに魅力を感じており、Bitaxeのようなホームマイニング製品が出てきたらぜひ使ってみたいですが、データセンターでの運用を想定したProtoの設計思想とは相性が良くないような気がしています。