ビットコインに関する量子コンピューター攻撃の話題がちらほら出ていますね。市場では「量子脅威」としてビットコインの価格を抑える要因となっていますが、今回の記事では全く逆の視点から分析してみたいと思います。

量子コンピューター攻撃がビットコインに対して現実のものとなった場合でも、ビットコインの価格は上昇する可能性が高いというのが結論です。

最初に結論を書いてしまえば、ビットコインがソフトフォークを実行し、量子攻撃に脆弱なアドレスのビットコインをバーン(永久使用不可)する方向へとシフトした場合、現実的に流通するビットコインの数は25〜35%減ることになります

株式で言えば自社株買いのようなもので、流通供給量が減るのであれば、それだけビットコインの価格は上がらざるを得なくなります。

つまり量子コンピューター問題が発生すると全員が認識し、ソフトフォークを実装し、脆弱なままのビットコインをバーンするとなれば、自動的にビットコインの流通量は減り価格が上がるということになるわけです。

今回の記事では、少しその部分を掘り下げてみたいと思います。

ビットコインにとって量子コンピューター問題が定番のトピックになる理由

さて、量子コンピューターの発達により、ビットコインが採用している暗号キーが解読され、ハッカーにビットコインが全て盗難されてしまうという懸念事項はこれまでも出てきていました。

最近では、IBMの量子コンピューターが6ビットの暗号を解読したとの報道がビットコインの安全性に懸念を投げかけたりする記事も出ています。

要約:IBMの133量子ビットコンピュータが6ビットのECCキーを解読し注目を集めた。256ビットECCを使うビットコインには現時点で重大な脅威はないが、今後も量子コンピュータ技術の進展には注意が必要だ。

このような記事は、よく読んでみればビットコインに対して何の影響もないものの、どうしてもヘッドラインが出た段階では、ビットコインに何か重大な脅威が迫ったのではないかと市場に心配を与え、価格を抑えるような効果も出ています。

6ビットと256ビットの天文学的な違い

現在のビットコインのプライベートキーは256ビットで生成されており、6ビットと比較すると天文学的な難易度があります。

256ビットの組み合わせは約2^256 = 1.16 × 10^77通りという途方もない数です。これは宇宙の全原子数(約10^80個)に匹敵する規模なのです。

現実問題として6ビットの暗号は組み合わせが64通りしかなく、総当たり攻撃でも普通のコンピューターを使えば簡単に解読できてしまいます。

別に量子コンピューターなどなくても解読できる程度の暗号キーを解読したからといって、それがビットコインの脅威につながるということは、完全にミスリードであると言わざるを得ません。

このようにビットコインは上昇圧力が下がってくると、必ずこうしたネガティブキャンペーンが出てきて、ヘッドラインで売ろうとする人を誘い込むような動きをすることがあります。

なぜこのようなことが起きるかというと、仮に量子コンピューターの性能が予測よりも早く進化してしまった場合の未知数度が高いからでしょう。

もしもビットコインのアドレスが解読され、ハッカーが全てを盗んでしまうということになれば、信頼がなくなり、価値が0になってしまうのではないかという恐怖があることが背景にあります。

76日間のダウンタイムが必要になるという言説

さて、量子コンピューター問題では、様々な意見が飛び交ってしまいます。

一部の意見では、ビットコインが量子コンピューターに対して安全性を確保するためには、76日間のダウンタイム、つまりオフラインになってしまい、すべてのトランザクションを停止して対策する必要があるという論文も出ています。

要約:量子コンピュータの実用化により、ビットコイン(や他の暗号資産)の従来署名方式が安全でなくなる可能性が高まっている。量子安全化へ向け全UTXOの移行が必要だが、全帯域利用でも約76日かかり、帯域制約がある場合さらに長期間を要する。アップグレードが遅れれば「量子攻撃」により資産が一気に盗まれるリスクがあるため、早急な議論・合意・準備が不可欠。

ビットコインは2009年に最初のブロックを生成して以来、これほど長いダウンタイムを経験したことがありません。

当然のことながら、送金もできず76日間送金できないとなれば、ネットワークへの信頼は地に落ち、確かに価値としてはなくなってしまう可能性があります。

このような議論がビットコインの量子コンピューターに対する脅威を非常に煽っていることは明らかでしょう。

Taprootでの対策は実装できるレベルに来ている

さて、ビットコインでは、既にTaprootという規格(BIP 341として2021年に実装)で、この量子コンピューターに対する耐性を準備する技術が完成しています。

しかしながら、この技術は、そのTaproot対応のアドレス(bc1pから始まる形式)に格納されたビットコインのみが対象となります。

脆弱なアドレス形式とその規模

逆に、古いタイプのビットコインアドレスにおいては、量子コンピューターの攻撃に対し非常に脆弱とされており、これらのアドレスにはビットコイン全体の25〜35%の量が保管されていると推定されています。

具体的には以下のアドレス形式が脆弱とされています:

  • P2PK(Pay-to-Public-Key):公開鍵が直接露出している最も古い形式
  • P2PKH(Pay-to-Public-Key-Hash):1から始まる従来のアドレス形式で公開鍵が一度でも使用されたもの
  • 使用済みP2SH:3から始まるマルチシグアドレスで公開鍵が露出したもの

この中には当然、サトシ・ナカモトが初期にマイニングした約100万BTCも含まれています。

つまり、仮に量子コンピューターの開発性能が飛躍的に上昇し、そのことによりビットコインの暗号の解読が現実のものとなった場合、それらの25〜35%のビットコインはハッカーの手に渡る可能性があるということです。

対応できないビットコインはバーンすれば良いという提案

ここでなかなか過激な提案が出てきています。Jameson Loppという技術者が行っている提案です。端的に言えば量子コンピューターに脆弱なビットコインはバーンしてしまおうというものです。

バーンするということは簡単に言えば、永久に使えなくしてしまうということです。

これを現実のものとするためには、ソフトフォークと呼ばれる仕組みが必要となります。Jameson Loppの提案しているアイデアを開発チームがコードレベルで実装に合意し、その上でノードを運用している参加者が新しいルールを採用するというステップが必要になります。

ソフトフォーク提案の現実的なアプローチ

Jameson Loppらの提案「Legacy Signature Sunset」では、ユーザーが手動で自発的にビットコインを新しいアドレス形式に移行することを想定しています。

これは以下のような流れです:

段階1:新機能の追加 量子耐性署名をサポートする新しいアドレス形式を導入(ソフトフォーク)

段階2:自発的移行期間 ユーザーが自分のタイミングで古いアドレスから新しいアドレスに送金(2〜3年の移行期間を想定)

段階3:古いアドレスの段階的無効化 一定期間後、古いアドレス形式を使用禁止にし、未移行分は永久ロック(バーン)

問題は「移行しない人」への対処

本当の問題は、移行しない(できない)人たちです:

  • 秘密鍵を紛失した人
  • ビットコインの存在を忘れた人
  • 亡くなってしまった人
  • 技術的に移行できない人

これらの未移行UTXOをどうするかが、最大の論争点になっています。

先ほど出てきた76日間のダウンタイムの話題ですが、それはこれら移行しない人のアドレスも含めて、全て存在するアドレスを新しいUTXOへ移行することを想定したものです。

つまり、サトシの初期ビットコインを含め、量子コンピューターに対応するアドレスへ自発的に移動できないビットコインまで含めて、すべて保護しようとすれば76日間のダウンタイムが発生してしまうということになります。

決定するのがビットコインのステークホルダーであれば価値の下がる決定は行われない

では、最終的に量子コンピューター問題が本当に現実のものとなった場合、市場はどちらを選ぶのでしょうか。

選択肢1:ソフトフォークアプローチ ビットコイン保有者が新しい量子コンピューター対応のアドレスに保有ビットコインを送金し、それ以外の送金されないビットコインに関してはバーンするアプローチを取る。

選択肢2:全面救済アプローチ 世の中に存在するすべてのビットコインを量子コンピューターの攻撃から救済するため、76日間のダウンタイムを設け、すべてのアドレスを更新する。

人間の本性に根ざした経済合理性

ここで考えるべきは、これらの決定権を握っているのは、ノード運用者であり、またソフトウェア開発者であり、さらにはマイニングに参加するプレイヤーであることです。

それらの人々は現実的にそのビットコインを自分で保有しており、つまり、ビットコインの値下がりが発生すれば、自らの懐が痛むことになります。

人間、自分の懐が痛む決断だけは絶対にしないものです。

だとすれば、自らが保有しているビットコイン価値が明らかに下がる76日間のダウンタイムの選択をする人は皆無でしょう。

それよりも、ソフトフォークを選択し、ビットコインを保有する人たちが対応したアドレスに自らのビットコインを送金し、そしてその準備に十分な時間をかけるという選択の方が保有者の懐は傷まずに済みます。

利害関係者の一致という美しいシステム

少し話は逸れますが、筆者は電気自動車(EV)に乗っています。毎度毎度高速道路のパーキングに立ち寄るたびに呆れてしまうのですが、日本では使い勝手が悪く、充電性能も悪いCHAdeMOという規格の充電器が大量に高速道路に設置されています。

しかしながら時間が経つごとに使っている人はほぼ皆無に向かっています。

そのような無駄な金を使って整備された施設を見ながら、きっとこの使い勝手の悪い充電器を設置している人たちはEVに乗らず、自分は全く利害の外にいる状態だから、上から言われたからやっているだけなんだろうなといつも思わざるを得ません。

人間誰しも他人の金であれば、意思決定はルーズになり、何の役にも立たないことを平気でやるものです。

逆に自分の懐が痛むとなった場合には、人間はそのような決定は絶対に取りません。

ビットコインのシステムは、悪意のある攻撃を仕掛けるコストよりも、ルールに乗って普通にマイニングをする方が利益がコストが小さく利益も大きいため、誰も不正を働かないという仕組みになっています。

この仕組みはサトシが最初のビットコインをマイニングした2009年1月から2025年現在まで、1度も破綻することなく継続しています。

人間は自らが明らかに損しない方を選択するという本質を、見事に活用しているのがビットコインなのです。

つまりビットコイン保有者たちが何を選択するのかといえば、価格の下落がない方を選択する以外にあり得ません

事実上のバーンが発生する

では、仮にここで述べられているようなソフトフォークが実行された場合はどのようなことが起こるのでしょうか。

仮に25〜35%のビットコインは新たなアドレスに送られることなくそのままで放置されていたとしましょう。そして、ソフトフォークの提案通り、それらのコインが使えなくなるという決定が行われたとしましょう。

そうなれば25〜35%のビットコインは流通からいきなり消えることになってしまいます

自社株買い効果の威力

現実問題として普通に取引されているビットコインは、全体の約10〜20%でしかありません。大部分は長期保有されており、日常的な取引市場に出回っていないのです。

その限られた市場の中で25〜35%のビットコインが流通量から消えることのインパクトは桁外れに大きいでしょう。

株式市場でも、自社株買いを行う効果は必ず株価の上昇を伴います。

例えば35%の自社株買いが行われた場合、理論的には残り65%の株式の価値は約54%上昇することになります(1÷0.65 ≈ 1.54)。

同じようにそれだけのビットコインがバーンされた後のビットコイン価格は、上昇せざるを得なくなるでしょう。

量子脅威克服による信頼回復効果

さらにこれまで心配されている量子コンピューターへの攻撃をソフトフォークで難なく乗り切ったとなれば、市場の信頼はさらに上昇することになります。

2025年現在、量子コンピューター攻撃があるからビットコインは買わないという人がどの程度いるかは分かりませんが、一定程度はそれを理由に投資をしていないはずです。

しかしながら、量子コンピューター攻撃が杞憂のものになったということであれば、それらの人の新規資金も入ってくることになります。

この辺りがどれだけのインパクトになるかというのは、正直なところ分かりませんが、少なくともプラスに働くことにはなるでしょう。

「量子ディスカウント」の解消

現在のビットコイン価格には、既に量子リスクが「ディスカウント要因」として織り込まれている可能性があります。

機関投資家の中には、量子脅威を理由にビットコインへの投資を控えているケースも実際に存在します。BlackRockが2025年5月にiShares Bitcoin Trust(IBIT)の提出書類で量子リスクを明記したのも、その表れです。

しかし、ビットコインが量子脅威を技術的に克服し、さらには供給量減少というボーナスまで得られるとなれば、この「量子ディスカウント」は一気に解消され、大幅な価格上昇につながる可能性があります。

まとめ

今回の記事では、ビットコインの量子コンピューター問題を機に、ビットコインコミュニティがソフトフォークへ進化し、量子コンピューター耐性を得るとともに、その対象外のコインをバーンすることで、流通量が減り、価格が上昇するということを書いてきました。

もちろんこの通りになるかは分かりませんし、そうではないかもしれません。

今回の記事を通して皆さんに伝えたかったのは、市場が思っている思惑が一定であればあるほど、それが現実となったときには、逆に動くことがあるということです。

いわゆる「材料出尽くし」というやつですね。

ビットコインの場合は、量子コンピューターへの耐性がないと考えている人たちが一定数いる以上、その懸念が消えることになれば、それらの資金が入ってくることになるため、価格が上昇することが想起されます。

ただしメディアなどでは、量子コンピューターによってビットコインの価値は消えてしまうという論調が多いです。

このように市場が量子コンピューターはビットコインにとって致命的であると思えば思うほど、そうでなくなったときのインパクトは大きいということを強調しておきたいと思います。


参考資料・引用元

  1. IBMの量子コンピューター報道について
  2. 76日間ダウンタイム論文
  3. Jameson Loppの量子対策提案
    • "Upgrade or Lose Your BTC: Aggressive Soft Fork Against Quantum Computing Proposed"
    • Bitcoin開発コミュニティでの議論資料
  4. Tim Ruffingの量子耐性研究
    • Blockstream Research論文(2025年7月発表)

本記事は現在利用可能な技術的情報と経済分析に基づく見解です。量子コンピューター開発や暗号通貨市場には高い不確実性が存在します。投資判断の際は、十分な調査と専門家への相談をお勧めします。この記事は投資助言ではありません。

ココスタ 佐々木徹