最近ステーブルコイン周りで起きていること、考えていることについてアップデート、一部まとめます。

Tetherの動向

以前Liquid上でTetherが発行、というニュースに注目していたのですが、正直今までLiquid上でのTetherの利用は想定していた以上に盛り上がっていません。 ただし、最近じわじわLiquid上でのTether発行は増えてきており、現時点で約17億円分のUSDTが発行されています。ちなみにEthereum Tetherの規模は4000億円以上なのでまだまだ雲泥の差がありますね。

EtherとStablecoinの関係性の逆転

これはCoinmetricsのNic Carterが最近指摘していたのですが、現状大部分のStablecoinはイーサリアム上で発行されていますが、Etherとステーブルコインの関係が逆転し始めています。

2019年9月にUSDT、USDCなどのイーサリアム上のステーブルコインのTx価値の合計(どれくらいの金額がネットワーク上で動かされたか)が、EtherのTx価値の合計と逆転し、現在はステーブルコインがEtherの3倍程の価値を動かしています。要は、Etherよりステーブルコインの方がイーサリアム上でよく使われている、ということですね。(添付画像①参照)

また、Etherの時価総額とイーサリアム上のStabelcoinの時価総額の差も少しづつ縮まってきています。Etherが1兆4千億円、Stablecoinは5000億円程度とまだ差はありますが、最近のEtherの価格下落もあり差は確実に縮まってきています。(添付画像②)


さて、イーサリアム上でステーブルコインの利用が進むのはネットワークの有用性を示しているとも言えますが、リスクもあります。特にステーブルコインの価値がEtherの価値を上回ってしまった場合、Etherのマイナーのインセンティブとの不整合を起こす可能性が出てきます。これは以前から指摘されていたブロックチェーンとその上で発行されるトークンの構造的なジレンマですが、その状態に逆実に近づいているわけです。


このような要因もあり、自分はその内今イーサリアム上で発行されているStablecoinの多くは別のブロックチェーンや独自のブロックチェーンに移行し始めると考えています。特にTetherやUSDC型の発行主体が存在し、遵法が要請されるものは、検閲が難しいパブリックチェーンとは実は相性もそこまで良くないですし、プライバシー不足やスピード、コストの問題も存在します。


MakerDAO(DeFi)の迷走
MakerDAO(Dai)は最近色々迷走している印象です。多分すでにご存じの人が多いと思いますが、先日のEtherの急激な下落でDaiの価格のペッグが崩れました。清算されたEtherのオークションの仕組みが上手く機能せずに、「無料で」Etherを購入できるような状況になってしまいました。Daiの価格も1.2ドルくらいまで結局上昇。

さて、価格安定の仕組みが急速な価格下落に対して上手く機能しなかった、と言うのも一つ問題ではあると思いますが、その後の対応がもっと根本的な問題を露呈してしまったと思います。

上記の価格崩壊の仕組みへの対策としてMakerDAOは担保として別のStablecoin「USDC」を組み込む方向性を決めました。 これが本当に根本的に問題を解決できるかは自分もよくわかってない部分もありますが、USDCという集権的なステーブルコインを「分散型」のMakerDAOに組み込む、というのは基本的には悪手だと思っています。

またそれ以上に問題だと思うのは、上記のような非常にクリティカルな変更をMakerDAOの開発会社とMKRの大量保有者のVCなどが合意して簡単に決められてしまったことです。

以前MakerDAOとMKRトークンの保有の偏りとDAOの幻想、というコラムを書いていましたが、まさにそれが改めて露呈したわけです。

これは結局以下のようなことを意味するかと思います。

  1. 真の意味で分散的に価格安定なステーブルコインを作るのは非常に難しい
  2. 不可能ではないのかもしれないが、まだ相当なリスクや未知の攻撃などが存在し、かつ実質的に集権化、形骸化してしまう可能性が高い
  3. もしそうであるとしたら、今後Daiのような仕組みが大きな規模に成長することはなく、ニッチなステーブルコインに留まる可能性が少なくない

価格安定とFiat

少し余談ですがStablecoinはドルとか円などのFiat通貨にペッグしたものが多いですが、Fiat自体も一種の「Stablecoin」と言えます。

(諸説ありますが)Fiatの場合は国家の徴税能力や財政状況、中央銀行が設定する金融政策(金利操作、通貨供給)、国民の政府や中銀に対する期待や信頼、などにより絶妙なバランスで価格の安定が図られているいるわけですが、今コロナショックでの経済へのダメージ、追加の異次元発行によるFiatシステムへの不安なども広がり始めており、そもそもFiatが永続的に「安定」を実現するのも簡単ではなさそうです。

もし仮にこの「Fiatが安定している」という前提が揺らぎ始めると、そもそもTetherやUSDCなど含めたStablecoinも無意味なものになりかねないですし、通貨供給スケジュールが「安定」しているビットコインやゴールドなどが選択される局面も限定的ではあるかもしれません。まあなので完全に余談なのですが、Stablecoinとか安定ってそもそも何なんだ、Fiatにペッグして安定していたらいいのか、と思う部分も少しあるわけです…。

結論と今後の展望

上記のまとめと今後の展望です。

  1. Stablecoinの取引量の増加

  a.当面はTetherやUSDCなどの中央型Stablecoinの利用は増加していく

  b.Tetherは以前から問題も多いが、ここまで来ると圧倒的な流動性でさらに存在を強めていくLiquid上のTetherの利用はまだ限定的。取引所でのLiquidの採用が進んでいくと一気に利用が増えていくタイミングはその内来そう

2.Stablecoinの独自ネットワークへの移行

  a.Stablecoinの利用が増え、コンプライアンスの強化などが要請されると、現在イーサリアム上で発行されているステーブルコインはその他のブロックチェーンや独自ブロックチェーンに移行していく

  b.中国の中央銀行デジタル元やLibraなどもこれらの一種と見なせる(パブリックチェーンで発行する意味があまりない)

3.DeFi Stablecoinの低迷

  a.Daiの価格崩壊とMakerDAOの迷走などもあり、DeFiの分散(を目指している)Stablecoinは低迷する

  b.今までも、今後もStablecoinの大部分は集権的なものになり、DeFiステーブルコインはニッチなものに収まる

4.パブリックチェーンとStablecoinの断絶

  a.上記の通りStablecoinは今後も集権的な運用が基本で、AMLやコンプラ強化などパブリックチェーンとはどんどん違う方向性に進化してい

  b.その過程でTetherが潰されたり、はあるかもしれない

  c.今はStablecoinとパブリックチェーンが混同されているが、今後はビジネスの主体や目的、用途、採用される技術などは大きく変わってくる。

  d.自分はどちらをやるのか、という選択が必要