先日Radarという会社がEtherとLightningをブリッジするRedshiftというサービスを公開しました。

https://ion.radar.tech/redshift

Radarは元々イーサリアム上のトークンのDexサービスなどをやっていた会社ですが、少し前から大きくLightningにピボットした少し珍しいチームです。自分も開発チームのメンバーと何回か直接話したことがあるのですが、かなり強いチームで今回のRedshiftも中々面白いです。

REDSHIFTの特徴

RedshiftはLightningで使用されるハッシュタイムロックコントラクト(HTLCs)の仕組みを応用することで、EtherとLightningをトラストレスにブリッジできることが一番の特徴です。現状では、LightningのInvoiceをRedshiftのウィジェットに貼り、LNの支払いの代わりにEtherを送ることでLNの支払いを実行することが出来ます。裏では自動的にスマートコントラクトが発動し、EtherのLightning上の送金への変換がアトミックに行われ、中継者であるRadarへの信頼やカウンターパーティリスクなしで支払いが完了します。(HTLCsをどのように利用しているかなどちょっと自分もまだ完全に理解していない部分がありますが、今回の話ではそこまで重要ではないので詳細は割愛します)

実際にテストで何回か使ってみたのですが(添付画像参考)Lightningと別のチェーンがつながって支払いが完了する、みたいな体験は何とも言えないですが、ワクワクというか、おー、すごいな、という感覚はありました。

REDSHIFTのポテンシャルは?

Redshiftはイメージ的には「トラストレスShapeShift」という感じです。ShapeShiftは多数のコイン同士の気軽な変換を可能にするサービスですが、一旦コインをSSに渡して、それをSSが「出来るだけ早く」別のコインで送り返してくれる、というだけでトラストレスではありません。Redshiftの場合、EtherからLightning支払いはトラストレスで行われ、同じ要領でその他のERC20トークンやコインも追加することが可能なので、ShapeShiftの進化版とみなせます。クロスチェーンソリューションへの注目が増していますが、すでにセカンドレイヤーも組み合わせて動いているのはかなり先進的です。まだこういう取り組みは始まったばかりですが、今後クロスチェーンのトークン同士の交換や分散取引にはセカンドレイヤー技術の活用は必須になってきます。

REDSHIFTの限界

ただし、Redshiftを実際に使ってみて少し考えてみると、実はRedshiftには根本的な問題というか限界も見えました。こちらのサービスを最初に聞いた時の自分の第一印象は、「おー、すごい、これで簡単にアルトコインをLNに変換して、LNユーザーがもっと広がるのでは?」という感じでしたし、サイトにもそういう目標が掲げられています。ただし、実はRedshiftのようなサービスではLNの新規ユーザー獲得(Onboarding)にはあまり助けにならなそうです。例えば自分がアルトコインを保有しており、これを売って自動的にLN上のバランスに変換したいとします。直感的なイメージとしては、RedshiftのウィジェットにLNウォレット上のQRコード的なInvoiceを貼りつけ、EtherやERC20トークンなどのコインをRedshiftに送り付けるだけで簡単にアルトとほぼ同じ価値のバランスをLN上に移動できる、みたいな感じでしょう。ただし、実際にLNでお金を受け取るには、まずユーザーは最初にLNウォレットをインストール、ビットコインをウォレットにデポジット、チャネルのセットアップ(Redshiftをつながるノードを選択)、そして何よりお金を受け取るためのキャパシティを「事前に」用意する必要があります。(いわゆる「Inbound Capacity」などと呼ばれる問題なのですが、Lightningの場合支払いを「受け取る」のに事前に受取り用のBTCをチャージする必要がある)つまり、理想としては例えばLNを使ったことがない初心者のアルトコインホルダーは、LNウォレットをインストールしてアルトコインを送金するだけですぐにLN上にバランスが再現、LN支払い可能、という風になればいいですが、実際には事前にある程度の知識やビットコインやチャネルの準備が必要で、気軽にアルトコインユーザーをLNの理解なしで誘致できるようになるわけでは残念ながらありません。じゃあRedshiftのようなサービスは誰の為のものか、というと、

  1. すでにLNにある程度慣れているアルトコイン保有者
  2. LNが店舗決済などである程度広く流通した前提で、LNを使いたくない/使い方がわからない人がアルトを自動で変換して決済

上記などかな、と思います。これはこれである程度価値はあるかもしれないですが、どちらかといえばLNを使いたくないアルトコイン保有者の為、という感じです。

一般ユーザーへの浸透はLN(セカンドレイヤー)では厳しい?

さて、少し話は変わりますが、今回Redshiftを試しつつ、自分でも久しぶりに複数のLNウォレットで資金の付け替えをしたり、中継ノードが落ちているチャネルに関しては使い物にならないのでチャネルの閉鎖などをしたりしました。自分はLNはある程度慣れ親しんでいる方だと思いますが、それでもこの一連の流れをやってみて中々つらいというか、少なくとも普通のユーザーが能動的に考えてやるような作業ではないな、と改めて思いました。確かに中継ノードのAvailabilityの問題などは今後LNにもう少しプロフェッショナルなプレイヤーが参入してきたら改善すると思いますし、他にも全体的にUXを改善できる部分もまだまだあります。ただし、例えばInbound capacityやチャネルのLiquidity管理や方向性の問題など、LNのUXには根本的にそもそも解決が難しいものも少なからずあると今回Redshiftをいじりながらふと感じました。言い換えると、今後Redshift含む色んなサービスがLNをもっと広いユーザーに、ということで努力していくと思いますが、本当により広いユーザーに広げていくのはセカンドレイヤーではなくて、Channel factoryなど一つ上のサードレイヤーなどの一つ上のレイヤーで考えるべきことかもしれません。下記のようなレイヤーと想定ユーザー、用途に分かれるイメージです。

  • ファーストレイヤー(Bitcoin)

特徴検閲耐性、改ざん不能弱点高手数料、時間がかかる、低プライバシー、鍵管理の負担用途大きな金額の移動、検閲される可能性がある送金の実行、上のレイヤーの為のアンカリング/オーダリング

  • セカンドレイヤー(Lightning Network)

特徴トラストレスな状態を維持して高速、安価な送金。ファーストレイヤーより高いプライバシー。弱点セットアップやメンテ、流動性の管理が煩雑。中継ノードの検閲(送金拒否は可能)用途企業やリテラシーの高いユーザー向け。少額のビットコイン高速送金、安価なペイメント。

  • サードレイヤー以上(Channel factory、その他関連/新規技術)

特徴セットアップは簡単、誰でも簡単に無料に使用開始可能弱点中継ノードへの信頼必要(持ち逃げ可能)、検閲可能性、プライバシー低下用途チャネルを能動的に管理したり、鍵を管理したくない一般ユーザー向け

上記のような切り分け、トレードオフが段々進んでいくのではないか、という予感がしました。もしこれが正しいとしたらLNをものすごく簡単に誰でも使えるようにしよう、という方向性ではなく、実は企業やパワーユーザーが十分に使えて、トラストレスでプライバシー性能が高い、などの特徴を追及するべきなのかもしれません。LN自体もまだ発展途上なので今後さらに改善、仕様変更はありえますが、Redshiftをガチャガチャとテストしながら、上記のようなシナリオが自分には想起されました。

結論
  1. RedshiftはトラストレスにEtherやトークンとLNのバランスを交換できる先進的な技術。今後同様のセカンドレイヤーを絡めたクロスチェーンソリューションは重要になるはず
  2. ただし、LNの特性を考えるとRedshiftはLNユーザーの拡大には実はあまり寄与は出来なさそう
  3. そもそもLNはどのような層や用途をターゲットとしたものなのかまだ不明瞭。広いユーザーへの拡大は実はサードレイヤーなどで実現すべきことではないのか