ビットコインのスケーリングの手段の一つとしてサイドチェーンがあります。サイドチェーンを利用することで、実質的にビットコインのブロックスペースを増加させることの他に、ビットコイン本体の制限にとらわれない様々な機能を搭載することができます。現在一番成功しているサイドチェーンはBlockstream社が開発・運営するLiquid Networkで、トークンの発行や内容を秘匿した送金ができるほか、Two-Way PegというシステムによってオンチェーンのBTCとLiquid上のL-BTCを双方向に交換することができます。しかし、BTCの保管方法としてLiquidフェデレーション(企業連盟)とBlockstreamによるマルチシグに依存している設計に不信感を抱く人もいます。このようなマルチシグによる保管であるフェデレーション型のサイドチェーンの他に、ペグアウト(サイドチェーン上のトークンをオンチェーンのBTCに戻すこと)ができない方式もあります。その1つである、Ruben Somsenが提案する「Perpetual One-Way Pegによるサイドチェーン」が最近紹介したイーサリアム上のRollupとの共通点も少しある興味深いアイデアだったので、紹介させていただきます。

PERPETUAL ONE-WAY PEGの意味

まず、Perpetual One-Way Pegという表現を分解していきます。One-Way Pegというのは、Liquid Networkのようにサイドチェーン上のビットコインをオンチェーンのBTCに戻すことができるTwo-Way Pegという仕組みに対して、ビットコインをサイドチェーンに移すことはできるが、戻すことはできない仕組みのことです。

例えば、カウンターパーティーを使ってトークンを発行するのに必要な通貨(XCP)はトークンセールではなく、ビットコインをバーンすることによって発行されました。この際にバーンされたビットコインを取り戻すことはできません。これをOne-Way Pegと解釈することができるでしょう。XCPの発行は無期限に行われたわけではなく、期間限定で行われました。そのため、発行が終了したあとはXCPの需給により値動きします。一方でPerpetual One-Way Pegにおいては、無期限で発行が続けられるので、サイドチェーン上のトークンの価値が上昇すれば新規に発行できるため、値動きは限定されます。

なぜOne-Way Pegなのか

そもそもRuben Somsenがこの構想を提案する理由として、「独自のブロックチェーンを作成する上で独自トークンの発行が避けられず、機能よりもそのトークンの価格本位になりがち」だという点を挙げています。例えばトークン価格をパンプするための機能や発表が優先され、本来の機能を妨げるような変更、保守性や安全性が低下する変更が加えられたりする場合がよくあります。


そこで、独自トークンによる投機性を排除する方法があれば、チームはプロジェクトに集中できて倫理的だというのです。少なくとも「あえてその手段を取らない」場合に、その理由を追及することができるようになります。先述しましたが、もしサイドチェーン上のトークンの価値が上昇しても、オンチェーンから移行することでいつでも新規発行できるため、乖離がすぐに是正されます。

さらに、この選択肢が取れるオンチェーンのBTCのほうが理論的には価値が高く収まるとも考えられます。サイドチェーンに移行されるとビットコインの総量が減少することも、ビットコインホルダーに有利です。したがって、サイドチェーンのネイティブトークンに関して、ビットコインに対する投機的な優位性はないだろう、とRuben Somsenは考えています。また、価値の高いオンチェーンのBTCをわざわざサイドチェーンに不可逆的に移行させるには、サイドチェーンの利用がその差額以上の価値を提供する必要があるため、「時価総額」よりもブロックチェーンの価値が可視化されやすいかもしれないと感じました。

移行されたコインの流通速度が高ければ、多くのユーザーの使用に耐えるのに必要な量も少ないかもしれません。例えばサイドチェーンの利用時のみサイドチェーン上のコインを借り入れることなどが考えられます。
ホールドするならオンチェーンのBTCが不確実性が少なく有利そうですが、サイドチェーン上のコインを一時利用者に貸して運用するユーザーも出てくるかもしれません。ここに少しの投機性が残ると私は考えますが、同時に利用者を呼び寄せる方法の1つとも言えるでしょう。

Merge Mining (Ruben Somsenバージョン)

この構想上のサイドチェーンは、Merge Miningという仕組みを使ってブロックを紡いでいきます。話をわかりやすくするための仮定として、サイドチェーンもビットコインのようなブロックチェーンだと考えましょう。Merge Miningを簡単に説明すると、ビットコインのマイナーがブロックを生成するときに、サイドチェーンのブロックハッシュを含めた特定のトランザクションを含めることによって、そのブロックが承認されたことをサイドチェーンのユーザーが確認できる仕組みです。Ruben Somsenが提案する仕組みでは、1ブロックごとに使用可能になる特定のトランザクションのチェーンを事前に用意し、現在のブロックに対応するトランザクションに都度サイドチェーンのブロックハッシュを追加して、RBF(手数料を追加してトランザクションを再提案する仕組み)を使ってマイナーに提案することで、誰でもサイドチェーン上のブロックを提案することができます。

ブロックチェーンの雛形(事前に用意したトランザクションのチェーン)があって、そこに実際のブロックハッシュを順に埋めていくイメージです。

単純に考えると、一番高い手数料を払ったトランザクションが取り込まれ、そこに記録されたブロックハッシュがサイドチェーンで有効であればサイドチェーンが1ブロック進みます。手数料を払ってまでサイドチェーンのブロックをマイナーに提案するのは、取り込まれたブロックを提案した人が、サイドチェーン上の手数料を受け取ることができるからです。サイドチェーンの誕生時に用意するトランザクションのチェーンに後からサイドチェーンのブロックハッシュを追加できるようにするために、トランザクションの一部に署名して残りに後からデータを追加することができるようになるOP_CTVまたはsighash_anyprevoutの導入(ソフトフォーク)が必要です。

Liquid Networkのようなサイドチェーンは、もしビットコインから送金需要を奪っているならトランザクション手数料を横取りしてセキュリティを損なっているという批判がされることがあります。なぜならLiquid上のトランザクション手数料はビットコインのマイナーには還元されないからです。
Merge Miningでは手数料が間接的にマイナーに流れるので、Liquidなどと比較して共存関係に近いと考えられます。
実現できること

UX

最近の記事で、zkRollupの優れた点として、送金する通貨で手数料を支払えることを挙げました。例えばサイドチェーン上でUSDTなどが発行されていた場合、手数料をそれで支払えるような実装ができるでしょう。ブロックの提案時にオンチェーンで支払われる手数料はビットコインで、自身の提案したブロックが選ばれた際に受け取る手数料はサイドチェーン上のトークンとなるので、流動性込みのフェアな価格発見機能にもなります。
(ブロックを提案する者は売却益>オンチェーン手数料を目指すため、トークンの売却価格や保有リスクを考慮する必要がある)

機能性

サイドチェーンなので、ビットコインの制約から逃れて様々な機能を実装できます。トランザクション数にこだわったり、秘匿トランザクションを導入したり、スマートコントラクトやトークン発行、DefiやDAOなども。ただし、当然ながら負荷が大きくなるとサイドチェーン自体の分散性には影響します。(自身でブロックを検証することが難しくなります)

向かないこと

普通のビットコインに戻して引き出すことはできないので、価値の保存には向きません。例えば「コンプライアンス・サイドチェーン」のようなものを作って金融業界で使用したい場合、Two-Way PegであるLiquid Networkのようなコンソーシアムチェーンのほうが向いているかもしれません。サイドチェーン自体のネイティブトークンを作って売って金儲け、みたいなことも直接はできません。(サイドチェーン上で別のトークンを発行して売ることはできますが。)

余談ですが、アメリカのビットコイン金融商品であるGBTCは、ビットコインを預け入れて申込みますが、解約して引き出すことはできないのでOne-Way Pegですね。BlockFiは解約できるのでTwo-Way Pegです。どちらもサイドチェーンではありませんがね
まとめ

・Perpetual One-Way Pegは、独自トークンを必要としないサイドチェーンの実現方法の1つで、フェデレーションも不要
・その代わり、ネイティブトークンを得たければBTCをバーンする必要があるため、ネイティブトークンは必要最低限の量しか生成されないだろう
・その他のトークンでサイドチェーン上の手数料を払う実装も考えられるため、最初以外はネイティブトークンの存在が必須ですらない
・Merge Miningの仕組みとOne-Way Pegの組み合わせはビットコインにとってもユーザーにとってもWin-Winな新しい形
・OP_CTVまたはsighash_anyprevoutの導入(ソフトフォーク)が必須の模様