Vol.328:ステーブルコインは米ドルの流動性危機を救えるか?(2025年9月15日)
受講生の皆さん、こんにちは。
ステーブルコインに関する興味が市場でにわかに高まってきていますね。実際にGoogleトレンドを確認してみたところ、2025年7月13日から19日の間に最大値をヒットしていることが確認されています。

図表1:Googleトレンドによるステーブルコイン検索動向
この背景にあるのは、7月18日にドナルド・J・トランプ大統領が「GENIUS法(ステーブルコイン規制法)」に署名し、正式に成立させたことによる大規模な報道と議論の高まりです。
この決定に刺激を受けたのか、日本でもJPYC株式会社は2025年8月18日付で、資金決済法第37条に基づく「資金移動業者」(登録番号:関東財務局長第00099号)の登録を取得しています。
今回の記事では、これらステーブルコインが場合によって現在枯渇しつつある米ドルの流動性を補完し、バブルを継続させる可能性があるのではないかということについて、様々な角度から検討してみたいと思います。
ドルの流動性は枯渇しつつある
最近では日経平均も最高値を更新し、ゴールドも最高値をほぼ毎日更新する動きが続いています。ビットコインも先物市場の曲線を見る限り、市場としては最高値をいつ超えてもおかしくないという受け取り方をしているようです。
ただし、現在市場が少し気にしているのは、これらの資産クラス価格を上昇させてきた1つの材料であるドルの流動性がもうあまり残っていないという点にあります。

図表2:米国リバースレポ残高の推移に示したのは、米国のリバースレポ残高の推移となります。
リバースレポとは? リバースレポ(逆レポ)とは、中央銀行(FRB)が金融機関から資金を吸収する金融政策手段です。イメージとしては「銀行が余ったお金をFRBに一時的に預ける仕組み」です。残高が多いということは、市場に余剰資金がたくさんあることを意味します。
2023年の中盤以降、この残高が一気に減少していることがわかります。この残高は、左側の軸が10億ドル単位で記載されているのですが、2025年9月12日残高で173億ドルまで残高を減らしています。
もともと2兆ドル以上あった残高が現在173億ドルまで減っているということで、現実的にはもう空になってしまったと考えておいた方が現実的でしょう。
この期間にリバースレポから抜けた資金は、ビットコインやゴールド、米国の株価指数などへと流入をしてきました。

図表3:リバースレポ残高とビットコイン価格の推移では、リバースレポ残高が減少するとともに、ビットコイン価格が上昇している様子を表しています。
余剰資金の貯蔵庫から資金が流出し、ビットコインの価格上昇を支えていることが如実にわかる動きではないでしょうか。
このレポ残高が現在173億ドルとほぼ空になっていることを考えれば、今後のビットコイン上昇がなかなか厳しくなるのではないかということが考えられるわけです。
ビットコイン市場の季節性要因
なお、ビットコインに関しては、2024年4月に半減期を迎えています。これまでの過去のパターンからすると、ビットコインは半減期を迎えてから、およそ1.5年後に上昇相場を終え、下落へと移り変わるパターンを繰り返しています。
そのタイミングとしては、2025年10月あたりとなっており、既にその動きを知っている市場としては、その前に売却しておきたいという意向が働いています。
特に過去の月別リターンでマイナスが続いている8月と9月を避けて売却したいという意向が、2024年7月に大口のビットコイン保有者が現物売りに動いたことからも確認されています。
これらの材料だけを見てみれば、もはや2025年9月中旬でビットコインの上昇も一旦は頭打ちになるのではないかと考える参加者も出てくる可能性があります。
従来の懸念要素:
- 要素1: 半減期上昇期間がほぼ終わりである
- 要素2: 米ドルの流動性を供給してきたレポ残高が空になっている
しかし、ここで興味深いのは、このような状況の中で新たな流動性の可能性が登場していることです。
米国と中国はステーブルコインの発行で主導権を争っている
冒頭で述べたように、2025年7月には、米国でGENIUS法案が成立し、米国内の金融機関がステーブルコインを発行できることが法律として裏付けられました。
この法案は、世界各地にデジタル通貨を発行させるモチベーションを強めたという点も見逃せないポイントです。日本のステーブルコインであるJPYCが認可されたのもその影響もないとは言い切れないでしょう。
同じく、Googleトレンドの中で興味深かったのは、検索インタレストが最も高まっていたのが香港であるということです。
香港では2025年5月21日にステーブルコイン条例案が可決され、8月1日から香港金融管理局からのライセンス取得が義務化されています。水面下では、米国と中国がステーブルコインの発行で主導権を争っているという構図を確認することができます。
ステーブルコインが新たなドルの供給源となる可能性
このステーブルコインに関しては、残高が順調に育ちつつあることを確認することができます。
2025年9月15日現在、主要なステーブルコインとしては、USDTテザーと、サークル社が発行するUSDCの2つが挙げられます。2つのステーブルコインを足した時価総額は、2025年9月12日の時点で2,420億ドルを超えています。
仮に、レポ残高とこれらステーブルコインの残高を足したものが、ドルの流動性としてカウントできるのであれば、どのような数値になるのか計算をしてみました。図表4がその結果です。

図表4:レポ残高とステーブルコイン残高を足した流動性の推移
オレンジ線は、USDTとUSDC 2つのステーブルコインの市場残高を足した数値となります。
そして、グレーのグラフに関しては、そのステーブルコインの時価総額にレポの残高を足したものとなります。
すでにレポ残高は実質0ですから、今後はStableコインに資金が流入すると、ドルの流動性が拡大する、、、という理解も成り立つかもしれません。
流動性創造 vs 形態変換論への考察
ここで一つの重要な議論があります。ステーブルコインは本当に新しい流動性を「創造」しているのか、それとも既存の流動性を「変換」しているだけなのかという点です。
確かに、ステーブルコイン発行の際には、発行者が現金や国債を担保として預託する必要があります。これを見ると、単なる形態変換に見えるかもしれません。
しかし、ここで重要なのは、ステーブルコインが主に暗号通貨市場で使用される流動性であるという点です。
従来の銀行預金や国債として眠っていた資金が、ステーブルコインという形で暗号通貨市場に流入することで、仮想通貨内での流動性は確実に増加します。
そして、現在の暗号通貨取引所では、株価指数の先物取引や、従来の金融商品と連動するデリバティブ商品も活発に取引されています。
CeFiでの株価指数先物取引の状況 中央集権型取引所(CeFi)では、実際に株価指数や伝統的金融商品と連動するデリバティブ商品の取引が活発になっています。
例えばコインベースデリバティブズでは、2025年9月22日から「Mag7 + Crypto Equity Index Futures」の提供を開始しています。
ここではアップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、エヌビディア、メタ、テスラの米主要ハイテク株7銘柄に加え、ビットコインETF(IBIT)やイーサリアムETF(ETHA)も組み込まれています。
つまり、暗号市場の流動性向上は、間接的に伝統的な金融市場にも影響を与える可能性があるのです。
GENIUS法がもたらす量的インパクト
現在のステーブルコイン市場規模(約2,420億ドル)は、確かにリバースレポの減少分(約1.98兆ドル)と比較すると小さく見えます。しかし、GENIUS法の施行により、この状況は大きく変わる可能性があります。
GENIUS法により、これまでステーブルコイン発行に慎重だった大手金融機関が本格参入することが予想されます。
さらに、ウォルマートやアマゾンなどの小売大手も、買い物などに使える米ドル連動のステーブルコイン導入を検討し始めています。これらの企業が持つ顧客基盤を考えると、ステーブルコインの普及速度は従来の予想を大幅に上回る可能性があります。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリストは、GENIUS法による規制の明確化を背景に、ステーブルコインの供給高は短期的に最大750億ドル増加すると予測しているとのこと。
どちらにしても、暗号通貨市場にはポジティブな材料となりそうですね。
米国の戦略的思惑
これらのステーブルコインは、裏付け資産として現金、預金、もしくは短期国債などが挙げられています。
米国の政府としては、中国やインドなど米国債の残高を減らしている国がある中で、今回出てくるステーブルコインの発行は、新たな買い手を創設することができるという点で非常にありがたい存在であることは皆さんもご存知の通りです。
米国のトランプ大統領としては、とにかく利下げをしたいという姿勢を前面に出しています。
金利を下げるためには、国債を買ってくれる参加者を大量に見つけてくる必要があり、その点でステーブルコインの発行は新たな国債の買い手として非常に有望であるわけです。
実際に、トランプ政権の戦略は明確です:
- ステーブルコインを通じた米ドル覇権の維持
- 新しい国債購入者層の創設
- デジタル決済分野での中国への対抗
この思惑は、ドル建てのステーブルコイン発行量を押し上げる方向に働く可能性が高いです。
結論:新たな流動性の可能性
ここまで述べたことを振り返ってみれば、レポ残高がほぼ空になっているという現在のマイナス材料も、新しいステーブルコインという存在によって相殺されてしまう可能性があるのではないでしょうか。
重要なポイント:
- 新たな流動性が生まれる - GENIUS法により大手金融機関がステーブルコイン市場に本格参入
- 暗号通貨に還流しやすい - ステーブルコインは主に暗号通貨取引所で使用される
- BTCは上昇継続となる可能性 - 暗号市場への新たな資金流入が期待される
- Repo残高の払底で必ずしも調整が長引かない - 従来の流動性源の枯渇が新しい流動性源で補われる可能性
おそらくしばらくすれば、従来の流動性源であったリバースレポ残高の枯渇により、リスク資産の上昇に陰りが見えるのではないかという懸念が市場から出てくると考えます。
しかし、米国のGENIUS法成立を機に、ステーブルコインが新たなドル流動性の供給源として台頭する可能性もまた見えてきています。
これは従来の金融システムでは想定していなかった、新しい流動性の創造メカニズムかもしれません。
もちろん、これらは一つの可能性に過ぎません。未来は不確実であり、予想とは異なる展開もあり得るでしょう。
しかし、これらの動きが市場にどのような影響を与えるのか、注意深く観察していく価値は十分にあると思います。
新しい時代の金融インフラが、既存の経済サイクルにどのような変化をもたらすのか、その結果がどのようなものであれ、私たちはその展開をみ続けるしかありません。
個人的には法定通貨が終わりに向かって加速し始めているだけのようにも見えますが、、、
さてこの先、どうなるか、お手並み拝見と行きましょう。
引き続き、ハッピー・ビットコイン!
ココスタ 佐々木徹
次の記事
読者になる
一緒に新しい世界を探求していきましょう。
ディスカッション