ビットコインのマイニングの話をする上で、電力源の検討は外せません。ASICが消費する電力を安く入手するためには、エネルギーの需給が崩れている土地・環境を見つける必要があります。そしてその環境は大規模な設備投資が難しい僻地や、土地の限られた施設内にあることも多いでしょう。

今回の記事は、"Ohmm"というコンテナ型のマイニングファームを製造・販売するUpstream Data社の取り組みと、彼らが有望な電力源の1つとしているストランデッドガス田の収益化が可能か見ていきます。

ストランデッドガス田とは

天然ガスは液体である石油と比べて保管・輸送にコストがかかるため、採算が取れないガス田は多く存在し、推定で地球上の天然ガスの埋蔵量の1/3は「ストランデッドガス田」と呼ばれる、現在の需要では開発が現実的でない場所に埋蔵されていると言われます。

天然ガスの輸送は主にパイプラインか、冷却・加圧する液化プラントと液化天然ガス専用のタンカーの組み合わせで行われており、採算を取るにあたって「消費地からの距離」が非常に大きな要素となります。例えば近距離であればパイプラインにつないで直接発電所などに送ることができ、日本国内にも述べ数百キロの天然ガスパイプラインが存在します。

ストランデッドガス田の収益化を目指す既存のソリューションの1つは、GTLプラントという天然ガス用の製油所のような施設をガス田に建設し、天然ガスを原料とする燃油等を生産して消費地へ輸送することで、天然ガス輸送用のインフラ整備を最低限に留めることができるというものでした。

しかし、それでもGTLプラント自体への投資が必要であり、消費地への距離が縮まるわけではないので、適用できるガス田は限られています。

以前、研究所のコラムで石油の副産物として通常焼却される天然ガスをマイニングに使う動きがあると説明しましたが、副産物程度の量しか出ない天然ガスのために保管、輸送、もしくは加工インフラを整えるコストの高さがイメージできたでしょうか。しかし一方でこの副産物はコストをかけて処分する必要があります。
ストランデッドガス田は市況の変化などで開発後に閉鎖される場合を除き、単純に採算が取れるまでそもそも採掘されることのない資源です。
OHMMシリーズの詳細と収益化

コンテナ型のマイニングファームを製造する会社はいくつかありますが、一番有名なUpstream Data社のOhmmシリーズというプロダクトを見ていきます。(Ohmm Hash Generatorという中位モデルはYouTubeで実物が見られます)

電力源として、Ohmmには天然ガスを消費する発電機モジュールがオプションとして提供されていることからも、ストランデッドガス田や原油の副産物として燃やされるだけだった天然ガスを利用したマイニング市場がターゲットだということがよくわかります。Upstream Data社長のツイッターにも、そのような環境にOhmmを納品した写真が並んでいます。
実際にウェブサイトを見ると、「Ohmmを使うことで、収益を生まないのに設備投資を必要とする厄介な天然ガスを処理できる上に、収益化できる」ことを売りにしています。

値段は非公表で、現在は主に既存の石油・天然ガス企業への販売が中心のようですが、中型モデルであるHash Generatorが中身のASIC別売りで発電機付き数百万円といったところでしょうか。
発電能力は最大400kWなので、現在のビットコイン価格とハッシュレートを元に計算すると、値崩れしているAntminer S9で埋めれば毎日380ドル、その3倍以上電力効率の高い最新鋭のAntminer S19+で埋めれば毎日1330ドル以上の収入が見込めます

電気代を無料としてもASICの値段が高く、初期投資の回収に少なくとも1年ほどかかる見込みとなります。おそらく、石油会社相手には「天然ガスを処分するためにかかるコストを削減する」というアピールがここで効いてくるのでしょう。ストランデッドガス田の開発に関しては、このメリットはあまり効きません。
もしくは、設置した事業者は安価な電力とASICの設置場所だけを提供するデータセンター形態にして、ASICの所有はエンドユーザーに任せれば初期投資を下げ、法定通貨建て収入を簡単に安定させることはできそうです。

環境負荷に関しては、小規模な油田やパイプラインの繋ぎ目などで大気中に放出される予定だった天然ガスを燃焼する場合はむしろ軽減につながり、大規模な油田で燃焼される予定だった場合は変わらず、新たに天然ガスを採掘する場合は通常の化石燃料の燃焼と同じ影響(※輸送コスト分は軽減)だと考えられます。

ガス田・油田以外での活用

Ohmmが1つのユースケースとしているストランデッドガス田の収益化は、既存の市場では投資価値のないエネルギー源を活用するという本質が、四川省の過剰な水力発電の活用や、一部地域に偏在して過剰供給となっている再生可能エネルギーを利用したマイニングと同様のものです。

そういった点で、コンテナ型マイニングファームは小水力、潮力などを活用するのにも適しているかもしれません。特に日本の山間部には小水力発電に適した沢などが多くあり、そのような場所でOhmmのようなコンテナ型マイニングファームを1個~数個運用できる可能性は大いにあります。

ただし日本の場合は電力の固定価格買取制度(FIT)があるため、収益性でFITによる売電より高くなるか、FITが廃止されてからになるとは思います。

また、コンテナ型のマイニングファームは移設が比較的簡単なため、そのような事業者の採算性が変化した場合に売却して撤退しやすくなるかもしれません。

ただ、コストカットのメリットがある分、エネルギー源である天然ガスをコストをかけながら利用せずに処分している石油会社等での導入が一番有利であり、今後のハッシュレートの伸びに石油会社が絡んでくる可能性が高いと考えられます。

まとめ

Upstream Data社のOhmmシリーズのような、簡単に設置・稼働できるコンテナ型マイニングファームは、特にコストを削減しながら副産物の天然ガスを収益化したい石油会社にとって魅力的な商品となっている模様です。

ストランデッドガス田を含む他の電力源においても当然活用できるものではありますが、コストカットのメリットが受けられる石油会社等が一番有利に導入できることは明らかです。(マイニング全般について言えるでしょう。)

したがって、コンテナ型マイニングファームが僻地の新たな電力源を開発するのに役に立つ以上のペースで、これから数年かけて石油業界などに簡単に導入できるソリューションとして広まっていくのではないでしょうか。